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のび太のBIOHAZARD カテゴリーFの改造版

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第一話 悪夢の始まり


 2004年7月28日。
 僕たちは夏休みの初日にドラえもんにとある無人島へ連れていってもらった。
 誰にも邪魔されず、好きなことをやって思う存分バカンスを楽しんだ。
 そして、帰宅の日……。
 三日も見ていない家族の顔が見られると思うとなんだか嬉しい気分になる。
 でも、僕たちを待ち受けていたのは悪夢だった……。

 東京都練馬区月見台すすきヶ原・野比家。
 広さ六畳ほどの和室の中心に、ピロリン、という未来的な効果音とともにピンク色のドアが出現した。そして扉が開くと、その中からこの部屋の主である野比のび太(ノビノビタ)と、彼の友人である源静香(ミナモトシズカ)、ジャイアンこと剛田武(ゴウダタケシ)、骨川スネ夫(ホネカワスネオ)、そして子守用ネコ型ロボットのドラえもんが現れた。ちなみに、ドラえもん以外の四人は自分の靴を脱いで手に持っている。当たり前のことだが、部屋の中に入るのに土足では畳を汚してしまうからだ。

「うわぁ~すっげぇ楽しかったぜ!」

 満面の笑みを浮かべてバカンスの感想を言うジャイアン。

「あ~やっとママに会えるよ」

 スネ夫は早く母のもとに帰りたいようだ。

「いざ家族の顔を何日も見ないとなると恋しい思いをするものね」

 静香も家族の顔を見たいようだ。

「でも楽しかったよ。ありがとうドラえもん」

 のび太が皆を代表してドラえもんに礼を言う。

「これくらいおやすい御用さ。じゃあ僕は久しぶりにミーちゃんに会いにいってくるよ」

 そう言うと、ドラえもんはピンク色のドア……どこでもドアを四次元ポケットに仕舞い、愛しのメス猫に会いに行くべく、タケコプターを使って窓から飛び立っていった。

「ふふっ、ドラちゃんもミーちゃんが恋しいみたいね」

 その後ろ姿を見ながら静香が微笑む。

「さて、僕もママに顔を見せにいこうかな」

 母への帰宅報告のため、のび太は部屋から出て階段を降りる。

「僕らものび太のママに挨拶してから帰るか」
「ええ」
「そうだな」

 スネ夫、静香、ジャイアンもそれに続いた。

「台所から音がするな。ご飯の支度でもしてるのかな?」

 キッチンからはグチャ、グチャ、という生肉をかき混ぜるような生々しい音が聞こえてきている。これを聞いたのび太は、今日の夕飯は好物のハンバーグだと確信し、小さくガッツポーズした。

「ママ、ただいまー!」

 勢いよく引き戸を開け、元気よく帰宅の挨拶をするのび太。しかし、母・玉子からの返事は無い。
 玉子は部屋の隅で屈み、何かを貪っていた。

「ママ、何してるの?」

 再び呼びかけるが、玉子は貪ることに夢中で返事すらしない。

「ねぇママったら!」

 三日ぶりの再会だというのに無視を決め込む玉子にイラッときたのび太は思わず声を荒げる。すると、玉子が貪っている何かから勢いよく鮮血が飛び散り、キッチンの壁と床を緋色に染めた。と同時に、玉子の陰からゴロゴロとあるものが転がり出てきた。

「ぱ、パパ!?」

 物体の正体はのび太の父・のび助の生首だった。顔の左半分の肉が無惨に食われて頭蓋骨が露出している、子供には非常に刺激の強いものであった。

「アァァ……」

 ここでようやくのび太の存在に気づいたようで、玉子は不気味な呻き声を上げながらおもむろに彼のほうへと振り返った。その口はのび助の血でべっとりと濡れており、肌はまるで時間が経過した死体のように腐敗していた。そのさまはさながらゾンビだ。

「ひぃっ!」

 凄惨な光景を目の当たりにし、思わずたじろぐのび太。

「どうしたんだのび太……なッ!?」
「……ッ!?」
「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 後から来たジャイアンとスネ夫が絶句し、静香が悲鳴を上げる。

「と、とにかくここから逃げよう!」
「そ、そうね!」
「そのほうがよさそうだな!」
「早く行こう!」

 玉子の尋常ではない様子に身の危険を感じたのび太は、ひとまずこの場から退散することにした。静香たちもそれに同意し、四人は玄関から外へと出た。

「げっ! 外も変な人たちでいっぱいだ!」
「い、嫌ぁ……」
「おいおい何がどうなってるんだよスネ夫!?」
「僕に聞かれてもわからないよぉ!」

 だが、外は野比家のキッチンの比ではない事態になっていた。家の周囲には何体もの死体が横たわり、玉子と同様に生ける屍と化した者たちがそれらに喰いついている。おまけに町の至るところから火の手が上がっており、その様子はまさに地獄絵図だった。

「ウゥゥ……」
「オォォ……」
「アァァ……」

 家から人が出てきたことに気づいたゾンビたちが、大挙してのび太達に迫ってきた。

「やべぇ気づかれた! みんな走れぇ!」

 ジャイアンの号令で一斉に走り出す四人。幸いゾンビたちの動きは遅く、容易に逃げることができた。

「武さん、とりあえず学校に行きましょう! 災害時の緊急避難場所に指定されているから、他に誰かいるかもしれないわ!」
「そうだね。頑丈なつくりになってるからあいつらも入ってこられないだろうね。ジャイアン、学校に行こうよ!」
「闇雲に走り回っても体力を消耗するだけだからな。よし、学校へ行くぞ!」

 静香とスネ夫の進言を受け、ジャイアンは自分達の通う小学校を目指すことにした。

「学校か。確かにあそこなら……」

 安全そうだ、とのび太が言おうとしたとき、道の両端で横転していた車二台が突如として爆発炎上。のび太は爆風で後方に吹き飛ばされた。

「いててて……はっ! みんなは……?」

 腰をさすりながら起きあがったのび太は、慌てて前方を確認する。道は炎の壁で塞がれており、前を走っていた三人の姿を確認することはできなかった。まさか三人とも爆発に巻き込まれて死んでしまったのか、と不安に駆られるが……。

「おーいのび太ー!」
「のび太ー! 大丈夫かー!?」
「のび太さーん!」

 炎の向こう側から三人の声が聞こえてきた。どうやら全員無事のようだ。

「僕は大丈夫だ! みんなは先に学校へ行って! 僕は別ルートを探してそっちから行くよ!」

 のび太は自分の無事を知らせ、三人に先に行くよう促す。

「わかった! じゃあ先に行ってるよ!」
「学校で会いましょう!」
「途中で奴らにやられるなよ! 来なかったら許さないからな!」

 のび太の力強い声に促された三人は、彼を信じて先へ進むことにした。

「……とは言ったものの……やっぱり怖いよぉぉぉ!」

 立ち上がるや否や弱音を吐くのび太。それでも喰われてなるものかと、学校を目指して走り出した。