もきゅもきゅ兄さん【冬コミ89 無配】
「随分と美味しそうなことになっているな、鋼の」
いつものエドワードにとってはいけすかない声と共に、ロイが指令室へと入ってきた。長引いていた会議がようやっと終わったのだろう。疲れているのか、少々目付きがきつくなっている。
それを見たハボックは伸ばしかけていた手を止め、さっと背中の後ろにやり明後日の方を向いた。
「やっと会議終わったのかよ、大佐。待ちくたびれたぜ」
エドワードはロイの目付きなど気にした風もなく、いつものように言い返した。
「忙しい上官が、滅多に顔を見せない部下の報告を聞いてやろうと、寄り道もせずに戻ってきたというのに。その部下である君の方は、美味いもので頬を膨らませて腹を満たしているとは暢気なことだな」
対するロイも、エドワードの不遜な物言いを諌めるでもなく、厭味な口調でさらに言い返す。
「なんだよ、忙しいんならちゃっちゃと切り上げりゃいーじゃねえか。あんた得意だろ、そういうの。それとも、そんなんするのも面倒なくらい、つまんない内容でだったのかよ」
「む、つまらない内容だったことは否定できんな」
ロイが思わず肯定するのを、後から入ってきたホークアイが聞き咎めて眉を寄せたが、何も言わずにため息をつく。余程、実りのない会議だったのだろう。
「それより、会議終わったんなら早く報告書読んでくれよ。もうすぐ終わるって聞いたから待ってたのに、来てから一時間は経ってるぜ」
普通、上官に向かって部下がこんなことを言ったら、不敬罪で罰せられるところだろう。だが、この二人のこんなやり取りはいつものことなので誰も止めようともしない。うっかり首をつっこみたくないというのもあるが。
「来る前にこちらのスケジュールを確認しないからだろう。予定より長引いたのは確かだがね」
やれやれと言った様子で、ロイはソファー前のテーブルの上に置いてあった報告書の束らしき物を手に取った。なんだかんだと言いながらも、報告書をすぐに読むつもりらしい。
「まったく、こんなに分厚くなる前に報告に来たまえよ。読むのに時間がかかりそうじゃないか。読んでいる間に、アルフォンスの差し入れが冷めてしまうな」
そう言いつつ、ロイは報告書をぱらぱらと捲った。
「あ、そうだな。あんたもあったかいうちに食えよ。せっかくアルが買ってきたんだからさ!」
あれだけ報告書を早く読めと急かしていたエドワードだったが、今度は先に肉まんを食えと言わんばかりにアルフォンスの抱えている紙袋を指差した。
「ふむ。そうだな……」
ロイはちょっと面白くなさそうな顔で片眉を上げ、指差すエドワードと、アルフォンスが抱えている肉まんの包みを見比べる。それからニヤリと傍目からはわるーく見える笑みを浮かべた。
「では、遠慮なく」
ロイは首を傾けて――腰もだいぶ折った状態で――、エドワードの顔へと接近し、そして……。
ぽかんと見上げていたエドワードのふっくらした頬を、ぱくりと唇で食むと、ついでに舌でペロリと舐めた。
「ご馳走さま」
その場にいた者は皆、動きを止めた。もちろんエドワードもだ。息が一瞬止まっていたほどだ。
「なっ、ななななな、なにっ――?」
その一瞬の後、エドワードは顔を沸騰させたように真っ赤にして叫んだ。
「た、たいさが、オレの、オレのかお、くった!」
「何を言っているんだね。君が食べろと言うから、頬に付いていた肉まんのかけらをご相伴に預かっただけさ」
ロイはしれっと答える。しかしエドワードの方は、大混乱中だった。
「オレのかおが食われたあぁ。てめっ、肉まん食うならあっち! あっちだろ? うがぁ」
「ああ、君のほっぺたがあまりにも肉まんみたいにふっくらで美味しそうだったから、つい間違えてしまったよ。あっはっは」
「つい、じゃねえだろ! 絶対わざとだろ?!」
ロイの機嫌は上昇し、対するエドワードの機嫌は急降下するかに見えた。このままでは豆台風が大変なことになる。上司の気分転換で仕事が捗るようになるならよいことだが、自分達に被害が及ぶようになるならば別である。そろそろ止めに入るか、しかしどう割って入ったものか。
作品名:もきゅもきゅ兄さん【冬コミ89 無配】 作家名:はろ☆どき