春から冬まで 1
其の弐
朝餉が終われば少し休憩したのち、何人か(いや、何本か)の刀剣男子達は戦へ行くことになっている。
今日行くのは第一部隊。清光と安定は第二部隊なので、今日は休みだ。二人の間では、休み中に手合わせをすることが暗黙
の了解となっている。
「ねぇ、清光。やるんじゃないの?」
安定は持っていた刀の、背の部分を己の肩に軽く打ちつけながら、自身の髪を結っている清光を見て、呆れたようにいった。
「ごめん、あと少し」
「・・・はぁ・・」
焼けるような陽射しの中、燦々と地に光を与える太陽を睨みつける。そのあまりの眩しさに、安定はその目を細めた。
「用意できたよ。・・・何してんの?」
部屋から出てきた清光が、太陽とにらめっこしている安定に呼びかける。
「・・・遅い。」
清光に気がついたのか、安定は、ようやく太陽から目を離した。
「よーし、やるか!」
「人のこと無視するなよ。」
・・
「っはぁ・・・」
「とりあえずここまでかな。」
互いに刀を下ろす。
近くにあった手ぬぐいを手に取り、滝のように流れる汗を拭いた。
しばらくの沈黙の中、清光の「あっ」という声が中庭に響いた。
「髪留め、切れちゃった・・・」
その髪留めとは、主が買ってくれたもの。可愛いから、という理由でわざわざお揃いにまでしてくれた。
安定は気づいた。
その清光の寂しそうな顔は、折角の主からの贈り物なのに切ってしまったから・・・?と。
ズキン、と先ほどよりも強く、そして鋭い痛みが安定を襲う。
主の事だけで、こんなにも悲しそうに、こんなにも嬉しそうにしている清光を見ているのが辛かった。
今にでも皮膚と皮膚とがくっついてしまいそうなほどにカラカラになった喉の奥から発せられた唯一の言葉は、こうだった。
「お店行って、新しいの買おっか。」
あまりもの強い陽射しに、安定はたちくらみを覚えた。
今安定は、崩れた化粧を直しにいった清光を待っている。
涼しい日陰の下、お茶を飲みながら。
風呂にも入ったし、お茶を淹れる時間さえあった。
いくらなんでも遅すぎな気がする。
イライラが溜まり始めた安定は、自室でもある、清光のいる部屋へを足を向かわせた。