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LIFE! 1―Hold back―

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LIFE! 1 ――Hold back――


 笑顔だった。
 だけど、どこかあの男は、何かを諦めている……。

 朝焼けに染まる空、稜線からにじみ出る陽の光、幻想的に流れる雲。
 木立の向こうに見える景色、遠くに感じる世界。
 俺はただの部外者だ……。
 赤い外套が風になびいて、長い黒髪が揺れていて、対の赤い衣装を纏った男女の光景は、まるで、映画のワンシーンのように美しいものだった。
(消えるのか……)
 俺は残念だと思っている。
 どうして俺は、あのサーヴァントが消えるのを残念だと思っているのだろう?
(助けてくれたし……)
 言い訳のように思った。
(嫌だな……)
 あのサーヴァントが消えてしまうのが、嫌だと感じている。
 もう少し、話してみたい。もう少し、何か、あのサーヴァントと、何か……。
(消えてほしく……ないな……)
 ぽろ、と下瞼から、何かがこぼれ落ちた気がした。
 立っているのもやっとで、あちこち傷だらけで、息も上がっていて、眩暈すらするのに必死で歩く。
 あの背の高い、赤い外套を纏った、褐色の肌の、白い髪のサーヴァントを目指して、俺は必死に手を伸ばしたかった。だけど……。
(手なんて伸ばせない。あいつは、遠坂のサーヴァントだ……)
 微かな願いを込めて見つめていたが、遠坂と再契約をする様子がない。このまま消えていくその姿を、俺は見送るだけだ。
 遠坂もそれを了解しているみたいだし、あのサーヴァントもそれを望んでいる。
 なぜだか息苦しくて俯いた。同時に目から熱い雫が落ちていくことに気づく。
(俺、泣いていたのか……、どうして?)
 驚きを隠せないまま、顔を上げる。
 赤い外套が、褐色の肌が、白い髪が透けていく……。
(もう、時間が残されていない)
 嫌だ!
 強く、そう思ってしまった。
(ダメだ、アーチャー、俺はまだ、ありがとう、も……)
 俺を強くしてくれて、俺に託してくれて、最後に助けてくれて!
 こんなに強く思って、こんなに必死に願ったことなど、あの災厄の日以来、一度もなかったのに、それでも声が出なかった。
 必死で引き止めたいと思うのに、声を出すことができない。
(俺がどこかで諦めているからか?)
 遠坂にさえ引き止められなかった、あの頑ななサーヴァントを、憎まれて、殺されかけた自分が引き止められるなど、万に一つもありはしないとわかっていたからか。
(だけど……)
 どうにかして、留めたい。
 どうやって? どうすれば?
 ぎり、と奥歯を噛みしめる。
(消える……)
 俺が一心に見つめるその姿は消えかけて、向こう側の景色が透けて見える。
 赤を纏うサーヴァントが、ちら、と俺に視線を向けたように見えた。
 勝手に唇が動く、何も考えられない。
 低く呟く。
「体は――――」


 俺は、あの剣だけが突き立つ荒野に至った。
 驚いたままで、自分でも何が起こったのか、いや、何を起こしたのかがわからない。
「俺、どうし……」
 口を開いた途端、自身の身体の重さに膝をつく。通常の何倍もの重力に引かれるような感覚。倒れこみそうになる身体を支えるために、乾いた地面に両手をつく。
「……っく、か、からだが……おも……い、っ……」
 息が苦しい。声が出ない。
 上半身を起こしていることもできなくなって、肘をつき、うずくまって浅い呼吸を繰り返す。
 背中を上下させて、どうにか息を続けている状態の俺に、
「何をしている、たわけが」
 低い声が降ってくる。
 顔を上げずとも、その声の主がわかって、少しバツが悪い。
 うまく説明はできない、と思いながらも、言い訳をするために、俺は顔を上げようと努力した。
 けれども、頭が重くて上がらない。側に平然と立っている様子のその男は平気なようだ。だったら、自分だけがこの重力を感じているのだろう。
「おい、なんとか言え」
 男は何も言わない俺に少し苛立ったように言うが、あいにく、言葉を発することもできない俺は、片手の指をわずかに上げて、待ってくれ、と示唆するだけ。
 それを理解したのかどうかはわからないが、男は聞こえるように、大きなため息をついている。
「……っ、……お、れは……」
 歯を喰いしばりながら、声を出す。ひどい頭痛も加わってきて、ますます呼吸が苦しくなってくる。
 俺の言葉を待っていてくれるつもりなのか、男は黙っている。目を向けることもできないが、気配は感じられるから、立ち去っていないことだけはわかった。
「――ウ、シロ――――ッ」
 遠くから聞こえてくる女性の声。
 それも聞き慣れた声だった。俺の元サーヴァント、騎士王の声だ。
「なん……」
 絶句する低い声が聞こえた。それとともに、ザザッと俺の側に駆け寄って膝をつく音。
「シロウ、大丈夫ですか? アーチャーとまた何か揉めていたのですか? それに、ここは、アーチャーの持つ、あの世界ですか? シロウ、シロウ?」
 俺の肩を揺すって、質問攻めする騎士王に、どうにか顔をずらして視線だけを向けた。
「ごめ……、お、れ……なん、か……やった……」
 どうにか言って、荒く呼吸を繰り返す俺の背中を、騎士王・セイバーはそっと撫でてくれる。
「シロウ、何があったのです? どうして、こんなに苦しんでいるのですか? シロウ、シロウ、しっかりしてください!」
 うずくまったまま声も出せない俺を気遣ってくれるセイバーに、どうにか笑いかけようとしたけれど、どこまでできたかわからない。意識も朦朧としてきていた。
(もう、声が、出ない……)
 口を開くこともできず、必死に意識を保とうとする。
「シロウ!」
 動揺するセイバーの声に、大丈夫だ、と言ってやりたい。
 彼女は本当に俺のことを思い遣ってくれていた。与えることのできる魔力の少ない俺なんかを守ろうと必死に戦って。
 彼女の誠実さは俺にはもったいないくらいのものだった。そんな彼女を悲しませたくない。なのに、もう顔を上げることもできない。
「アーチャー、これが、どういうことだかわかりますか?」
 自分よりも先に俺に出会っていた赤いサーヴァント・アーチャーにセイバーは意見を求めている。
 彼女の判断は正しい。
 まともに話せない俺に訊くより、経験豊富で、しかも、アーチャーが俺の未来の可能性であることを加味すると、彼に質問するのは当然の選択だろう。
「まあ、予想はつく。固有結界に我々を取り込んだのだろう。理由はそこのたわけにしかわからん」
 絶対零度を感じ取れる声で言うアーチャーは、再び俺を殺す勢いで見下ろしていることだろう。
 俺はますます顔が上げられない。
 いや、上げる余力など、もう残っていないのだが。
「では、これはシロウの? シロウが苦しそうなのは、そのせいですか?」
「そうだろうな。英雄王とやり合って、体力も魔力もほぼ皆無。その上で、こんなものを仕掛けていては、立てるはずもあるまい」
 淡々とした説明に納得しながらセイバーは、
「では、アーチャー、なんとかしてください」
 きっぱりと切り返した。
「……セイバー、意味をわかって言っているのか?」
 さすがのアーチャーも面食らっているみたいだ。
作品名:LIFE! 1―Hold back― 作家名:さやけ