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瑕 6  昔語りをしようか

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瑕 6 ――昔語りをしようか


「やりすぎであろうが」
 スサノオがため息交じりに言った。
 先日の神使に対する、俺の過剰なやりようが少々問題になった。
 磐座に坐す全ての神様が本殿に集結し、俺はそこへ呼ばれた。
(まるで、裁判だな。俺、被告人になっちまった……)
 まあ、あの神使が、自分のことを棚に上げて、あることないこと吹き込んだってわかってる。
 スサノオもそれを知ってる。
 けど、それを踏まえても、俺はやりすぎたんだと、スサノオは窘めている。
「ああ、うん。そうだな」
 確かにやりすぎたとは思う。
 だけど、許せなかった。
 声も出せず、ロクに身体の動かないアーチャーをどうこうしようとして近づいたんだ、許せない。
「やりすぎたって、反省はする。けど、やったことを後悔はしてない」
 きっぱりと言って立ち上がる。
「衛宮士郎!」
 スサノオが珍しく厳しい顔をする。
「俺の守りたいものはアーチャーとその心だ。あいつの魂魄を癒せって言ったのはスサノオだろ。今さら翻すのかよ」
「そういうことではない。そなたは少し、度を過ぎたと言うておるのだ。神使を傷つけては、」
「傷つくのは身体だけじゃない。心も血を流す。だから、あいつの魂魄は崩壊寸前だったんだろ!」
 スサノオは押し黙った。
「あの神使が何を言ったかは知らねーけど、俺からしたら、アーチャーを傷つけておいて、命があっただけでも幸いだと思えってとこだよ」
「衛宮士郎……」
 スサノオが難しい顔をした。
 この磐座を治める者として、俺のような勝手を許すことはできないはずだ。
「ごめん、スサノオ。これだけは譲れないんだ……。俺が命を懸けたことだから、ウソはつけない。出てけって言うなら、従うからさ」
 暗い感じになるのは嫌だったから、笑顔で言った。
 スサノオが悲しい顔をしたのはわかってたけど、どうしようもない。これだけは曲げられない。俺がたった一つ願ったことだから。唯一手に入れたいと思ったアーチャーだから。
 本殿を出ると神様たちのため息が聞こえてきた。
 同時に物陰から俺を窺う神使の殺気立った気配も。
 ため息が出る。
 別に、仲良しこよしなんて思ってないけど、あからさまな嫌悪を向けられるのは、やっぱりちょっと堪える。
 スサノオも神様たちも俺のことを心配してくれてる。
 それがわかってても、俺はアーチャーを優先してしまう。
 俺が望んだことに対する責任と、アーチャーを縛ってしまった責任と、何より俺にはアーチャーを守りたいという意思がある。
 責任感からじゃなく俺は、ここ、というより世界中の誰よりも何よりも、アーチャーを優先してしまうんだ。
 もう、それは仕方がない。
 だって、十年想い続ける間に答えは出ていたから。
 この点だけにおいて俺にはブレが無い。
 何を言われようと、何を与えられようと、不変の道理になってしまっている。
 部屋へと続く回廊で足を止め、項垂れた。
(ここを追い出されたら、俺は、存在できなくなる……)
 片手で目元を覆った。
「ずっと傍にいるって、言っちまったのに……」
 こんなふうに自分で壊してしまうなんてバカすぎる。
 それでもアーチャーを傷つけた神使を許すことなんてできない。
 スサノオがどんなに困っても、これだけは、譲れないんだ。

 部屋の扉を開けると、アーチャーが飛び起きた。
「犬みたいになってんぞー」
 まるで、飼い主が帰って来たのを喜ぶ飼い犬みたいだ。
 ムッとするアーチャーの頭をそれこそ、飼い犬のように撫でた。両頬を包まれ、キスされる。
「士郎」
 驚いてアーチャーを見る。
「治ったのか、喉!」
「ああ、もう大丈夫だ」
「よかったぁ。やっと声、聞けた」
 うれしくてアーチャーに抱きつく。そのまま後ろに押し倒して、アーチャーの胸の上に寝そべった。
「身体は、もういいのか?」
「ああ。問題ない」
「そっか」
 そっと頬を撫でられて瞬く。
「士郎、何かあったか?」
「ないよ、なんにも」
 アーチャーの胸の上で目を閉じる。
(なんて、言おう……。ここを出ていけって言われたら……。アーチャーと、離れなきゃなんないのかな……)
 そうなったら、俺は……。
(こわいな……)
 ぎゅっとアーチャーの夜着を握りしめた。


「士郎……」
 俺を熱く呼ぶ声に、涙が出そうになった。
(ああ、そうだ、これじゃ、あの頃と変わらない。言いたいことを言葉にできなかった、あの苦しい日々と……)
 すっかり体調が元通りのアーチャーにがっつかれ、立て続けに三回はヤって、アーチャーの胸の上に抱きしめられたまま何度も瞬く。
 いつもなら気怠さに眠気がきてそのまま眠ってしまうのに、胸が重苦しくて、アーチャーに何も伝えられなかった日々を思い出してしまって、じんわりと目元が濡れてくる。
 ぼんやりしたまま、灯火が揺らめくのを見ていた。
「アーチャー、俺、出てかなきゃなんないかも……」
 ぽつり、と呟いていた。
「なんの話だ」
 あ、唐突過ぎた。言葉も足りない。
 何も知らないアーチャーには訳がわからないだろう。
「あー、えっと、あのさ……。この前の、神使の件で……、やりすぎだ、って怒られた」
 アーチャーは、あの神使か、と思い出しながら呟く。
「スサノオに窘められた。気持ちはわかるが、やりすぎって。まあ、俺もやりすぎたことは反省してる。けど、やったことを後悔してないって言って、スサノオを困らせた」
「だが、あの神使が勝手に部屋に入ってきたのだが?」
「まあ、あいつが神様とか他の神使に、なんかいろいろ吹き込んだってのはわかったし、スサノオがそれをわかってて俺に灸を据えたのもわかってる……。だけど、あいつは、アーチャーを傷つけた。声も出ないし、まともに動けもしないアーチャーを傷つけたことに、知らんふりなんて俺はできない。だから、出てけって言うなら従うって言った」
「士郎……」
「身体から血が出ることだけが、傷つけるってことじゃない。心についた傷の方が血の穢れよりも厄介だって、誰もわかってない。神様とか人とか、関係ないと思う。いくら血を出さないっていっても、心は見えない血を流し続けるんだって、わかんないかもしんないけど、俺は……っ……」
 堪えきれずに泣いてしまった。アーチャーの熱い手が優しく背中をさすってくれる。
「士郎、お前は悪くない。オレを守ろうとしてくれたのだからな。出ていけ、などと、そんなことを言わせはしない」
「アーチャー?」
「あの神使をただでは済まさない。士郎、お前はしばらく顔を出すな。沙汰を待っているふうを装え」
「沙汰を、待つ?」
 アーチャーを見上げると、何か企んでる顔をしている。口端を上げて、なんだか楽しそうだ。
「時々、アーチャーが根性悪く見える」
「なんだと」
 シニカルに笑っていたのに途端にムッとする。その唇に甘く噛みついた。
 そのあとは言葉もなく求めあった、いや、貪りあった、って方が正しいか。ほんとに、ダルくて動けないくらい、ヤりすぎた。
「アーチャー、ごめん、病み上がりなのに……」
「かまわない」
 汗で額に張り付いた白銀の髪を掻き上げて、アーチャーは少し疲れた笑みを見せる。
「士郎をたくさん、味わいたかった」