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のび太のBIOHAZARD カテゴリーFの改造版

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 しばらく走ると、自営業者用の貸し倉庫の前にたどり着いた。

「あの中を通っていけばショートカットできる。鍵が開いていればいいけど……」

 中に入れることを祈りながら、ドアノブに手をかけるのび太。

「……よかった、開いてる!」

 鍵はかかっていなかった。のび太は急いで扉を開け、倉庫の中に飛び込んだ。

「うぅぅ……誰か……いるのか……?」
「ッ!?」

 のび太が中に入ると、奥の方から男の声が聞こえてきた。のび太は恐る恐る声のした方へ向かう。
 そこには、全身血まみれになって壁際に座り込んでいる警官がいた。

「だ、大丈夫ですか!?」
「うぅ……普通の人間のようだな……声は随分幼いが……子供か……?」

 絞り出された声はかなり弱々しく、今にも事切れてしまいそうだ。

「いや……そんなことはいい……ここは危険だ……早く……逃げるんだ……」
「この街で一体何が起こったんですか!? あのゾンビみたいな人たちは何なんですか!?」
「それは……私にもわからない……一昨日前から……街中を……うろつい……ている……不審者がいる……との通報が……相次いで……非番だった私も……呼び出されて……事態の収拾に……当たったが……奴らにやられて……この通りだ……うっ! ぐはぁっ!」
「おまわりさん!」

 言葉を絞り出しながら吐血する警官。そんな彼に、のび太が駆け寄る。

「ち、血が! どうしたら……」
「私に構わず……君はここから……」

 逃げるんだ、と警官が言う前に、倉庫の窓ガラスを破ってゾンビが中に侵入してきた。その数、三体。

「あ、あいつらが来た! しかも逃げ場がない! もうだめだぁぁぁぁぁぁおしまいだぁぁぁぁぁぁ!」

 前からは三体のゾンビ。後ろは壁。左右は重そうなコンテナが天井付近まで段差無く綺麗に積み上げられている。どこにも逃げられない最悪な状況に絶望するのび太。

「落ち着くんだ少年……私の銃を使うんだ……右ポケットの近くの……ホルスターに……入っている……」

 慌てるのび太を落ち着かせ、警官は自身のハンドガン“ベレッタM92”を使うよう指示した。

「でも、銃で撃ったら殺人になっちゃいますよ!」
「奴らは……もう人間ではない……君の言うとおり……ゾンビだ……撃たなければ……君が殺される……議論している……暇は無い……さぁ……早く銃を……!」
「……はい!」

 躊躇っていたのび太だったが、警官の言葉に背中を押されて意を決し、銃を手にとってゾンビたちに向けて構えた。

「……構えが……さまになっているな……銃を使ったことが……あるのか……?」
「実銃を撃ったことはありませんが、射撃は得意です!」
「そうか……なら奴らの額を……狙うといい……そうすれば……一撃で……倒せる……」
「はい!」

 警官のアドバイスに従い、のび太はゾンビたちの額に向けて三回発砲。弾丸は吸い寄せられるかのようにゾンビたちの額に直撃し、活動を完全に停止させた。早さと正確さを兼ね備えた見事な射撃であった。

「おまわりさん、やりました!」
「よし……よくやった……ビリー・ザ・キッドも……顔負けの……腕前だ……」
「いえいえ、この銃のおかげです。助かりました」
「君は……謙遜が上手いな……がはっ! ぐあっ!」

 再び吐血する警官。彼の最期は目前に迫っていた。

「おまわりさん!」
「私は……ここまでのようだ……その銃は……持っていくといい……予備の弾も……渡しておく……」

 そう言って、警官はのび太の手にハンドガンのマガジンを握らせた。

「裏口……から外に……出て……しばらく進めば……避難場所の……学校だ……君の……家族や……友達も……きっと……そこに……い……る……」

 その言葉を最後に、警官は息を引き取った。のび太にマガジンを渡した左手が、静かに床に落ちる。

「ッ!? おまわりさん! おまわりさん!」

 目に涙を浮かべながら呼びかけるのび太だが、警官はもう動かない。

「ウォォ……」
「アァァ……」
「ウゥゥ……」

 しかし、いつまでも悲しみに暮れているわけにはいかなかった。入り口にはまたゾンビが迫っている。

「……僕は、行きます。銃と弾を、ありがとうございました」

 のび太は警官の亡骸に一礼し、裏口から外へ出た。
 外は相変わらずゾンビたちが闊歩しているが、やはり動きは緩慢であった。この分なら学校まで行くのは簡単だな、と思うのび太。だが、そんな彼の楽観を打ち砕くものが現れた。

「まさか……犬まであいつらと同じになってるのか!?」

 ゾンビたちと同じ状態になったドーベルマンだ。しかも二匹。
 目敏く獲物を見つけた彼らは、凄まじい速度でのび太に走り寄ってきた。人型のゾンビとは違い、本来持っている俊敏さは失われていないようだ。

「く、来るなぁぁぁぁぁぁ!」

 慌ててのび太も走り出す。のび太の射撃の腕前ならば素早く動く相手にも銃撃を当てることは可能ではあるが、反射的に逃げることを選んだ。普段から犬に追い回されることがよくあるせいか、すっかり行動パターンが体に染み着いてしまっているようだ。
 こんなところで食べられてたまるか。その一心でのび太は走る。

「あっ、学校だ!」

 のび太はついに学校前に到達した。あとは校内に入るだけだ。

「野比のび太だな? 中に入れ! そいつらは俺が何とかする!」

 のび太の耳に聞き慣れない声が入ってきたのは、そんなときであった。
 校庭の中心には黒いロングコートに黒いシャツ、黒い長ズボンに黒い靴という全身黒ずくめの二十歳くらいの男が立っていた。その左右の手にはそれぞれ木刀が握られている。ゾンビではない、まともな生存者のようだ。

「保健室で友達が待ちかねているぞ! 行け!」
「は、はいっ!」

 男に促されたのび太は、言われるがままに昇降口に飛び込んだ。

「……まったく、躾のなっていないワンコどもだな」

 のび太が無事に中に入ったのを確認した男は、そう言いながら二匹のドーベルマンを見据え、腰を落として木刀を持っている両腕を振りかぶった。二匹のドーベルマンはのび太から男のほうに狙いを変え、そのまま彼に飛びかかってきた。

「伏せ!」

 二本の木刀が同時に振りおろされ、その切っ先がドーベルマンの頭に直撃した。彼らは地面に叩きつけられ、男の命令通りの体勢で完全に沈黙した。

「飼い主の顔を見てみたいもんだ」

 男はダメ犬の躾を終えると、踵を返して昇降口から校内に入っていった。