それはまるで雪解け水のように
うなされているのか、うわ言のように何かを呟いている。
銀「た…か、すぎ…!」
高「行く、な…俺を…置いて…っ、いくな…ぎん…とき…!」
銀「高杉…!!おい、目開けろ…高杉!!」
何かの声と揺さぶられる感覚に重たい瞼を開ける
高「…、銀…時…、…っっ」
眼前で血相をかいている相手を見れば何時ものように斬りかかろうと思うも体は動かず、感じるのは開いた傷口や新たな傷から流れ止まらぬ生暖かい紅い液体。
銀「そのまま意識、保っておけよ…今から連れて帰る…っ」
この気温に付け加えこの出血量。今意識を失わせるわけにはいかないと思い、止血をしながら必死に話しかける。
高「ぎん、……とき…」
銀「止血、痛ぇかもしれねぇが我慢しろ、痛いくれぇの方が意識保ってられんだろ…っし、これで良い。おい、おぶってやるから寝るんじゃねぇぞ」
銀時が高杉の腕を掴もうとすると相手から此方へ掴みかかって来た。
高「は、ぁ…銀、時……もう、行くな…」
銀「あ?話なら後で聞いてやる、今はとにかく…!」
高「銀時…っ!!」
話を聞け、と言わんばかりに声を張り銀時を引き留める。ぼやける視界で相手をどうにか見据えながら睨みつけ
高「もう…俺の前から…消えるな、俺を…拒絶、するな……」
銀「…っ」
高「俺は…もうお前の背を…見たく、ねぇ……」
銀「た、かすぎ…」
高「俺は…。お前が居ねぇと……」
今はこんな会話をしている場合ではないと思うも、目の前の男から目が離せない
銀「俺、は…。……今まで、散々…お前を傷つけてきたんだぜ…?」
高「これくれぇ…なんて事、ねぇ…」
銀「…っ、お、れは……お前の身も心も…傷付けるぜ…」
高「それでも…、お前じゃねぇと…駄目だ…」
その言葉を聞いた瞬間血まみれの相手を思い切り抱きしめていた
銀「馬鹿か、てめぇは……この馬鹿杉…っ」
高「は…、てめぇ、も…馬鹿……だろ…。…銀時、俺は餓鬼の頃から…ずっとお前が、好き…だった…」
銀「俺だって、お前が好きで好きで仕方なかった…」
高「そう、か……なら、よかっ……た……」
相手の言葉に安堵したのかズルッと銀時へ寄りかかって来た。…いや、高杉は意識を失っていた。その重さに気付いた銀時は現状を思い出し急いで相手を背負い万斉と約束した通りに鬼兵隊の船へと走り始めた――――――。
―――――――
―――――
―――
船へたどり着くと高杉を心配する幹部の奴等から敵視されながらも医者に預け回復を待つばかりとなった。
万斉の説明もあって銀時への殺気はなくなったものの、一向に目が覚めない高杉。
気が付けば一週間が経過し、その間も彼が目覚めるのを待つように傍に居続けた。
万「白夜叉…、主も飯を食え。主が倒れようとも面倒は見ぬぞ」
銀「こいつが目覚めるまでは倒れねぇよ。…今回は俺の所為でもある。それに…もう行くな、と言われたからな」
万「……そうか、晋助がそんな事を。…そう言う事なら仕方あるまい。……傍に居てやってくれ」
部下の言葉に思わず相手の方を振り向くと既に姿は無く、代わりに置かれた二つの膳。一つは普通のもの、もう一つは粥。…言うまでもない、高杉の分だ。
いつ目覚めてもいいようにこうして毎回二人分を持ってくるあたり、余程慕われているのだろう。…妬けるほどに。
銀「高杉……さっさと起きろ。お前の飯…俺が食っちまうぜ」
銀「もうどこにも行かねぇからよ……」
寝ている相手の手に触れるとこの間の冷えきった温度ではなく、きちんと温かみを感じる。
それだけでコイツが生きている事を実感できた。
銀「起きろってんだ……チビ助」
高「誰が…チビだ…」
銀「そりゃおま…え……っ高杉…!?」
高「るせぇ……でけぇ声、出すな…傷に…響く」
銀「高杉…目が覚めたのか…!待ってろ、今医者呼んで…」
高「少し黙れ、馬鹿銀時……、…どこにも行かねぇんだろ…なら、ここに居ろ…」
そう言って握られていた手を確りと握り返す。
こんな事をされては離れることも出来ず相手の髪を撫でながらため息をつき
銀「……状態が悪くなったら直ぐ…医者呼んでくるからな…」
高「ならねぇよ、もう平気だ…」
銀「そうかよ……。だが傷、痛むだろ……。…悪かった。俺の与えた傷が今回の元凶だ」
高「何謝ってんだ、てめぇは…。俺は気にしてねぇよ」
銀「けどよ……」
高「今更だろ…それに、俺だってお前に傷を与えてきた…。だがお前がどうしてもと言うのなら……キス、してくれや。それでチャラだ」
銀「………は?」
高「聞こえなかったのか、キスしろと言ったんだ」
銀「お前…本当に病人か…?まだ意識が混濁してんのか?」
高「…傷……痛ぇ…」
銀「!!…あぁ分かった、すりゃいいんだろ!こんなもん朝飯前なんだよ、コノヤロー…!!」
キス…?キスって何だっけ、キスってどうするんだっけ…!
内心テンパりながらゆっくり顔を近づける。
あんな怪我を負っていた相手は何故か余裕顔…
銀「目、と、ととと閉じろ」
高「ククッ……はいよ…」
相手が大人しく瞼を閉じた所で更に近づく。
高「銀時…」
銀「な!?…何だよ」
高「…愛してる」
銀「……!?!?」
突然の告白に一瞬思考停止するもギリギリまで顔を近づけ
銀「もう…どこにも行かねぇ……、高杉、俺も愛してる…」
囁くように言うと二度、三度と唇を重ねる。
互いの吐息が部屋中に響いていると突然扉が開き
万「白夜叉、先ほどから話し声が聞こえると隊士が言っていたのだが一体誰と…………」
銀「………あ」
万「……晋、助……?」
高「…よぉ」
万「……白夜叉」
銀「いや…これは、だな……」
万「白夜叉!!何故医者を呼ばない…!我らに声を掛けるどころか目覚めたばかりの病人にこんな事まで…!……ただで済むと思うな」
銀時が言い返す間もなく医者を呼びに走る万斉。
それを横目に笑うも傷口に障るのか肩を揺らしながら腹を抑える高杉。
遠くから女の声を筆頭に”白夜叉ぁぁ!”と怒号が耳居届く。
銀「……殺される」
高「…ふ、ククッ…」
銀「高杉、てめぇ…っ、……もういい」
こうなればヤケだと思い部屋の扉を閉めガチャッと鍵をかける。
その行動に流石の高杉も驚いたのか目を丸くし
高「おい、銀時…?」
銀「どうせ殺られんなら…悔いは残したくねぇ。俺は餓鬼の頃からずっと我慢してたんだ、こんなんじゃ足りねぇ」
高「……っ、俺は病人だぜ、銀時…」
銀「んなもん知るか…覚悟しろ、…高杉」
不敵に笑いながら近づく銀時を見れば諦めたように笑うも何処か嬉しそうにしている。
その笑みはまるで長年かけて積もった雪が温かみに負け解けていく様だった――――。
END
作品名:それはまるで雪解け水のように 作家名:棗-なつめ-