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似てる二人は喧嘩する

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平和島静雄が朝
自宅アパートへと戻ると
そこには細身の人影が
コートの襟を立てて静かにドアに背をもたせて
待っていた

「・・・よぉ。」
「おはよう。」
「何だよ。来んなら連絡くれれば良かったのによ?」

つかお前

「まさかずっとここで待ってたとか無ぇよな?」

有名人の弟を気にして
急に周囲に目を走らせながらドアの鍵を開け
弟を先に押し込むようにする静雄

「まさか。たったの10分ほど。」
「10分も?!お前、連絡しろよ?!」
「どうせもう帰って来ると思ったから。」
「帰って来なかったらどうすんだよ。」
「・・・ここへ来る途中の車の中から」

ホテルの前で別れる

「兄さんと折原さん見たから。」
「え。」
「声掛けて兄さん車に積んでも良かったんだけどね。」
「お前、」
「やっぱりホテル出た直後は気まずいかなって思って。」
「幽、」
「まさか。知られてないとか本気で思ってたの?」
「・・・知ってたってか?」
「ずっと前からね。だって高校からでしょ?」
「・・・マジかよ・・・・。」

平和島静雄は深い溜息をついて
ドサリと部屋の真ん中の
コタツ兼食卓の前へと座り込む

「座れよ。散らかってっけど。」
「うん。本当だね。」

平和島幽は
座れと言われてもそのままでは座れないので
洗ったのか洗う前なのか読む前か読んだ後か
判別つかないもろもろの布類や雑誌類を押し退けて
どうにか兄の斜め横に座る面積を確保する

「・・・参ったな。」

カチリと100円ライターで煙草に火を付ける兄を
幽の表情の薄い瞳が追う

「煙草。あんまり吸い過ぎない方がいい。」
「あぁ?あぁ・・・解ってんだけどよ。」
「父さんはとっくに禁煙したらしいよ?」
「ホントかよ?へぇ。」
「家、帰ってないの?」
「そうだな・・・。お前もだろ?」
「まぁね。仕事詰まってるし。」
「だろうな。それよか何だ。用があって来たんだろ?」
「あぁ。今度、父さんと母さんの銀婚式なんだ。」
「ハァ?何だそれ?」
「・・・兄さんは知らないか。結婚25周年の記念日だよ。」
「へぇぇ。お前よく知ってんな。で?」

それがどうしたと
あくまでもこういう世事には疎く
興味もあまり無い兄に
弟が淡々と世間一般の祝い事の説明をする

「だからね。俺達で何かお祝いしてあげなくちゃと思って。」
「そうか。お前がそう言うんならそれがいいんだろな。」
「旅行とかのプレゼントでもいいかと思ったんだけど。」
「おう。いいんじゃねぇのか?」
「でも、母さんがいつも顔見せなさいって言うし。」
「だな。お前も俺も家へあんま帰んねぇし。」
「久々に4人で食事とかの方が喜ぶのかなって。」
「まぁな。それもそうか。」
「だからその相談ていうか。25日の日曜日空けておいて。」
「25日か。おぅ、いいぜ?つかお前仕事休めんのかよ?」
「その為に前から調整しておいた。」
「ハァ。さすがだな。」
「じゃ。覚えておいて。」


チラと腕時計に目をやった幽が
雑然とした部屋の中に
まさに掃き溜めに鶴のごとくに立ち上がる

「お、もう行くのか?コーヒーくらい飲んでけ。」
「・・・そのポットの中のお湯。いつの?」
「あ?うーん・・・?イヤ覚えてねぇ。」
「ありがとう。また今度にする。」
「そうか?いいのか?」
「うん。あまり時間無いから。」
「そか。悪ぃな。忙しいのに。」
「別に兄さんが謝ること無いよ。」

分刻みのスケジュールで
プライベート時間がほぼ無いも同然の弟に
親の銀婚式の取り仕切り一切を任せる事になるのは
少しも気付いていないらしい兄が
ただ来てくれた事だけを感謝する
そして
小さな頃からそういう役回りの弟は
そんな兄を疎むことも無く

「じゃ。」
「おう。仕事頑張れよ?」
「ありがと。」

鍵はちゃんと閉めなよ

自分の高級マンションとは天と地ほどの差の
安アパートのドアを開けて出て行きながら
弟は兄の部屋の戸締まりまでに気を配り
あぁ解ってると咥え煙草で
少しも解っていない様子の兄がコタツから手を振る
まぁ
兄の怪力があれば少々の賊が入っても
返り討ちに遭うだけだが
と弟が溜息をついてドアを閉めると

フッと誰かが笑うような気配が微かにして

だが少しも動じる事なく
平和島幽は安アパートの鉄製の簡易廊下から
階下の路上を見下ろす

「やぁ?」

いい朝だね

ポケットに手を入れて
特徴的ないつもの上着姿で
にっこり上を見上げているのは折原臨也だ

平和島幽はそれにはすぐに答えず廊下を歩き
優雅な動きで階段をカンカンと下りきってから
近づいてきた折原臨也に
「おはようございます」と挨拶をした

「ん。おはよう。」
「車に気付いてつけて来てたんですね。」
「その台詞は頂けないなぁ?先につけてたのは君だろ?」
「偶然ですよ。」
「どうだか?」
「生憎とそんなに暇がありません。」
「だよね。今をときめく人気絶頂アイドルが」

朝っぱらから
こんな安アパートに

「何のご用かな?」
「貴方こそ。もう兄への用は済んだでしょう。」
「用って事は無いよねぇ。一応恋人なんだし俺達。」
「兄がそう思ってるかは知りませんが。」
「はは。辛辣だなぁ。焼き餅?」
「そう思いたければどうぞ。」

ご用がおありなら
兄の部屋はあそこですよ

チラと涼やかな瞳が2階の部屋へと流れるように動き
同時にもう片方の瞳が
目の前の折原臨也を感情の見えないまま直視する

「・・・嫌な子だよねぇ君って昔から。シズちゃんが」

絶対に俺を

「自分の部屋には入れない事を知ってるくせにね。」
「えぇ。知ってます。」

兄なりのけじめなんでしょうね

車のキーをポケットから出して
キュッと音を立ててロック解除する
確かに兄弟だけあって似た面差しに向かって
折原臨也は溜息をついてポケットに入れた手ごと
上着の裾を芝居めいてヒラリと広げ
ワザと大げさに肩を竦めて見せる

「ホント・・・嫌な子だよ君って。」
「貴方と似てますね。」
「へぇ。自覚あるんだ?」
「えぇ勿論。」

だからこそ

「兄は貴方を切り捨てられない」

独り言のように言って
するりと細身の身体がシートへ滑り込み
閉じられようとするドアを
折原臨也の手が掴んで止めた




「・・・今の、何?」




「言った通りです。貴方は俺と似ています。表し方が逆なだけで。」
「ちょっとおかしいよねそれ?俺の方が歳上だよ?俺の存在が先。」
「でも兄の身近に先に存在したのは俺ですから」

兄にとっては

「俺の方が先に居たんです。貴方よりも。」
「わぁ。何それ。宣戦布告?」
「いいえ?」

貴方と俺とじゃ

「最初から勝負になりませんから。」

閉めようとするドアを
折原臨也が苦笑して離す



「俺の勝ちを一応は認めるわけ?」



「勝ちも負けもありませんよ。兄にとっては」

大事なのは

「どっちか。決まっていますから最初から。」



失礼します


走り去る車を



ポケットに手を入れたまま
青年は見送る




青年の頭の中では
走り去る車が
その先で
大爆発を起こして
木っ端微塵になる映像が繰り返し映し出され

何度も
その映像を反すうしてから
作品名:似てる二人は喧嘩する 作家名:cotton