二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

LIFE! 1―Hold back―

INDEX|6ページ/6ページ|

前のページ
 

「ああ、凛、無事に、」
 その声の方へ目を向けて、ぎくり、とする。見下ろす元マスターは、指先に魔力を籠め、構えている。
「り、凛?」
 すぐに身体を起こして、ようやく自分の状態が理解できた。
 衛宮士郎を自身の身体に外套で巻きつけていたことを失念していた。
「ああ、そうだったな」
 思い出して赤い外套をほどき、衛宮士郎を解放した。
「シロウ!」
 セイバーが飛びついて衛宮士郎を奪い、乱暴に揺さぶっている。
「セイバー、あまり、ぞんざいにしない方が、」
 いいのではないか、と言おうとすると、側に立つ少女からものすごい殺気を向けられる。
「あんたねぇ……」
「凛、まずは礼を言おう。丁重に扱ってくれて――」
 みなまで言う前に、ずいっと近づく瞳に睨まれる。
「よりにもよって、なんて格好で戻ってくるのよ!」
 彼女の怒りが自分に向けられていることに少々首を捻る。
 怒るのなら、衛宮士郎の方にではないだろうか。オレは巻き込まれたのだから。
「いくら落っことしたらダメだからって、あんなにグルグル巻きにして! あんなに密着して! あんなに、あんなにーっ!」
 凛の訴える意味がよくわからず、セイバーを顧みると、セイバーも牙をむいた獅子のごとく衛宮士郎を抱きしめたままこちらを睨んでいる。
 全く意味がわからない。少々疲れていると、凛に腕を引かれる。
「アーチャー、あなたのマスターは士郎よ」
 静かに言われても、理解できず、困惑の色を浮かべてしまう。
「私は既にセイバーと契約を済ませたわ。他の奴らには自分でマスターを見つけろって追い出した。勝手は許さないってね。あと、バーサーカーはピクリとも動かないから庭に置いとくことにしたわ。残ったのはあなただけよ、アーチャー」
 淡々と告げられて、否応なしに、現界するなら契約を結べと言われる。
 この流れでいけば、セイバーが衛宮士郎で、オレは再び凛と契約するのではないのか?
「やむにやまれぬ事情ってやつなの。サーヴァントたちがここに出て暴れだしたから、セイバーとの契約を先にしたわ。あなたたちが最後まで残ってしまったから仕方ないの。でも、ま、契約するかしないかは、強制しない」
 前の凛の取り込み中、とはそのことだったのかと納得する。
 しかし、バーサーカーはその扱いで大丈夫なのか、と心配に……、ああ、いや、それよりも、衛宮士郎がマスターとは、承服しかねる。
 第一、この見習い以下では、魔力をどうやって補給すればいいのか……。
「とりあえず、今のままではあなたは早々に消えてしまうから、私が魔力を提供するわ。話はそれからよ。士郎が目を覚まして、身体が戻ってから、二人で話し合って。
 先に言っておくけど、勝手に消えるのは無しよ。あなたには理由を聞く義務と権利があるはずだわ、士郎に」
 凛は有無を言わさず決めてしまう。確かに、契約を結ぶ前に消えてしまえばいいと思った。だが、それを読まれ、先に止められてしまった。そこまで言われれば、ひねくれ者の性分にも火が付く。
「了解した。では、私は衛宮士郎の回復を待てばいいのだな」
 頷く凛が手を差し出す。その手を軽く握ると、
「おかえり、アーチャー」
 少し大人びた笑みを見せて、元マスターは迎えてくれた。



「ねえ、アーチャー。士郎はどうしてこんなことをしたのかしら……」
 衛宮士郎の部屋の前で、凛はぼんやりと夜空を眺めながら訊いてきた。
「さあ? 私は衛宮士郎ではないのでね」
「あなたの元、なんでしょ」
「元、だとしても、同じではない」
 凛がこちらを見上げている。
「変わったわね、アーチャー」
「どこがだ? 私は何も、」
「私の申し出は断ったくせに、士郎の誘いは断らないのね」
 どきり、とした。
 凛の見透かしたような表情にではなく、その言葉に。
 確かにそうだ。
 オレは、あの朝焼けの中で彼女の申し出を断り、守護者へ舞い戻ろうとした。なのに、衛宮士郎に引き留められ……。
 いや、だが、これは強制的に衛宮士郎に引き留められたのだ。自分の意思ではない。
「自らの意思じゃないって、百パーセント言い切れるかしら?」
 小悪魔のような笑みをして、おやすみ、と凛は手を振って別棟の部屋へと歩いていく。
 その背を見送って、何やらモヤモヤとしてしまった。
「もとはと言えば、衛宮士郎が……」
 言い訳じみたことを一人呟いて、手で口を覆う。
 自分でもわからない。
 戻りたければ、戻ることはできた。誰に引き止められようと、衛宮士郎の結界を抜けた時点で、ここから消えようと思えばできたはずだ。
「なのに、それをしない……。オレは、何を考えているのか……?」
 答えなど出ない。衛宮士郎が目覚めれば、わかることだろうか、と、閉じられた障子へ目を向けた。
 そっと室内に入る。布団に横たわる衛宮士郎は規則正しい呼吸を繰り返している。昏睡の原因が払拭されたのだから、明日の朝には目覚めるだろう。
 布団から五十センチほど離れたところに正座して、じっと様子を窺う。
 体力回復と魔力回復のため、凛が施した結界の中で衛宮士郎は穏やかに眠っている。
 少し触れてみたいと思った。
 あの結界の中で触れた髪、頬……、まだ手に残る感触。
(オレは……、何を考えている?)
 掌を見つめて、ため息をつく。
 自分自身が理解しがたい。
 これは、この少年が起こした奇跡と呼ぶべきだろうか?
 衛宮士郎、己がルーツ。
 その彼に、その深淵に触れてみたい。
 この時オレは、少なからずそんなことを思っていた。


LIFE! 1 ――Hold back―― 了(2016/1/13初出・7/5,10/12誤字訂正)
作品名:LIFE! 1―Hold back― 作家名:さやけ