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ありえねぇ 6話目 後編(続いてます)

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5.




杏里の首入り瓶を左腕で抱え、右手で分断された大鎌の柄部分を掴む。
紀田の、両手で刀を握って繰り出す突きの雨を、彼女は必死で掻い潜り続けた。


(ヤバイ)
(ヤバイヤバイ)
(私はどうしたらいいんだ? 新羅!!)


初めのうちは彼女だって、影で編み出した大鎌を掲げれば、正臣の攻撃など簡単に封じてしまえると思っていた。

彼女の武器は、一発でも刃が掠りさえすれば良い。
肉体に全く損傷を与えず、精神に直接ダメージを施し、身体を麻痺させる類のものだから。
しかも鎌と日本刀では鎌の方が大きく、攻撃の距離は獲物が長い方が有利な筈だと踏んでいたのに。

考えが甘かった。
そう気がつくのに、時間もかからなかった。


紀田の素早さは尋常ではなかった。
何度大鎌を振り回したって、一つも当たらなければ話にならない!!

彼女の武器は性能上、小回りは利かぬし、振りかぶる動作は大きく、無駄なタメの動きを多々強いられる。
その空白時間に、彼は何度も攻撃を仕掛ける事ができるのだから。
この戦闘で、己の不利が判った瞬間だ。

セルティが正攻法を諦め、やみくもに鎌を水平に薙ぎ払えば、紀田も素早い反射神経で、妖刀の刃を合わせて食い止めた。

そのたった一合。
反射的に切りかかってきた刃を凌ぐつばぜり合いが、致命傷になるなんて。

影の大鎌の刃は、脆くも真っ二つに切り裂かれてしまったのだ。


(あああああああああああああああ!! しまったぁぁぁぁぁぁ!! 馬鹿だ私!!)


【罪歌】はかつて、自分の首と記憶を奪った。あの刃は、纏っている影どころかセルティの本体すら切り落とせる。
そんな大事な事を、すっかり失念していた。


(逃げなければ!! 今すぐに!!)

例えばここで今、セルティの足を切り落とされでもしたら?
もう二度と新羅の元すら戻れなくなるだろう。
それどころか復讐に燃える紀田にとっ捕まり、原型を留めない程切り刻まれでもしたら、どうなってしまう?

バラバラにされた肉片の一つ一つがそれぞれ生きるのか?
それとも動いてもいない心臓でも、抉られたら死ぬのか?
自分は、頭部が破壊されなくても死ぬのか?

判らない。
だからこそ恐ろしい。
予測できないからこそ、今度こそ死ぬかもしれない。
そんな己の読めぬ未来が恐ろしい。


(逃げる。絶対に逃げ延びてやる!!)


幸いにも、手に入れて日が浅いお陰か、彼はまだ【罪歌】の扱いに慣れていない。
突き出す刃の軌跡は、フェイントも多々こなせた杏里以下。

だが男女の力の差は侮れなく。

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

彼の、猫みたくしなる肢体。
縮まっていたバネが突如伸び上がるような、加速づいた回し蹴りがセルティを襲う。

(くっ!!)

驚異的なスピードにのった重い足蹴を、彼女は紙一重でかわした。
が、すぐに反対側から、罪歌の刃が弧を描き迫り来る。
身体を捻っても、間に合わない。
切られる前にと、咄嗟に彼女は折られた鎌の柄を持つ腕で防御を固めた。

だが。

影の棒切れなど、何の盾にもなりゃしなかった。
ざくりと肉を切り裂く鈍い音が聞こえ、同時に火に押し当てられたような熱さに身が固まる。
黒い影で防護されている筈のセルティの右ひじを、無慈悲な刃が切り裂いたのだ。


(ああああああああ、ああああああああああああ!!)


最悪の予想が当たってしまった。
影の包帯をいくら巻きつけても、妖刃【罪歌】で切られた傷口が、全然塞がらない。

戦きや恐れ、そんな負の感情は、ますます身の動きを鈍くする。
それにプラスして、推定7キロもある瓶を片腕に抱えているのだ。我が身を庇いつつ避けるので一杯一杯。
このままではとても脱出できそうにない。


「杏里の首、返しやがれぇぇぇぇぇ!!」

痛みと怒りと焦りと悲しみと恐怖で、セルティの方がパンクしそうだ。

(うるさい!! 勝手な事ばっかいいやがって!! 彼女をお前になんか渡してどうなる!!)

せいぜい涙を流し、セルティを呪い、彼女を丁重に葬って終わりだろうが!!
絶対に渡せない!! 渡せるものか!!
新羅にこそ、杏里の首を見せなければならない。
万に一つでも、彼女が助かる可能性に賭けるのなら、セルティがこの世で最も信頼しているあの闇医者と、口惜しいがネブラに研究室を持つ森厳に頼るしかありえない。


影を飛ばして全身を包んでも、紀田は難無く切り裂いて脱出してしまう。
ロープ状態にして縛ろうにも、素早すぎて捕まえられない!!


(どいてくれ!! 頼むから私を行かせてくれ紀田!!)


大鎌の残った柄部分を振り回し、槍のようにして突いてもあっさり切られ、打ち据えようとふりかぶれば刃で突かれる。
もう逃走手段が何も思いつかない。

その時だった。
「がふっ!!」
(!!)

突然、セルティの目の前で、紀田が横殴り状態で吹っ飛ばされた。
使い魔の黒バイクが、ウィリー体勢で前輪を器用に操って彼を頭から薙ぎ払ったらしい。
誇らしげな馬の嘶きに促され、彼女も慌ててバイクに駆け寄る。

後部座席に杏里の生首入り瓶を置けば、コシュダ・パワーが勝手に影のロープでぐるぐるに縛り付けてくれる。
これで、宿敵の交機の白バイク軍団とすれ違ったって、何を運んでいるのか判るまい。

(早く、早く、早く!!)

バイクに跨り、アクセル全開で走らせる。
一刻も早く、自分にとって安全な場所へ。
そう、新羅の元に。
戻りたかった。帰りたかった。




なのに。
それから僅か数分後。


「黒バイィィィィィィィィ!!」


紀田正臣の絶叫が、背後から追いすがってきた。


サイドミラーで背後を確認すれば、其処に映るのは静雄が親しくしている門田達四人組みが乗る、例の白ワゴンがあった。
但し、車の助手席には、いつも黒ニット帽を被る門田の姿ではなく。
窓を全開に開け、その窓枠に身を乗り出すどころか腰を降ろし、所謂【箱乗り】状態で刀を構える紀田がいた。


どんなに加速をしても引き離せない。
時速100キロ越えのスピードでも物ともせず、バイクにぴたりと張り付いて並走する渡草のドライブテクニックも脅威だが、窓から転がり落ちれば首都高に叩き付けられお陀仏身なのに、そんな身の危険を全く顧みず、刃を突き出す紀田の執念が恐ろしい。


「死ね!!」


瞬時に身体を捻り、紙一重で刃をかわす。
けれどセルティが避けたツケは、コシュダが払う羽目となった。
魂を切る妖刀に突き刺され、甲高い馬の嘶きが夕闇に放たれる。


一瞬気を取られたセルティも、続いての突きは避けられなかった。
心臓を貫かれた。
だが、どうせ自分は元から鼓動なんてない。
それでも、引き抜かれた刃の痕、ぽっかりと空いた空洞と、あまりの痛みに気絶しそうだ。


切りつけられた刀傷が、全然塞がらない。
影をガーゼみたく何層も重ねて張りつけ、応急処置をしても治らない。
身震いがした。


あの刀は、やっぱり自分を易々とバラバラにできる。
捕まったら最期だ。

「待ちやがれ!!!」

四肢をバラバラに切断され、死ねずに生き続けるなんて、どんな恐怖か!!