機動戦士Oガンダム
「どーだぁ?なんかわかったか〜?」
少年の瞳がさらに青くなった時、モビルスーツデッキにジョブ・ジョンの声が響いた。
オリガは「造るとこと戦うところは違う。今はそれだけ覚えておきな」と言い残しジョブ・ジョンに振り返った。
「あ、はーい。結構ややこしいことがわかりました」<改ページ>
「ややこしい事?」
オリガとジョブ・ジョンの話はタロの耳に届かず、彼女に言われたことが頭を駆け巡っており、彼らを見る青い眼光が鋭くなっていった。
「オリガさんっ!あっ艦長っ!」フィアが小さな体で大きく敬礼をしたのが微笑ましく見え、タロの表情筋は和らいだ。
「やぁ、そんなかしこまらなくていいぞ。で、何か見つかったのかい?」
ジョブ・ジョンもよい子を相手にするように身をかがませていた。
「は、はい!コックピットに文字がっ」
「よし、俺も見よう」
アウターへ身を近づけていくと、彼は愕然とした。「・・・・・なんだよこりゃあ」
剥き出しになった中身をよく見れば、油圧パイプやラジエーターなどの機械構造中に無数のファイバーが血管のように張り巡らされていた。
それを辿っていくと、そのすべてがコックピットから冬虫夏草の様に突き破り出ている。そしてそのコックピットの外殻に、文字が書かれていた。
Strategic Tactics Research Institute and ROM
「S.T.R.I・・・戦略戦術研究所なら連邦政府の下請け企業だったはず・・・しかしアンドロムってのは・・・・・・」
オリガが外殻に書かれていた文字を読み上げる。ジョブ・ジョンの中でやがて一つの仮説が組み上がった。
「タロ君。ちょっとこいつのテストしてみようか」
「テスト?」
「うん。とりあえずコックピットに入っていてくれ」
そして
「おーい!今からカタパルトハッチ開けんぞー!」
「いや、ちょっと待っててくれ」
彼がデッキを出て行き、取り残されたタロとメカニック班は、なんだか手持無沙汰になってしまった。
「あの、テストって何するんですか?」
「宇宙(そと)出て模擬戦でもするかと思ったんだけど」
「もぎせん?」<改ページ>
「そ、ペイント弾使ってね。でもなんか違うみたいね」
いまいち何が始まるのかわかってない両者のもとに艦長兼メカニックの男が何やら有り余るほどの機器を手にして舞い戻ってきた。いくつもの大きめの金属でできた板挟みのような物があり、なんとも大荷物である。
「それは・・・?」
「これをそのよくわからないファイバーに取り付けてくれ」
「は、はい!」
メカニック班がアウターの周りを取り囲み、血管のようなファイバーに次々とコードを取り付けている間、ジョブ・ジョンはモニターを起動させていた。
「よし!タロ君、まずアウターを少し動かしてくれ」あらかた適当に取り付けられ、彼の言葉に従うようにアウターが起動した。
「えーっと…何をすれば・・・」
「そうだな、まず軽く動かしてみてくれ、手とか。あと外部スピーカーに切り替えて!」
「はい」タロの声がデッキ内に響く。「動かします。離れてください」
アウターの右アームが上がり、掴むようにマニピュレーターを動かした。
ジョブ・ジョンの眺めるモニターには、ファイバーに取り付けられた電極からワイヤレスで受信した信号がグラフで表示されていた。
しかし、そのグラフに然したる変化は見られない。
「これ何です?」変化のないグラフに首をかしげていると、背後からオリガもモニターを見ていた。
「簡単な電極を取り付けたんだ。アウターが動いたらなんかわかると思ったんだけどなぁ・・・・・やっぱ模擬戦しかないか」
≠
独房室。その中で眠っていた男が目を覚ました。
「んっ・・・と・・・・・ここ・・・は?あたッ!」
顔の右半分に鈍痛が走り、気を失う前の光景が脳内にフラッシュバックした。「そうだ・・・パトリシア・・・!早く、連れ戻さないと」
<改ページ>
「んっ・・・」
ファナが目を開けると、香ばしい匂いが漂ってきた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
体を起こすと8時を示す時計が目に入った。
「あ、おはようっ!よく眠れた?」
寝ぼけまなこを擦りながら寝室を出てリビングへ向かうと、すっかり回復したリモーネの声が耳に朝を告げる。
「あ・・・おはようございます。」
「コーヒー淹れちゃったんだけど大丈夫かな?」
リモーネの元気な声が目覚ましのベルの様に室内を駆け巡る。
「・・・あれ?」
昨日はいつのまにかソファに寄りかかったまま寝てしまっていた。そんなファナを運んだのは
「あっ・・・だめ…だった?」キッチンに立って目を潤ませている彼女だろう。
「ううん、ありがとう!」
ファナはわずかに悲しげに微笑んだ。
「よかったー!パンと昨日の残ってるのどっちにしようかなぁ・・・」彼女は次の問題に勝手に直面していた。朝から忙しい人だ。「パンにしよっかな!」
食卓にパンとコーヒーが上り、くすんだ朝のひかりが2人を照らす。
「ここはいいところだねぇ」
リモーネはパンをかじりコーヒーを一口すすってやっと落ち着いたのか、窓の外を見つめながらそう言った。
「ここが・・・ですか?」
「うん、ここはいいなぁ」
窓の向こうの砂塵の舞う景色を見ながら、彼女は穏やかな表情になっていた。「あ、あの・・・」
「ねえ!あとで買い物いこっ!」
「あ、買い物だったら私が」
「ううん!一人だと危ないでしょ?だから一緒に行こっ」
「・・・う、うん」
彼女の目を見れば聞くべきことを聞けず、ただ時間だけが過ぎていった。