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ありえねぇ 6話目 後編(続いてます)

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6.




ぎゅうぎゅうに力一杯、もう離さないと言わんばかりの抱擁。
食いしばった唇、ぎゅうと瞑られた瞳。
そろそろと見上げれば、俯く彼の美しすぎる顔は今にも泣いてしまいそうにくしゃくしゃで。


「……良かった。お前が独尊丸から離れてなくって……。だから俺はお前を取り戻せた……」

掠れる声を詰まらせ、嗚咽をかみ締めるように。
目尻に溜まる涙の雫は零れなかったけれど、帝人を抱きしめる、彼の腕は震えていた。

(え? え? 幽さん!?)


「……独尊丸の首輪に、GPS機能をつけていたんだ。だから携帯で追跡できた……。良かった、本当に見つかって良かった……。お前は、俺以外の人間から認識して貰えないから。……寂しい想いをもうさせたく無いんだ。お前は俺の家族なんだから、ずっと俺の傍にいろ、いいね?」

始めはただ、おろおろするしかない帝人だったが、そろそろと両腕を伸ばして、幽の背をふうわりと包み込んだ。

PADが無い今、自由な会話はままならないけれど。
嬉しくて。
この気持ちを伝えたくて。

『幽さん、ありがとうございます。私は幸せ者です』と、一言背中にゆっくりと書く。

たった数日一緒にいただけの、居候のしかもこんな訳判らない首無し幽霊を、必死になって心砕いてくれる宿主がいるなんて。
ありえない。

こんな人の良すぎる性格で、魑魅魍魎が渦巻く芸能界を渡っていけるのか甚だ心配になるけれど、こうゆう懐深い幽さんだからこそ、傍に居る事を許して貰えた。
本当は、お邪魔じゃないかと悩む事も多々あったけれど、この人が今日まで嘘をついたのを見たことないから。
もうそういうのは考え無い事にしよう。


『いつか成仏するまで、私は、幽さんの傍でお役に立ちたい』
「……ふざけた事抜かすと、首輪と檻準備するよ……」

背に文字を書き終わった途端、くぐもった声で幽さんが何か呟いたが、小声でぼそぼそとしゃべられても聞き取れない。
こてりと小首を傾げ、『今何て?』と背中に書けば、彼はうっすらと唇に弧を浮かべ、ゆうるりと顔を上げた。

「まぁいい。帝人、乗って。帰るよ」

抱擁が解かれ、ポルシェの助手席側のドアを開ける彼の顔はいつもの無表情に戻っていて。
帝人は慌てて独尊丸入りの風呂敷を抱え、傷だらけになった無残な車に飛び乗った。



★☆★☆★


「セルティィィィィィィィィィィィ!! しっかりしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

新羅の絶叫が、防音完備な室内に響き渡った。

12階にあるマンションの一室に、命からがら逃げ帰ってきた彼女とバイクの風貌は、正に満身創痍という言葉が相応しいだろう。

セルティの右肩はばっさり割られ、腕がぶらぶらとただくっついている状態。足も太ももが半分割られ、歩くのもおっくうなぐらいよろよろと横に蛇行しながら壁に手を着いて、かろうじて前に進める感じだ。
コシュダ・パワーもズタボロに切り裂かれ、バイクの原型を保っているのが不思議な状態で、セルティと共に室内に上がりこんだ途端、廊下に横倒しとなって倒れて動けなくなってしまっていた。

白衣を翻し、涙目で駆け寄ってきた彼は、小脇に抱えていた茶封筒を勢い良くひっくり返すと、中から色とりどりの布の小袋を引っつかみ、すぐさま彼女を廊下の壁に背を持たれかけさせるように座らせ、切り裂かれた右肩と太ももを中心に小袋を押し当てた。

途端、じくじくと鋭い痛みが休む間も無く襲っていた刀傷に、じんわりと暖かな気が纏わりつき、セルティを悩ませていた鈍痛を少しずつ和らげていく。

彼女の横倒しになった馬も、体にばら撒かれた小袋のお陰か、ゆっくりと傷口が塞がっていってるようだ。
気持ち良さ気な馬の嘶きに、彼女の張り詰めていた緊張の糸が、ゆうるりと解れていく。

『新羅、この小袋は何だ?』

真っ白い廊下の壁に影を使って文字を大きく書くと、読み終えた新羅が大きくため息をついた。

「霊験が保障されている、格の高い神社の【御守り】だよ。伊勢と出雲が多いかな? 妖刀は怨霊と同じような物だからね。切り口は穢れ。祟られたような物か。そして君達は妖精さんだ。人間の体と違う。清めれば君やコシュダの傷口は直ぐに塞がるよ。だから完治するまでは大人しくしてて欲しいなぁ」

念のためにと神社で貰ったお神酒や、天然の塩を振り掛けられれば、治癒のスピードもみるみる上がった。
凄いご利益だ。
でも、彼は闇医者の筈なのに、どうして目に見えない世界の事にまで詳しいのだろう?
解せぬ。

『もしかして、私はこの【御守り】とやらを持ち歩いていれば、罪歌の攻撃を防ぐ事ができたのか?』
「どうだろう? 試した事が無いから何とも言えないけれど、無防備よりマシ程度じゃないかな? そんな事より今は静かにしていようね、セルティ」

『新羅、私は動けるようになったら、直ぐに行かなきゃいけない所がある』


杏里の首を、首都高のどこかに落としてしまったのだ。
紀田にコシュダの荷台を切り裂かれ、彼女のホルマリン漬けの頭部入りビンが、勢い良く飛ばされ、首都高の高架から落下していくのを、100キロ以上のスピードで逃げ回っていた彼女にはどうする事もできなかったのだ。

早く行って見つけてあげねば。
そんな彼女の焦りを知っている筈の新羅は、美しいアルカイックスマイルを浮かべ、にこやかに彼女の腕に、一本の注射の針を埋め込んだ。
じわじわと肩の肉を掻き分けて入ってくる液体が、物凄く痛い。


『新羅、これ何?』
「ん? これ、君専用の筋肉弛緩剤」
『はぁ!!』

どうやら即効性だったらしい。
すぐに体に力が入らなくなり、軟体動物のようにくったりと背中を預けていた壁にももう寄りかかることができなくなり、ずるずると床に沈んでいく。

『新羅、貴様なんで!!』

「父さんが言うには、ネブラの試作品なんだけど、いつか使って使用結果レポートを出せって言われていた代物。本当は使いたくなかったけど、仕方ないよね。僕が散々静養しようと持ちかけているのに、君ったら延々僕を無視するんだもん」

『だからっていきなり薬を盛る奴があるか!!』

セルティの抗議も何処吹く風。
新羅は力が入らずに横倒しになった彼女を優しく抱き上げると、姫抱きのまま、いそいそと彼女の寝室へと運び込んだ。

「兎に角、君は暫く外には出さないから」
『は?』

世の中のお嬢さんがトキメク、ベッドで彼が覆いかぶさり、お手手が首の真横にドンとついた状態で、無表情に宣言され、セルティの方がパニックだ。

「君を殺せる妖刀の持ち主が、君を襲った。という事は敵だ。駆除が完了するまで絶対僕は君を閉じ込める。それ以前に僕の大切な愛しい君を、こんな酷いズタボロに変えられてさ。許せる訳ないじゃないか。さぁ、今の罪歌の持ち主は誰?」

さっさと吐けと言わんばかりの、新羅の冷たい迫力が怖い。

『教えたらどうする?』
「勿論殺すよ。大丈夫、死体はネブラで髪一つ残さず溶かすから、完全犯罪確実だ。安心して」

(できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


殺されかけたけど。
物凄く怖かったけれど。
それでも、誤解が解けさえすれば、きっと分かり合える筈だと信じている。