地球最後の一日3
眠れない。
どうも今日は寝つきが悪いらしい。
耳をすませると、他の奴らはもう寝ているらしく、寝息や、いびき(これは多分アメリカだ)が聞こえた。
「ん・・・・」
体を動かす。
そして、すぐ右隣にいる、昔の相棒を呼んでみた。
「・・・なぁ、日本・・・。」
相手の肩が揺れる。
「・・・なんでしょう、イギリスさん」
何を話そうか、迷った。
言葉が出てこない。
どうやら俺は、緊張しているらしい。
「イギリスさん?」
すぐ近くに日本がいる。
手を伸ばせば、すぐ触れられる。
なのに、怖かった。日本に触れるのが。
触れた途端、消えてしまいそうで。
何もかも、無かった事にされてしまいそうで・・・。
「悪い、何でもな―」
手に、何か温もりがあるものが触れた。
つむった目を開く。
その温もりは日本のものだった。
「日本・・」
瞬間、俺は伝えていた。
この数百年、閉ざしていた思いを。
日本が・・・・
「好きだ」
どうしようもないほどに。もう、俺たちは消えてしまうというのに。
言えた。やっと言えた。
相手は、どんな反応だろう。
同じ気持ちだったらいいな
とか
日本が俺のこと嫌いだったらどうしようとか。
そんな感情が、胸の中をぐるぐるする。
「日本」
相手の名前を呼ぶのが精一杯だった。
きっと俺は、変な顔をしているに違いない。
日本の答えを待って、百面相しているんだろう。
「・・・やっと、言って下さいましたね」
その言葉に顔をあげると、なんと日本は笑っていた。
「に、日本・・・?」
「いえ、ずっと、待っていたんです。その言葉。」
好きって言葉。
「私も・・・・」
心臓が、大きく脈を打つ。
そして、全身に血がめぐる。
日本が置いた一呼吸が、長く、長く感じた。
「私も、イギリスさんをお慕いしております」
ぶわっと、何かが溢れてくる。
それは物理的なものもあるが、心に秘めた、あらゆる感情でもあった。
「好き、好きだ、日本・・・っ」
そう、日本にすがる。
「ずっと・・・、好き・・っ、だったんだ・・っ」
「・・・はい・・・っ」
口を手でおおいながら、日本も涙する。
「二人でなーに、イチャついてんの」
「我達が起きてるの、気づいてるあるか?」
「あー、お前ら、折角の雰囲気を・・・」
「ヴェ、今日くらいいいよ、ドイツー」
「最後なんだし、二人とも僕と一緒になればいいのに」
「ロシア、君はその思考回路、どうにかした方がいいんじゃないかい?」
「ちょっと歯茎から血、出してみよっかアメリカ君」
騒がしい奴らが加わる。
「やっぱ起きてたのか・・・」
日本はというと、顔を赤くして、鎖国鎖国、とつぶやいていた。
もう、あと数分でこの愛しい地球が終わるなんて、考えたくもない。
この瞬間が永遠に続いて欲しかった。
「日本・・・また、明日・・・・」
「はい・・・。また明日、お会いしましょう・・・・」
後ろで俺たちをはやし立てる声がするが、気にせず、日本の唇に、自分の唇を合わせた。