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ありえねぇ 6話目 後編(続いてます)

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ワゴン車に追い回され、刃を散々浴びせられ、一方的に切られまくっての、正に文字通り命からがらの逃走劇の始まりだった。



★☆★☆★



その頃、首なし幽霊の帝人は、独尊丸を影の風呂敷で閉じ込めたものを抱っこしながら、薄暗い夜道をとぼとぼと彷徨い続けていた。

頭上は首都高らしく、多種多様なエンジン音が響いてくるが、ここは高架の下なので、逆に車も人も殆ど通らない。
安心して歩くことはできるけれど、迷子な現実を瞬時に打破する手段は思い当たらず、今はただ地道に池袋に向かっていくしかない。


(ああ、どうして私は幽さんが購入したマンションの住所を、せめて一回でも見ておかなかったんだろう?)

ネコちゃんが前足でたしっとパンフレットを押さえたからと言って、其処の建物丸ごと全部お買い上げなんて非常識な買い物を目の当たりし、ただ驚いていた今朝の自分に蹴りを入れたい。

自分と意思疎通ができる稀有な人なんて、あの人しかいないのに。
もしもう二度と会えなかったら?

(……私はまだ良い。いざとなったら潔く成仏する道を探せばいいんだから。でも独尊丸ちゃんは?……)

影の風呂敷が気持ち良いのか、彼はずっとすやすやお休み中だ。
ここがアメリカなら、犬猫ペットには飼い主の住所と連絡先が記されたマイクロチップを埋め込むので、然るべき施設の前に連れて行けば、保護され主の元へと送り届けられただろう。
しかし、日本ではとっとと保健所行き。

まだ生後数ヶ月の仔猫だから、運が良ければ新たな飼い主を探して貰える可能性もあるけれど、惨い話だが年間10万頭以上が殺処分されているのが現状で。
引き取り手も無く一週間の保護期間が終れば、大抵殺されてしまう。

(はははは、こんな無駄な知識はすらすら思い出せるのに、私自身の事は、どうしてあんまり判らないんだろう?)

やっぱり、幽霊だからだろうか?
浅葱色の学生服を着て、タンポポ色に髪を染めた少年と、今時珍しいぐらい漆黒で艶やかな髪をおかっぱに切りそろえた眼鏡少女と、いつも三人でつるんでいた程度は薄っすらと覚えているのだが、彼らの顔すらぼやけていて判らない。

家族も判らず、住んでいた場所も知らないし、死んだ理由も不明。
幽が余計な詮索を一切しない人だったから、帝人も頭を悩ませなくて済んだのだけれど、こんな非常事態なのだから、何でも良いから独尊丸にとって益に繋がる記憶の一つや二つ、何が何でも思い出したいのに!!

何で働いてくれない、私の脳みそ。
ああ、頭が無いからいけないのか。ちくしょう!!


(はぁ、愚痴ってても仕方ないか)


兎に角、こうなったら目指すはまず池袋。
そしてエントランスが工事中の大きなマンション、つまり引越し前の幽の住処に戻るのだ。
其処は幽の出待ちを狙って、マスコミのカメラや女子ファンが結構屯していた筈。そんな目立つ物件ならば、探し回れば何とかなる筈だ。

(兎に角、独尊丸ちゃんがひもじくなって鳴き出す前に、辿り付けますように!!)

そう、決意新たに大きく足を一歩踏み出したその瞬間。
ぼぐっとえぐい音を立てつつ、帝人は前倒しでアスファルトにすっ転んだ。

(…………い、………いったぁぁぁぁぁぁ!!………何、何、何ぃぃぃぃ!!)


背中に硬くて重い何かが、勢いよくぶち当たったようだ。
慌てて腕に抱えた猫を見ると、影風呂敷がクッション材になってくれたようでダメージ無くすよすよと眠っている。

この、大物め。

ほっと安心した途端、アスファルトで盛大に身体を擦った箇所が、急にじくじくと疼き出し、あちらこちらが痛くなる。

一体高架から何が降って来たんだと、寝転んだまま背中に直撃しやがった犯人を探せば、彼のほんの真横に大きな瓶が転がっていた。

(…………え?………)

破損したガラス瓶の中、テラテラと透明な液体にまみれたそれは、紛れも無く。

(……首?……、でも作り物……、だよね?………)


濡れそぼる漆黒の髪の毛といい、うっすらと開かれた瞼の中に見える赤い瞳。
嫌にリアルなそれに、そ~ろりそろりと手を伸ばし、捕まえようとしたけれど、帝人の手はあっさり通過してしまった。

(………って事は、これって本物の人間!!……)

痛みなど瞬時に忘れて飛び起き、即刻体に纏わりつく影を伸ばして手にぐるぐると巻く。

どくんどくんと、心臓の音がやけに煩く聞こえる。
っていうか、幽霊な自分にそんな物が本当に動いているのか訳わかんないけれど、緊張に身を震わせながら【それ】を両手で持ち上げた。

少女の生首だった。
しかも、口元が!!

「……アイシテルアイシテルアイシテル……」


(ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 動いてる動いてる!! 何これぇぇぇぇぇ!!)


そんな筈ないのに!!
人間が頭部だけしかなくて、何で生きられるのだ?


落し物は警察に届けるべき。
だけどこんなのどうすればいい?


自分だって幽霊だ。
しかも首無しと、かなり珍しい存在で。
かといって、首だけになっても生きている、どう見たって訳ありの少女をその辺に捨てるなんて、まっとうな少年には無理。


もうどうしていいか判らない。
あわあわと慌てふためいたって、何一つ解決なんてしない。

(ねぇ、君、一体どうしたの? どうしてそんな姿になってしまったの?)

って、問いかけたくても、今の自分には口も無い。
少女も壊れたCDのように【愛してる】の五文字を延々呟いているだけだし。
突如、帝人は理解した。


ああ、この子はとっくにもう……。


(……そうだよね。まともな心の持ち主なら、精神を病んでしまってもおかしくないよね。可哀想に……)

自分だって、幽に拾って貰えなかったらどうなっていただろう?
呼びかけても気を惹こうと努力しても、誰も彼もが自分を認識できない中にたった一人。
しかも首が無い状態で。
孤独で寂しくて誰にも返り見られぬまま、誰にも認識されずにこの現世を彷徨い続ける。

いかに強靭な精神を有する者だって、耐えられる訳がない。


この少女は、幽に出会えなかった場合、辿っていたであろう自分の末路だ。
見捨てられる訳がない。

(大丈夫だからね。もう大丈夫だからね。今からは私がいるから安心して)

語る口は持たないけれど、もし思念が届いてくれるのなら。
彼女に、この自分の気持ちが届きますように……、と、祈るように念じていたその時だった。



「みかどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



ポルシェの、独特なエンジンの爆音。
それに、いつも冷静沈着な筈の日本一有名な若手俳優さんのありえない絶叫。

(え? え!? 何でどうしてここに幽さんが!!)

あわあわと少女の生首を、迷ったけど一旦自分のうごうごとうごめく影の塊に押し込んで隠した。
自分が一体どういう体の作りをしているかは知らないけれど、黒い体に不自然なもりあがも無く、なんとか綺麗に収納する事ができたようだ。

そして独尊丸が入った影の風呂敷包みを抱っこし、街灯の下でひっそりと佇んだまま待つと。


「帝人ぉぉぉぉぉぉ!!」

運転席から駆け出してきた幽の必死の形相。