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なかのあずま
なかのあずま
novelistID. 54195
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機動戦士Oガンダム

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 それに、シャアの話したことよりも、彼から感じ取った物が遥かに大きく重い。それを今のタロ自身にはうまく言葉にはできないし、とにかく話せることではない。
 「・・・・・話すことなんて何もありません」
 そう答えるタロの姿を見て誰が首を縦に振るだろうか。ところがジョブ・ジョンは「そうか」と残念そうに肩を落とした。
 「ところで、よくこれを動かせたね?」沈んだ空気を一掃するかのように話題を変え、彼は親指でクイっとアウターを指した。「大変だったろ?」
「え?別にそんなことは」
 途端、ジョブ・ジョンはニヤリと口をゆがめた。タロは墓穴を掘ってしまったことに気付いた。
 「やはり君は・・・」その後は言わなかったがタロにはわかった。「まぁ、いきなり会って昔話はしたくはないけどね。ちょっと聞いてくれ」<改ページ>
 と前置きしてジョブ・ジョンは続けた。
 「僕はかつて、一年戦争の時ね、ホワイトベースという艦にいたんだ。ここのオペレーターのオスカとマーカーと一緒にね。
 開戦してから連邦の戦力はあっという間にジオンに削られていった。なにせ連邦は技術力でジオンに劣っていたからね。
 このまま負けてしまうんじゃないかと思いながら8ヶ月が過ぎたころ、ぼくらホワイトベース隊は一人の少年に会った。

 軍人じゃなくて、本当にただの少年だった。

いや、ただの少年ではなかったな。
 その少年はね、当時の最新兵器、ガンダムに乗って自分の手足のように動かして・・・
いきなり敵のザクを撃破したんだ。彼はそのまま僕らの隊に入って、ガンダムで戦況をひっくり返していった。今思い出しても化物だったよ、敵じゃなくてよかったと今でも思う」
 タロは何も言い返さずただ聞いていた。
 「名前をアムロ・レイっていってね、丁度君くらいの年だったよ。戦況が良くなるにつれて彼の噂は広まっていって、いつからかニュータイプではないかっていわれるようになったんだ。
 彼はそれからもガンダムで敵機を墜としていって、気が付けば地球連邦は戦争に勝っていた。
 そして、つい最近もそんなことがあったんだ。これは聞いた話だけど、再びニュータイプの少年がガンダムに乗って勝利を導いた。こういう言い方は大人がするべきじゃないんだけど・・・君が偶然にもガンダムに乗っていたということは」
「俺がニュータイプだからって協力はしませんよ」
ジョブ・ジョンの話がひと段落する直前、タロは彼の目を捉えて遮った。
 彼の中には撃破した時の感触が残っている、人の死の感触など決して良いモノではない。それを幾度となく繰り返すことになれば、彼はいつか破綻してしまうだろう。
 それに、ファナの存在もあった。
 「えー、ここまで来たのに来ないのー?」クシナがつまらなそうに言った。
「まぁいいじゃねぇか、やりたくねぇっつってんだからよ。荷物に用はねぇや」<改ページ>
 「・・・・あ?」耳を掻きながら言うグランの姿がタロの忌諱に触れた。「あんたさっきからなんだよ?一々突っかかってきてさ」
「うるせぇなぁ、糞ガキは家でしょんべんと鼻水垂らしてりゃいいんだよ」
「耳糞より鼻くそほじった方がいいんじゃないの?おっさん」
「あぁ?てめぇいい加減にしろよ!」
 「おぉっと!はいそこまで!」今にも殴り合いが始まりそうな二人の間に艦長自らが止めに入った。「いいかい、とにかく君はニュータイプ!そしてシャアに会った!二つも揃った君が我々にとってどれだけ重要な人間かわかるかい?」
 その時、唐突にシャアの言葉が脳裏をよぎった。

 『一度、地球へ行ってみるといい』
 『君なら重力に魂を引かれている人間を視る事ができるはずだ』
 『このコロニーに連邦の舟が来ている・・・・・行け!』

「・・・・わかった、話すよ・・・」
 タロはシャアに会ったこと、そこにハマーンの弟がいたこと、
そして、ニュータイプである自分が魁になるためにガンダムを託されたことを話した。
「なるほど、ジオンも一枚岩ではないな・・・」
 タロの話から状況は想像以上に深刻であると窺うことが出来た。シャア・アズナブルだけでなく、今ネオ・ジオンを実質的に率いているハマーン・カーンの名前が出てきた。
 しかも聞いたことのない弟の存在である。
 「ハマーンの父親はかつてアクシズを率いていたマハラジャだったはず…彼に隠し子がいたのか?そういえば地球圏でも不可解なことが起きてるらしいし・・・」
 「あの、重力に魂を引かれているって・・・なんだと思います?」
 ジョブ・ジョンが真剣な面持ちでぶつぶつと考えに耽っているところにタロが口を開いた。
 「は・・・・?なんだって?重力に?」彼が突然言ったことは遠く理解が及ばない表現だった。
 「魂です。あの人が…シャアって人が俺に言ったんですよ。地球へ行けば重力に魂を引かれている人間を見ることが出来るはずだって」
 「それは〜・・・たぶん君にしかわからない事なんじゃないかな」ジョブ・ジョンはタロに、そして自分自身に納得がいくように言葉を選んだ。<改ページ>
「俺にしか・・・」
 「そう、こういう言い方は嫌かもしれないけど、それはニュータイプである君に対しての言葉だよ。だから俺たちがわかることじゃないな」
 僅かに嘘をついた。自分なりの見当はついているが、それが本来の意味合いとして正しいかは別である。だから僅かな嘘なのだ。
「ま、タロくんが地球へ行きたいってんなら連れてってやるぞ!」
 タロの中で、戦争に対する憎悪、シャアに植え付けられた好奇心、そしてファナを守る使命感が渦巻いていた。
 「えっと、あの…妹がいるんです。でも連れていくよりかはここにいた方がいいような気もするし・・・・・すこし、時間ください」
 タロはクシナに居住スペースの個室へと案内されていった。

                    ≠

 その1時間ほど前に、コロニーから『Space Supplies Delivery』と書かれた高速補給艦が飛び立ち、小惑星アリエスへ向かっていた。
 中にはシャアとカーン・Jr、彼の部下のウィノナ、G・ザックのパイロット2名、そしてもう一人の男が搭乗していた。
 「さて…アウターの奪還に失敗した挙句貴重な兵を一人失ったわけだが」
 沸々と業を煮やすカーン・Jr.にシャアは「すまなかった」とだけ言うと「・・・まだまだ私も若いな」と誰に言うわけでもなく呟いた。
 「・・・・・それはさておき、今回はよく協力してくれたなジェノバ、感謝する」
 カーン・Jrに礼を言われた男が「いえいえ、仕事ですから」と笑うとシャアは既にこの男を知っている様であった。
 「私からも礼を言う。それにしても忙しい男だな、君も」
「彼を知っているのか?」
 「なぁに、ある人を匿ってもらっただけさ。ところでアリエスまでどのくらいだ?」
「この艦じゃ2週間くらいだ」
 「そうか」
 それまでしばしの休息――――――――――
<改ページ>
 ジョブ・ジョンはこの一件を恩師のブライトに伝えるか迷っていた。タロが嘘偽りなく言っていたとしてもシャアがいたという確証がない。
 「どうしますか?」
 オスカが様子を窺うと、深く鼻から息を吐き