似てる二人は喧嘩する
青年は自嘲的に笑って頭を横に振り
瞳を
決して自分を踏み込ませない
安アパートの部屋のドアへと
向ける
今
その部屋の中に居るだろう男は
自分の肌の温度も匂いも
感触も何もかも
全てを知っているくせに
男はちっとも
気付いていない
本当の
気持ちを
「・・・ホント」
シズちゃんは馬鹿だなぁ
と
青年は呟いて
クスリと自虐めいた笑いを受かべると
芝居めいた仕草で肩を竦め
「ま、だから俺は助かっちゃうんだけど?」
と
楽しげに口に出して
わざとらしく楽しげに
スキップしながら
歩き出す
本当に欲しいものは
いつだって
絶対に手の届かないところに
あるものだ
「だからこそ」
欲しくなっちゃうもんだよねぇ
と
呟く声は
丁度
大通りにさしかかった朝の慌ただしい雑踏の中
誰にも聞かれず
紛れて
消えた
作品名:似てる二人は喧嘩する 作家名:cotton