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はろ☆どき
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もきゅもきゅ兄さん【冬コミ89 無配】

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ある風の冷たい日の午後に、アルフォンスは東方司令部を訪れた。受付で挨拶をして中に入ると、真っ直ぐに指令室へと進む。数ヶ月溜め込んだ報告書を提出しに先に訪れているはずの兄と、そこで待ち合わせているのだ。
 報告はもう終わっているだろうかと思いながら、司令部のドアをがちゃりと開けた。
「こんにちはー。あれ、兄さん一人? 中尉や他の人は?」
 何時もなら揃ってこちらを向き、次々に歓迎の言葉を口にしてくるであろうマスタング組の面々は誰もおらず、しんとした無音が返ってきただけだった。
 アルフォンスは思わず、キョロキョロと部屋の中を見回した。が、並んだ机の席には誰も座っていない。部屋の隅の簡易なソファーに、エドワードが一人陣取って本を読んでいる状態だった。
 報告を既に済ませたという様子には見えない。この分では報告書を渡すべき相手も、奥の執務室で積み上がった書類と共に籠っているのではなく不在なのだろう。
「んー、大佐と中尉は午後一からの会議が長引いてるって。他の皆も、訓練やら巡回やら急な呼び出しやらで、ちょうど出払っちまってる」
 エドワードは本から目を離さないまま、つまらなそうに状況を説明した。本に集中しているわけでもない様子から察するに、どうも退屈しているようだ。つまり、この状態はそこそこ長い時間続いているのだろう。
 それでも大人しくここで待っているのは、アルフォンスと待ち合わせていたからであろうし、報告書を見てもらえないと困るからでもあろう。しかしアルフォンスには、兄の様子は構ってくれる相手がいなくて拗ねているように見えた。
「そっか。おやつにと思って差し入れ買ってきたんだけど、これじゃ冷めちゃうな」
 アルフォンスはかしょんと首を傾げながら、どうしたものかと腕に抱えてきた紙袋を見下ろした。そこからはホカホカと白い湯気が上がっている。時計は午後の三時を過ぎたところだ。 ちょうど休憩時だと思い、司令部の親しい皆へと差し入れを買ってきたのだが。
 それを聞いたエドワードはようやく顔を上げてアルフォンスの方を見ると、途端に大きな瞳を零れんばかりに見開いてきらきらと輝かせた。
「おっ、それ肉まんか? うっまそー」
 見事な黄金色の瞳の中には、きらきらと星マークが飛んでいるようにすら見える。
「うん、通りがかった道のとこに露店が出ててさ。ちょうど小腹が空く頃かなーと思って買ってきたんだけど……あ、こら兄さん!」
 まったく、食べ物の事になると現金だなあと思いながらアルフォンスが話していると、エドワードはソファーから飛び降りて、すたたたっと目の前までやってきた。
「うひょー、ほっかほか! いっただっきまーす」
 そして止める間もなくひょいと肉まんを手に取り、ぱかっと口を大きく開けた。
「あ! もう、兄さんたら。皆で休憩にと思って買ってきたのに、先に一人で食べたら駄目じゃないか」
「だって、こういうのはあったかいうちに食べないとだろ。はふっ、うまー」
 既にエドワードは、もきゅもきゅと肉まんを口いっぱいに頬張っていた。
 そのいかにも「美味しくて幸せです」という表情を見てしまうと、アルフォンスも叱る気が失せてしまう。
 それに兄の様子は、頬いっぱいに餌を頬張る小動物――リスとかハムスターといった類の――を連想させ、動物好きのアルフォンスとしてはつい、微笑ましい気持ちになってしまうのだ。
「もー、しょうがないんだから……。一人一個ずつだけだからね。後で皆が食べる時は、兄さんの分はないからね?」
 苦笑しながら忠言するが、エドワードが意に介している様子はない。まあ本当は、いつもどおり一個では足りないと主張するだろうからと、兄の分は多めに買ってはあるのだが。
「でもほんと、このままじゃ冷めちゃうなあ。食堂で温め直してもらえるかな」
 アルフォンスが思案していると、がちゃりとドアの開く音がした。
「通信部から戻りましたー」
 現れたのはフュリーだった。壊れた通信機の修理に駆り出されていたらしい。
「あれ、アルフォンス君も来てたんだね。エドワード君、一人で留守番させちゃってごめんね。皆まだ?」
 そうフュリーが言っている傍から、次々と他の者も戻ってきた。
「巡回から戻りました。第二地区は異常なしです。やあ、エドワード君、アルフォンス君」
 街の巡回から戻ってきたファルマン。
「こっちは第四地区のしょーもないいざこざ納めてきたぜ。よお、エド、アル、久しぶり。大将、美味そうなもん食ってるな」
 市民からの通報で、憲兵では片がつかなかったらしい揉め事を納めに行っていたブレダ。
「実技訓練終了しました~。あー疲れたぜ。お、美味そうなもの抱えてるな、アル! 大将もまあ幸せそうな顔して食って……ほっぺたに食べカスが付いてるぞー」
 司令部内の実技訓練に参加していたというハボックは、そう指摘すると自分の頬を指でトントンと突いて見せる。
「え、どこどこ?」
 エドワードは相変わらずもきゅもきゅと肉まんを頬張ったまま、肩を竦めて頬を拭うような仕草をした。両手は肉まんを持つことに集中していて離せなかったらしい。
 その様子が頬を目一杯に膨らませながらも、手にした木の実を離すまいと必死なリスのようで大変に可愛らしい姿に見え、その場にいたエドワード以外の全員がほっこりとした。
 日頃は豆台風なのに……などとは、もちろん誰も口には出さなかったので、部屋の中は和やかな空気に包まれた。
「なあ、取れた?」
 一人その空気に気づかぬエドワードは、ふっくらつややかな頬をこちらに見せてくる。
「いや、それじゃ取れないだろ」
 しょうがねえなあと、ハボックが苦笑しながらエドワードの頬に手を伸ばそうとした時。