【APH】無題ドキュメントⅤ
伝えられた言葉に胸が切り裂かれたような錯覚。自分で言った言葉に目が熱くなるのを堪えようと子どもは唇を噛む。それに慌てたよう、プロイセンは首を振った。
「違ぇ!!お前の世界を俺の色に染める訳にはいかねぇだろ!お前が俺と同じになったら、意味がねぇ。お前にはもっと広い視野で物事を見、それを自分で判断し、行動できるような奴になって欲しいんだよ!…邪魔だとか思う訳ないだろう。…お前は俺の王なんだからな!」
真正面に膝を着き、覗き込む赤。その目を見つめる。その赤は真摯で、言葉に嘘はない。この青年が自分に語る言葉はいつも、真摯で誠実だ。
「…おれが、兄さんの王?」
「ああ。俺が傅き、忠誠を誓うのは、お前だけだ。…ライヒ」
目の前で片膝をつき、恭しく子どもの右手を取り、その手の甲にプロイセンは額を押し当てた。
「…俺はここに誓う。…ドイツ、お前を王と仰ぎ、お前の身が危機に晒されたときには、この身を持って守ると。未来永劫、お前が俺の王である限り、俺はお前に尽くすと忠誠を誓う」
その見上げる視線に嘘は見えない。子どもは言葉に詰まり、ただ足元に跪くプロイセンを見つめた。
「…にいさん」
口内が酷く乾く。赤い目がうっとりと笑う。
「…お前は一言、許す、と言えばいい」
まるで狡猾な悪魔が何も知らぬ子どもを誑かすように濡れた甘い声が囁き、赤い目がまだ見ぬ恍惚に細められる。
…許す…。
その一言が、この関係を変えてしまう。口にしたことを後悔するかもしれない。それでも、望まずにはいられないのは国としての性か、それとも人ゆえの本能か。抗うことの出来ない渇望と得体の知れない恐怖にぐるぐると思考が回る。
…怖い。でも、この青年のすべてが、おれは欲しい。
「…許す」
その言葉に目の前の赤がゆっくりと色を変える。赤から青へ、そして青から赤へ。再び、プロイセンは額を手の甲に押し当てた。
「よし。…俺はお前のものだ、ドイツ。お前の為に俺は誠心誠意、お前に仕える」
「…ずっと?」
「ああ、ずっとだ」
「…おれが国になっても、ずっと…?」
「ああ、お前が許す限り、ずっと…」
すとんとプロイセンの言葉が胸に落ち、子どもの胸に密かにあった不吉なざわめきは安堵を得て、静まり返る。
…約束が欲しかったのか、おれは…。
子どもはそっと、身を屈める。前髪の色素の薄い金の髪を掻き上げ、その額に口付ける。
作品名:【APH】無題ドキュメントⅤ 作家名:冬故