【APH】無題ドキュメントⅤ
ざらついて硬くなった手のひらが前髪を掻き上げる。額をこつんと合せられて、赤い目が間近になる。その近さに子どもの心臓は小さく跳ねた。プロイセンはいつも躊躇いなく自分に触れてくる。その近さを擽ったくも嬉しくも思う。
「…んー。熱はねぇみたいだけど」
「大丈夫だ。…で、オーストリアがなんだ?」
首を振り、続きを促す。赤色が遠ざかる。手のひらが髪を梳いて離れていく。流れの所作はいつもやさしく慈愛に満ちていて、いつもの乱暴で粗暴さを感じさせるプロイセンの同じ手とは思えない。恭しいものを、壊れ物にそっと触れるような仕草に子どもの胸はいつも詰まった。
おれはプロイセンを利用しようと思っている。
そう。自分は目の前の青年を利用して、国になる足がかりを作ろうとしていた。気に入られるために、息も絶え絶えな青年を気遣い看病したりもした。…確かに最初はそうだった。この青年を踏み台に国に成り上がる。…そういうつもりでいた。だから、近づいた。…でも、プロイセンと言う青年を知るにつれ、成り上がるとか、利用するだとかそんなことはもうどうでも良くなってしまっている。見た目の言動とは裏腹にプロイセンはひどく、やさしい。一緒にいると安心する。この青年のそばにいれば自分はずっとその温かさに甘えることが出来る。そして、青年がいとも容易く、その甘えを許すことも解ってしまった。
「お前に選択肢が俺だけなのも、なんつーか不公平な気がしてよ」
「不公平?」
「オーストリアはいけ好かねぇ奴だが、社交性に長けて、外交上手だ。…それだけで、ここ何百年も修羅場潜り抜けて来てるからな」
認めたくねぇけど…と付け加え、プロイセンは暫し黙り、子どもを見やった。
「俺は戦争のやり方しか知らねぇ。…でも、これからの時代は大きな戦争は徐々になくなっていくんじゃねぇかと俺は思ってる。…まあ、紛争や小競り合いはあるかもしれねぇけど、国同士が領土を利害を巡ってっていうのはなくなるだろうな。…だからだ、」
プロイセンは言葉を区切って、子どもの青を見つめた。
「オーストリアのところに行ってみねぇいか?」
その言葉が子どもの心にじわりと広がる。
「…それは、おれが兄さんにとって邪魔だから、追い払いたいということか?」
作品名:【APH】無題ドキュメントⅤ 作家名:冬故