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ぼくと君とキミ

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北海道で再会した彼は冷たくなった手にあのボールを持っていた。一面を覆う白の中で、彼は一人でボールを見ていた。
そして俺はその手を握ってやりたくて、一緒にサッカーをするのは楽しいと教えたくて。ボールを蹴りながら少しずつ笑顔を見せるようになったレーゼに俺はただ嬉しいと感じた。
仲間になってどんなに時間が過ぎてもレーゼは俺が最初に渡したボールを放さなかった。練習のときはそれ以外使わないし、間違えて回収されたときには必死になって探していた。

「これは円堂守、お前が初めて我にくれたものだ」
「我はお前からたくさんのものを貰った。これがその最初だろう」

理由を聞くと真顔でそんなことを言うのだからこちらはすごく照れてしまったのを覚えている。そして他のボールに混じっても絶対に分かるように、と俺とレーゼはそのボールに小さく目印を書いた。それを見て小さく笑ったレーゼは俺たちと同じ年くらいに見えて少し驚いた。
だったらずっとこのボールで一緒にサッカーしようぜ、なんて笑顔で言うとレーゼも微笑を返してくれて、俺は本当にそれができると思っていたのに。



エイリア学園の正体が分かり、最終決戦が終わった後レーゼは引き取られることになった。元々は普通の人間、記憶を戻してまた昔のような生活に戻れるだろうと。俺はもちろんそれを聞いて喜んだ。レーゼが人間で記憶が戻るなんて本当に良かったじゃないかなんてレーゼに飛び付いて笑った。
でも、一つだけ注意があると言われたことは俺にとって、いやレーゼと一緒に戦って彼をすでに仲間と認めていたメンバーにとっては辛いことだった。

「記憶を取り戻したら、失っていた期間のことは忘れてしまうかもしれない」

その言葉にレーゼは驚愕の表情で固まっていた。そうだ、彼にとっては今現在の自身が消えると言われているようなものなのだから。でもレーゼは記憶を取り戻すことを選んだ。お前ともっと楽しくサッカーがしたいと不器用に笑ったレーゼを見て俺はダメだと思いながら泣いてしまった。

「レーゼ!絶対、絶対に俺たちのこと忘れんなよ!約束だ!」
「円堂守…次に会って我が本当の名前を思い出したらそれで呼んでほしい。そしてまたサッカーがしたい」

別れのとき、彼はサッカーボールをしっかりと持っていた。大切に持っているからと、それを抱きしめて車に乗っていってしまったのだ。遠ざかる車に向かって名前を叫ぼうかと思ったが、俺は彼の「名前」を知らなかった。だからただ俺はその車を見送って少し涙を流すことしか出来なかった。

作品名:ぼくと君とキミ 作家名:にぶ