機動戦士Oガンダム
二人は暑さをしのぐためとある店の前にいた。
「コロニーなんだからもうちょっと涼しくてもいいのに、バカになってるのかしら?」と愚痴を漏らしながらクシナはシャーベットを選んでいる。<改ページ>
「ご注文は?」妙齢な店員が顔を出した。
「ブルーハワイ一つ!あとは〜…どれ?」
「どれでもいいや」
「じゃあ二つ!カードで!」
「カード?」
「いちいち両替面倒だもん」新サイド5は今でも独自の通貨を流通させているのだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとっ!はい!」
タロは差し出されたブルーハワイシャーベットに目を疑った。スラム街でもこのような真っ青な食べ物はなかった。
「毒じゃないよな?」
「あたりまえでしょ、んーおいしっ!」
クシナがシャーベットをひとすくい食べたのを見て、タロも舌の上に転がした。シャーベットが舌を冷やし、通りに吹くコロニーの風と共にタロの火照った体を冷ましてゆく。
そうして清涼感を味わいながら歩いていると、タロの興味は別の建物へ移った。
「何だここ?」
「なに?ゲームセンター行きたいの?」
店に入り外の熱さから逃れると、ガチャガチャとあらゆるサウンドが鼓膜を叩きつけた。そんな中、クシナの心は一瞬で妙な形のぬいぐるみに釘付けになっていた。
「わーかわいい!これほしい!」
「・・・なにこれ」
UFOキャッチャーの中にあるそのぬいぐるみは変わった形をしており、2頭身の身体に、宇宙服のメットのようなデカい頭部から髪の毛のように6本の白い束が生えていた。
「で、これをどうすんの?」
と言ってる間にクシナはマネーカードをタッチして操縦桿を握りUFOを動かしていた。
獲物の頭上ぴったりにUFOを止め、アームを開いて降下させる。
「よし、そのままそのまま…」
4本のアームががっしりと獲物をつかむ。
「いけいけいけいけいけ!」<改ページ>
引き上げる
4本のアームは嘘のように力を失ってぬいぐるみを落としてしまった。
「あ〜もうっアーム弱すぎ!!もう一回!!!」
UFOはまたしても標的を捉え、パラシュート部隊の様に降下していく。しかしやはり引き上げる際にアームの力が抜けてしまい、ぬいぐるみはうつ伏せになった。
「なんでそこでぇ・・・っ!もう一回!!」なんとしても取らないと収まらない怒りと共にカードを叩きつけると
「ちょっとやってみていい?」タロがさらっと操縦桿を握った。「こうすれば取れるんじゃないかって思ってさ」
ところがUFOは先ほどの標的からは的外れなところで止まり「ちょっと」
そのまま降下していった。
「・・・・・なにしてんの下手くそ」
「いや、これでいけると思う」
呆れるクシナをよそにUFOはアームを全開にして降下していった。案の定、アームは標的の本体を捉える事はなく着地した。「・・・・・・・・・」
「ここ」タロがアームの一本を指差すとタグが引っかかっていた。「ここ引っかけたら行けるんじゃないかって思ってさ」
UFOの浮上が始まるとぬいぐるみはタグにつられ徐々に逆立ちの態勢に、やがて宙吊りとなり振り子のように振られながらダクト上へ迫ると、反動によってタグと共に一気にアームを滑り降りた。
「あぁっ!!」
またしても失敗に終わったかと思ったその時、開いてゆくアームがタグを誘導し、コロニーの僅かな慣性も相まって軌道を描き、ぬいぐるみはダクトの中へと吸い込まれて景品取り出し口へ転がった。
「な?引っ掛けりゃ大体盗れるんだ」
タロは人型ということ以外なんの形かよくわからないぬいぐるみを360°隅々回し見ると、タグに『抱きしめキンゲくん』と書かれていた。
「はい」
「えっ?!」
「欲しいって言ってたし」
「あ…う、うん・・・・ありがと」<改ページ>
クシナはキンゲくんをうけとると、頬を少し赤らめながら文字通り抱きしめた。しかしこの御代は彼女自身が出しているのを忘れていた。
二人はその後もシューティングゲームや昆虫人型メカの対戦ゲームなどを遊びつくしてゲームセンターを出た。
「あれ?」
「どしたの?」
「あれ」
タロが指を指した大通りの向こう、行きかうエレカの間から、細い路地に入ってゆくオリガとグランの姿を捉えた。
「どこ行くんだろ?」
「さぁね」クシナにはそれがどういうことかの察しはついていたのでその話をスルーした。
「俺達もいくか」
「ばっ・・・いくわけないでしょ!あーいうのはほっとくものなの!あぁいうのはほら、そういう関係の二人が・・・あ〜、ほら!あっちに行こ!」
クシナはタロの注意を通りの先の映画館へと逸らした。
「ん〜・・・」
勢いで映画館に来たはいいものの、どれを見るか中々決まらずにいた。
「あお、き、ウル・・・おうりつ、うちゅう・・・」クシナが悩んでいるその横で、タロは上映中のタイトルをただ読んでいた。
「決めた!これ2名ください!」
クシナが選んだのは『シャークレシア』というタイトルだった。内容はサメの細胞とラフレシアの細胞を合成して生み出された不明生物が密林で暴れまわるというものだった。
≠
マイクロ・アーガマの停泊している港のドックで、連邦軍基地から派遣された整備士が修理や物資の補給などを行っていた。
「しかし、こんだけしかいないとはなぁ・・・」
艦長とオペレーターの3人は、艦の外からその様子を見下ろしていた。
派遣されてきた整備士は5人しかおらず、いくら小型艦と言えどこれで整備できるのかジョブ・ジョンは疑問だった。<改ページ>
「仕方ないんじゃないですか?今はネオ・ジオンが見ているかもしれないし」
「それに中立ですからねぇ」マーカーの後にオスカーが続いた。係員の一人が彼らのもとに上って来た。
「すいません、整備士がモビルスーツデッキに行きたいとのことですが、よろしいですか?」
「あぁどうぞ、こちらのメカニックも数人いますのでよろしくお願いします」
すると、ジョブ・ジョンは何かを忘れていたことに気が付いた。
「あの、身柄引き渡しの件なんですけど・・・あれ?」
「はい?」
「いや・・・主任の方はどちらに?」
「あぁ、主任は今別の方をあたっておりまして」
「そうですか・・・ご苦労様です」
ジョブ・ジョンの第六感がうっすらと違和感を告げていた。もっとも彼はニュータイプではないが。
「今のやつ・・・いつからいたんだ?」
≠
夕刻、コロニーに入る光量も少なくなり、街には『新世界より』第2楽章が流れていた。
「せんせーさよーならー!」
「気をつけて帰れよー!」
夕日を背に浴びて帰ってゆく子供たちを見送りながら一日の終わりを感じる、それが学校の先生である彼の日課でもあった。
『俺がこれくらいの頃はもっとやんちゃだったけどなぁ』などと物思いに耽っていると
「あのぉ〜、すみません」若い、そんなに年の変わらない褐色の女性が目の前にいた。「大通りに出たいんですけど、迷っちゃって・・・」
「それならこの道の3ブロック先を右に曲がっていけば出られますよ」