ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録005
「おお、話してる話してる。やっぱあいつらの中にいるとあの色が馴染んで見えるな・・・」
「さっきまで俺達と普通に会話してたのが変に思えるな」
少し様子を見ていると、また一人異質な色彩を持つ人物が降りてきた。よく見ると化け物が襲ってくる前に一度来て、目を疑うような運動能力で監視塔の外壁を駆け上がっていった青い髪の青年だ。
他のMolecule Changerやソロと何やら言葉を交わしている。化け物に破壊された外柵を見ながら話しているあたり、恐らく先ほどの事態について説明を受けているようだ。
それが一区切りつくと、ソロがこちらに歩み寄ってきた。
「あんたらにいくつか質問がある、それと自分達はこの世界の脅威とはならないことを説明したい、と彼らは言ってる。今この場にいる人間だけでいいから話をしよう。
あんたらからも色々と聞きたいことがあるだろ?まあやり取りは俺を介してする他ないだろうがな」
「・・・どうする?所長」
「まあ・・断るという選択肢はないだろうな。個人的には彼らにかなり興味があるし・・・」
「でしたら下の会議室を使いましょう。移動中に人目に触れることもありませんし、何より私の紅茶のコレクションボックスがありますから」
「お二人とも案外乗り気ですわね・・・。ところで中で待たせている彼女はどうしますか?レベルC4までの記憶処理なら数分で準備可能ですよ。同じフロアのD184実験室がしばらく出入り禁止になりますが」
ベルティーニ博士がガラスの向こうの部屋に目を向ける。
不安そうにこちらを見ていた女性研究員が、慌てて視線を室内に戻し肩をすくめた。
「まあまあそうカタいこと言うなよ。いいじゃないか、この際一緒に話せば。彼女にとってはまたとない素晴らしい経験になるだろうよ、なあ?」
「・・どうかね。もうお前と遭遇した時点でトラウマに近い何かが生まれちまってると俺は思うね」
「は?」
「あーとにかく、36階のあそこだろ?ひとまずアベレージャーを持ってない俺が凍死しないうちに屋内に入ろうぜ・・・うう寒い・・・・指先の感覚がなくなってきやがった」
「お前まだ買ってなかったのか?なんでそう頑固なんだよ」
「だから、ああいうのは合わない体質なんだ。この前試したら低温火傷した」
――――――――――――――――――
――――――――――――
━─━─記録005 抵抗の道標
―エリアN20 “アルカディア” メイン連絡会議室にて
「・・・・・まずこの世界についての基本的なことを教えてほしい。自分達がいた世界との違いをはっきりさせたいから、先にこちらの世界について話そうと思う」
「オーライ、わかった。そうしてくれ」
楕円型の大きなテーブルが中央に陣取り、その前後の壁にはそれぞれ違う情報が表示されるモニター。
本部職員の活動状況が細かく検索できるパネルのある壁にぎりぎり背中がつくかつかないかの位置で、肩を縮め委縮して突っ立っている若い女性研究員―ジャネットは、未だに混乱から抜け出せないままちらちらと辺りを探るように視線を動かしていた。
あまりに訳が分からなすぎるこの状況。そしてそんな状況の中にどういうわけか放り込まれ、場違いにもほどがあると叫び出したくなるような顔ぶれに挟まれて棒立ちになっている自分。
あの異様な出で立ちと未知の言語を持つ人間?達は問題外として、この研究所のトップであるレベル5の中でも有名な博士達に囲まれ―あまつさえその頂点に位置する所長まで―どう考えても最高クラスの機密指定に分類されるであろう情報のやり取りがされる話し合いに、なぜか一介のレベル2研究員である自分が紛れ込んでいるのだ。
彼女の同期の研究員達は、とうの昔に一人残らず仕事を終えて宿舎に帰ってしまっただろう。
一体なぜこんなことになっているのか。ここに自分がいることに果たして意味はあるのか。
・・・正面に座っている例の人間達と目が合わないよう、常に視線を忙しなく動かしながらそればかり繰り返し考えていた。
「・・・今この世界にたびたび現れる化け物達とは違うが、俺達のいた世界にも魔物と呼ばれるモンスターが生息していて、人々は魔物とそれらを従える魔物の王の存在に怯えながら暮らしていた。
そして俺達は魔物達と戦うために特別な力を与えられた人間で、もともと魔物の王を倒し世界に平和をもたらすべく生を受けた存在であり、世界中を旅して回りその目的を既に達成した。
また俺達はそれぞれ別々の世界から集められていて、ごく最近初めて時空を超えて出会った。
つまりここにいる一人一人が全員、それぞれ生まれ育った世界を危機から救った経験がある」
一人が例の未知の言語で話しているのを、あの緑色の髪と青い瞳を持つ―博士は“ワン”のオリジナルだと言っていた―“ソロ”と呼ばれる人物が、さながら同時通訳のように英語に翻訳して説明している(しかし今年大学院を卒業しこの研究所に来たばかりのジャネットは“ワン”というのが一体何なのか知らなかった)。
彼女は緊張と困惑でそれをじっくり聞いている余裕などなかったが、とりあえず酷く現実離れした話だということだけは理解できた。
「そして俺達は、破壊を司る神々の力によってこの世界に送り込まれて来た。破壊神達から与えられた使命は、俺達の力でこの宇宙を破滅の運命から救うこと。
・・実はこれより前に、一度別の世界で別のルールのゲームをさせられた。そこでは二人の仲間が命を落とした。同様にこの世界でのゲームでも命がけの戦いをしなければならないだろうし、使命を果たすことができなければ俺達は一人として生きて帰ることができない。
最初にこの施設に来たのはここに俺達にわかる文字のサインが見えたからで、ここで何をするべきなのか知っているわけではなかった」
最高責任者である所長・スワードソン博士は、真剣な眼差しでもって“彼ら”を一通り眺めると数回深く頷いて、真面目な顔で腕組みをした。
「・・はあ、うん・・・。・・・ありがとう、大まかな経緯は理解できたつもりだ。だがきっちりと咀嚼して飲み込むにはもう少し時間がいる・・それと、やはりこちらからも適切な説明をしなければならないことがよくわかった」
博士の喋りに合わせて瞬時に、ソロが今度はそれを向こうの言葉に直して話す。
「しかしまず最初に、今日ここで我々の命を守ってくれたことに大いに感謝する。その礼にという訳でもないが、我々は可能な限り君達に協力したいと思っている。
実は、君達についてのおよそ半分程の情報はこちらで独自に収集してあるんだ。というのは、我々が身を置いているこの機関は、現在説明不能の様々な物や事象を研究する施設でね・・この宇宙でのことは勿論、多元宇宙についてや別のカテゴリに分類されている宇宙のこともだ」
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「さっきまで俺達と普通に会話してたのが変に思えるな」
少し様子を見ていると、また一人異質な色彩を持つ人物が降りてきた。よく見ると化け物が襲ってくる前に一度来て、目を疑うような運動能力で監視塔の外壁を駆け上がっていった青い髪の青年だ。
他のMolecule Changerやソロと何やら言葉を交わしている。化け物に破壊された外柵を見ながら話しているあたり、恐らく先ほどの事態について説明を受けているようだ。
それが一区切りつくと、ソロがこちらに歩み寄ってきた。
「あんたらにいくつか質問がある、それと自分達はこの世界の脅威とはならないことを説明したい、と彼らは言ってる。今この場にいる人間だけでいいから話をしよう。
あんたらからも色々と聞きたいことがあるだろ?まあやり取りは俺を介してする他ないだろうがな」
「・・・どうする?所長」
「まあ・・断るという選択肢はないだろうな。個人的には彼らにかなり興味があるし・・・」
「でしたら下の会議室を使いましょう。移動中に人目に触れることもありませんし、何より私の紅茶のコレクションボックスがありますから」
「お二人とも案外乗り気ですわね・・・。ところで中で待たせている彼女はどうしますか?レベルC4までの記憶処理なら数分で準備可能ですよ。同じフロアのD184実験室がしばらく出入り禁止になりますが」
ベルティーニ博士がガラスの向こうの部屋に目を向ける。
不安そうにこちらを見ていた女性研究員が、慌てて視線を室内に戻し肩をすくめた。
「まあまあそうカタいこと言うなよ。いいじゃないか、この際一緒に話せば。彼女にとってはまたとない素晴らしい経験になるだろうよ、なあ?」
「・・どうかね。もうお前と遭遇した時点でトラウマに近い何かが生まれちまってると俺は思うね」
「は?」
「あーとにかく、36階のあそこだろ?ひとまずアベレージャーを持ってない俺が凍死しないうちに屋内に入ろうぜ・・・うう寒い・・・・指先の感覚がなくなってきやがった」
「お前まだ買ってなかったのか?なんでそう頑固なんだよ」
「だから、ああいうのは合わない体質なんだ。この前試したら低温火傷した」
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━─━─記録005 抵抗の道標
―エリアN20 “アルカディア” メイン連絡会議室にて
「・・・・・まずこの世界についての基本的なことを教えてほしい。自分達がいた世界との違いをはっきりさせたいから、先にこちらの世界について話そうと思う」
「オーライ、わかった。そうしてくれ」
楕円型の大きなテーブルが中央に陣取り、その前後の壁にはそれぞれ違う情報が表示されるモニター。
本部職員の活動状況が細かく検索できるパネルのある壁にぎりぎり背中がつくかつかないかの位置で、肩を縮め委縮して突っ立っている若い女性研究員―ジャネットは、未だに混乱から抜け出せないままちらちらと辺りを探るように視線を動かしていた。
あまりに訳が分からなすぎるこの状況。そしてそんな状況の中にどういうわけか放り込まれ、場違いにもほどがあると叫び出したくなるような顔ぶれに挟まれて棒立ちになっている自分。
あの異様な出で立ちと未知の言語を持つ人間?達は問題外として、この研究所のトップであるレベル5の中でも有名な博士達に囲まれ―あまつさえその頂点に位置する所長まで―どう考えても最高クラスの機密指定に分類されるであろう情報のやり取りがされる話し合いに、なぜか一介のレベル2研究員である自分が紛れ込んでいるのだ。
彼女の同期の研究員達は、とうの昔に一人残らず仕事を終えて宿舎に帰ってしまっただろう。
一体なぜこんなことになっているのか。ここに自分がいることに果たして意味はあるのか。
・・・正面に座っている例の人間達と目が合わないよう、常に視線を忙しなく動かしながらそればかり繰り返し考えていた。
「・・・今この世界にたびたび現れる化け物達とは違うが、俺達のいた世界にも魔物と呼ばれるモンスターが生息していて、人々は魔物とそれらを従える魔物の王の存在に怯えながら暮らしていた。
そして俺達は魔物達と戦うために特別な力を与えられた人間で、もともと魔物の王を倒し世界に平和をもたらすべく生を受けた存在であり、世界中を旅して回りその目的を既に達成した。
また俺達はそれぞれ別々の世界から集められていて、ごく最近初めて時空を超えて出会った。
つまりここにいる一人一人が全員、それぞれ生まれ育った世界を危機から救った経験がある」
一人が例の未知の言語で話しているのを、あの緑色の髪と青い瞳を持つ―博士は“ワン”のオリジナルだと言っていた―“ソロ”と呼ばれる人物が、さながら同時通訳のように英語に翻訳して説明している(しかし今年大学院を卒業しこの研究所に来たばかりのジャネットは“ワン”というのが一体何なのか知らなかった)。
彼女は緊張と困惑でそれをじっくり聞いている余裕などなかったが、とりあえず酷く現実離れした話だということだけは理解できた。
「そして俺達は、破壊を司る神々の力によってこの世界に送り込まれて来た。破壊神達から与えられた使命は、俺達の力でこの宇宙を破滅の運命から救うこと。
・・実はこれより前に、一度別の世界で別のルールのゲームをさせられた。そこでは二人の仲間が命を落とした。同様にこの世界でのゲームでも命がけの戦いをしなければならないだろうし、使命を果たすことができなければ俺達は一人として生きて帰ることができない。
最初にこの施設に来たのはここに俺達にわかる文字のサインが見えたからで、ここで何をするべきなのか知っているわけではなかった」
最高責任者である所長・スワードソン博士は、真剣な眼差しでもって“彼ら”を一通り眺めると数回深く頷いて、真面目な顔で腕組みをした。
「・・はあ、うん・・・。・・・ありがとう、大まかな経緯は理解できたつもりだ。だがきっちりと咀嚼して飲み込むにはもう少し時間がいる・・それと、やはりこちらからも適切な説明をしなければならないことがよくわかった」
博士の喋りに合わせて瞬時に、ソロが今度はそれを向こうの言葉に直して話す。
「しかしまず最初に、今日ここで我々の命を守ってくれたことに大いに感謝する。その礼にという訳でもないが、我々は可能な限り君達に協力したいと思っている。
実は、君達についてのおよそ半分程の情報はこちらで独自に収集してあるんだ。というのは、我々が身を置いているこの機関は、現在説明不能の様々な物や事象を研究する施設でね・・この宇宙でのことは勿論、多元宇宙についてや別のカテゴリに分類されている宇宙のこともだ」
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