機動戦士Oガンダム
後ろから彼女の全力の蹴りが入った。無重力じゃなかったら尾?骨が砕けていることだろう。
グランの搭乗したジム・セークヴァがカタパルトデッキへ入り、出撃の態勢に入る。
「グラン・マックイーン、ジム・セークヴァ、出る!」
戦場に新たな戦力が加わった。その時、カタパルトデッキからモビルスーツデッキに流れる影があった。
「ふぅ〜…さて、後はこっちで・・・ん?」オリガはノーマルスーツを着た『生身』の人間の姿を捉えた。「・・・・・・・は?」
ハッチを閉めようにももう遅く、とりあえずの手段として銃を構えた。
「あ、艦長・・・えーっと・・・敵の侵入を許してしまいました。すんません」
「敵が侵入!?」
オスカーが眼鏡の奥から素っ頓狂な声を出した。メカニック班からの通信を受けた彼ら、ジョブ・ジョン、オスカ、マーカーは何とか状況を整理していた。
≪はい、ジオンのノーマルスーツを着た人間が一人侵入してきまして・・・≫
「ん?一人?」<改ページ>
一人で白兵戦でもしようものならそれはただの自殺行為でしかない。休戦か?なら信号をあげるなりすれば済むことである。わざわざ生身の特攻をする意味はない。侵入者は何をしに来たのか皆目見当がつかなかった。
「装備は?」
≪一応銃は持ってるみたいですが・・・動く気配がありません≫
「・・・・・死んでるのか?」
≪確認してみます≫
「どちらにしろ独房にぶちこんどけ」
その時、Z Mk-?から回線が入った。≪ごめんなさい!≫
「ど、どうした!?」
≪いま敵機と交戦中だったんですけどパイロットが脱出してアーガマにっ・・・!≫
あいつか・・・
とオスカ、マーカー、ジョブ・ジョンの三人は一字一句違わず頷いた。
苦し紛れの末にパニックを起こした故の侵入であろうことは想像に容易い。とりあえずは放置しても問題はないだろう。
「ん?いま敵機と交戦中って言ったよな?」ジョブ・ジョンが何かを思いついた。
≪は、はい!≫
「とりあえずそれカタパルトからデッキに入れてくれ!ジムとパーツを換装させてもう一機出す!」≪了解!≫
メカニックのオリガがこれを聞いた暁には、真っ先にメインブリッジに首を絞めに向かうだろう。
「・・・・・・了解」
ところが意外にもオリガは素直にこれを受け入れ、煙草に火をつけ何もせず5分ほど経過した。
「パーツの換装終わりました」
≠
「あれ〜?なんか増えてるよー?」エヴァだ。
ガ・ゾウムから射出したミサイルの軌道を目で追っていると、敵艦のあたりに新たな敵機体が出現していた。
「撃った方がいいのかなぁ」と眺めているとその新機体、ジム・セークヴァがこちらに狙いを定めた。
「ひっ!」と子ネズミのような悲鳴を上げながら照準を合わせビームガンを放つも、クモの糸を潜り抜けるように迫ってきた。
「こっちのもんなんだよ・・・あん中じゃなけりゃなあ!!」<改ページ>
カピラバストゥ・コロニーの慣性から解放されたグランは蝶のように舞い蜂のように刺す旧世紀のボクサーの如く体の自由を取り戻していた。
「ひぃっ!」
射撃を得意とする彼女はロールアウトされたばかりの試作機であるガ・ゾウムでの接近戦に耐え難い物があった。思わずもう一人のガ・ゾウム乗りに助けを乞うも・・・
「ほれほれぇ!接近戦ならこっちが上だからね!!」
マイクロ・アーガマを挟んだその反対側で、Z Mk-?と衝突していた。クシナの駆るZ Mk-?は軽く戦闘狂染みながらビームサーベルを敵機に叩きつけていた。
もう一人のガ・ゾウムのパイロット、迫水は自身のビームサーベルを盾に申し訳程度の抵抗をさせられている。
「・・・こんのやろぉ〜ガンダムだからって調子に乗りやがって」
エヴァからの通信に応える余裕は無く、連撃を凌ぐ度に迫水は苛立ちを募らせじわじわとボルテージを上げていた。
これだけ馬鹿みたいに振り回していれば隙というものは必ずできる、と言ってもすでにほとんど隙だらけの状態ではあるのだが一矢を報いるにはまだ十分な余裕はなかった。
真っ向勝負は不可能と思ったエヴァは機体をモビルアーマー形態に変形させ、背後から飛んでいくビームを眺めながら敵機と距離をとっていた。その先に
「助けてぇ〜!!」
「えぇっ!?ちょっ!ちょっと!!」
ギュンターの駆るプロトR・ジャジャの姿があった。先ほどアウターと交戦したものの、迫りくるミサイルの雨を東條に撃ち落してもらい結果としては死なずに済んでいた。
アウターを東條のべルドルフと挟み撃ちにしようとしていたところに敵機に追われるエヴァ機が突っ込んできたのでそうもいかなくなった。
エヴァと共にジム・セークヴァを相手にすることとなってしまった。
「ちぃっ!」
いつのまにか2対1の状況になってしまったグランは追撃を止め、相手の様子を伺うことにした。
ジム・セークヴァ
連邦軍の主力機の名を冠し、エスペラント語でNextを意味する“Sekva”とつけられたこの機体は、次期主力機開発競争の中でロールアウトされた物である。<改ページ>
しかし敵機も次期モビルスーツの試作型であり、機動力は互角と見える。それが二機もいるのだから侮ってはこちらが撃墜されてしまうだろう。下手に手出しはできない。
「こちらグラン、クシナ、聞こえるか」
≪このっ!このっ!!このぉっ!!!≫
彼女は絶賛交戦中の様だった。それもかなり一方的な。
「ちっ」
再び舌打ちし、正面の白い白兵戦型機と黒い射撃型機という正反対の機体を睨む。完全に弱点をカバーしあえる二機を相手にしては易々と手出しはできない。
お互い新型同士という点からか、場は膠着状態に入っていた。
さて、どう戦う
向かって右側、黒い射撃型がゆらりと両肩のウェポンユニットをこちらに向け、ミサイルを放つ
かに見えた刹那、白い白兵戦機がビームサーベルを構え、上半身を前のめりにし“突き”の姿勢で迫ってきた!
「なっ!?」
回避運動に移ろうとすると、ガ・ゾウムに機体を掴まれ動きを封じられてしまった。
『こいつ、心中する気か!?』
と思えばホールドが解かれ、ガクンッと背後から衝撃が襲った。
ガ・ゾウムがジム・セークヴァを背後から思いっきり蹴り、前へ押し出したのだ。
サーベルの先端が迫り、コックピット内に光が広がってゆく。後コンマ数秒でグランの身体は宇宙の海に溶けていく
事はなかった
白い騎士はいつの間にか姿を消していた。前面には雄大な宇宙が広がっているだけで、遠くに小さな光が瞬いていた。
呆気にとられていると、再び右肩をガシィンと掴まれ
≪よう≫
青紫にピンク色の機体からニロンの声がした。彼がプロトR・ジャジャを蹴り飛ばしていた。
<改ページ>
タロは敵部隊隊長、東條と交戦中であった。
べルドルフの180mm電磁砲から射出されるルナチタニウムニードル弾を避けながら距離を詰める。しかし蜂のように舞いながら針を撃ち込んでくる相手だ、そうそう懐に入らせてはくれまい。