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瑕 6  昔語りをしようか

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「ったく、もう……」
 そういうこと言うから、止め処が無くなるんだって、わかってんだろうに……。
 アーチャーと抱き合って横になる。
 アーチャーの風邪は、結構、長引いてたから、ちゃんとヤるのは十日ぶりくらいだ。目の前の刻印に口づけると同時に、左手にアーチャーの唇を感じた。
「なんで、おんなじこと、してんだよ……」
「仕方がない」
「あー……、うん、仕方ないな」
 もう一度、軽くキスをして目を閉じる。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ、士郎」
 額にキスをくれたアーチャーの身体に片腕を回す。左手はまだ握られているから、そのままだ。
(アーチャー、ありがとな……)
 眠気に誘われながら、アーチャーに感謝した。

「士郎、今日は手の込んだものを作るから、少し遅くなる。ここから動くな。反省しているフリを貫け」
 アーチャーの指示に、頷く。
「誰に何を訊かれても、何も言うな。黙して語らず、ただ、俯け」
「俯く?」
「士郎が俯くと、効果覿面だ」
 よくわからないけど言う通りにしておこう。
 目尻に口づけて、行ってくる、と部屋を出たアーチャーはなぜだか楽しそうで、俺は少し笑ってしまう。
「そうだよな、ちゃんと言葉にして、こうやって相談すればよかったんだな……」
 あの日々にはできなかった。
 俺はアーチャーと笑ってさよならすることだけを考えていたから。
「ま、仕方ないよな、こんなことになるなんて、思ってもいなかったし」
 怠い身体を叱咤して着替えようと腰を上げると、残滓が内腿を伝った。ぞくぞく、と震えが走る。俺の中に残っていたアーチャーの体液が、まだ、生暖かく残っていた。脚を閉じて、昨夜の熱さを思い出そうとする身体を抑えこんだ。
「よ、夜まで、我慢だっ」
 自分に言い聞かせて、脚を夜着で拭い、着替えを済ませた。



***

「阿よ、もう良いのか?」
「ああ、世話をかけたな」
 出刃包丁を研ぎながら答える。
「わ、わたくしは、何もしておらぬ、衛宮士郎さまが……」
 そのまま嗚咽にまみれたナキを驚いて振り返る。
「どうした?」
「そ、そなたは、し、知らぬ、だろうが……、衛宮士郎さまは……」
「士郎が?」
「で、出てい、いかれるかも、し、知れぬ……」
 顔をぐしゃぐしゃにして、小さな体を震わせて、ナキは大粒の涙をこぼす。
「そんなわけがないだろう」
「しかし、神使の間では、も、もっぱらの、」
「させるわけがない」
「阿?」
「士郎を追い出すだと? 誰の許可を得て言っている」
 布巾で拭いた手をナキのおかっぱ頭に載せる。
「そうさせないようにする。手を貸せ、おかっぱ」
 ぽかん、としていたナキが、だんだん、目を丸くしていく。
「ほ、本当か? そ、そのような、方法が、あるのか?」
「ああ。何しろ、濡れ衣だからな」
「ぬ、濡れ衣? どういうことじゃ?」
「先に訊くが、おかっぱ、その神使の間の噂とは、どういうものだ?」
「それは……」
 ナキによると、あの神使は、確かにあることないこと言いふらしたようだ。
 まず、自分がオレたちの部屋に無断で入ったことをすっ飛ばしている。次に、士郎に襲われかけた、そして、逃げたら大刀で脅された。
 それはそれは酷い奴だと、神使でもないだけに、野蛮で粗野で、血の穢れなど恐れもしない人崩れの、化け物だ、とかなんとか……。
「なんだそれは……」
 呆れて開いた口が塞がらない。
「まさか、衛宮士郎さまが、そのようなことをなされるとは思わぬが、みな、信じておって、やはり人崩れは、などと、陰口をたたく者もおって……」
 また、涙目になるナキに、苦笑しか出ない。
「お前は士郎の何を見ていたのだ、まったく……」
「しかし……」
「噂に流されるな。お前がその目で見た士郎が真実だ」
 大きく頷くナキに、刺身用の大皿を用意するように言う。
「今日は豪華にいくぞ」
「は、はい!」
 ナキの調子が戻り、食事の準備に勤しんだ。

「えらく、豪勢であるな、阿よ」
「ああ。休養をもらったのでな。それに、士郎が迷惑をかけたようだ。その謝礼を兼ねた」
 スサノオは、ちら、とオレを見る。
 こいつにはおそらく、すべてお見通しだとは思うので、何も言うな、と、無言で訴える。
 スッと細められた漆黒の瞳は、やがて伏せられ、薄く口元が笑った。
 “好きにしろ”と受け取った。
 主の許可が出たところで、ここで一つ手を打っておく。料理が行き届いたのを見計らい、本殿の下座に正座し、両手をついた。
「衛宮士郎から不手際を告げられ、私も甚だ残念でございます。アレには謹慎を申しつけました。しかし、これも私の監督不行き届きでございます。アレの処遇は神々にお任せし、その沙汰を待つよりほかございませんが、まずは、お詫びをせねばと、馳走にてそのお心を愉しませることができれば幸いとの思いで、本日の食事をご用意させていただきました」
 言い終わるとともに、額づく。
 神々から嘆息が漏れる。神の背後に控えた神使たちは、やや戸惑っている様子だ。
「そ、そのように、かしこまらずともよい。そなたの責ではないのだし、衛宮士郎も魔がさしたのであろう。気に病むことではない」
 イタケルはやはり、士郎贔屓だ。
 士郎の怖さも知っているイタケルが一番に口を開いたのは、あの新年の舞がとかく気に入りであるからだ。
(まずは、一手)
 予想通りの反応に、口角が僅かに上がった。
 イタケルの声に賛同する神々は多い。さすがは神タラシの士郎だ。神からの人気は不動のようだ。だが、神使への印象はあまりよくないようだった。神々が同情の余地を見せるのを、難しい顔で見ている。
(あの神使のでっち上げが効いているな)
 忌々しく思いながらも、ここではゴリ押しせず、さっさと退出する。
 厨に戻ると、ナキが渋面を作っている。
「なんじゃ、あの言い訳は!」
「ああ、まず、一手だ」
「な……」
「これではっきりした。ようは神使だけが士郎を目の敵にしている」
「そうか……。そうであるな……」
「神々の反応はやはり同情的だった。そこは士郎の所以だろう。これは、もう、放っておいても、勝手に神が士郎の許へ行き、さらに同情を深めて戻っていく」
 ナキが、うんうん、と頷いている。
「神使どもの情報収集はお前に任せたぞ。お前も士郎には愛想が尽きたと思わせて、話を引き出せ。いいな?」
「わ、わかった。む、難しいが、やってみる」
「よし。では、明日の仕込みをするぞ」
「な、なに? 明日の?」
「ああ、手の込んだものを沙汰の下りる日まで続けるぞ」
 オレは逆境が好物なのだろうか、自分でも驚くほど楽しんでいる気がする。
(また、士郎に性格が悪い、などと言われそうだ……)
 少しため息をついて、翌日の仕込みにとりかかった。

「遅かったなー」
 部屋に戻ると、布団に寝そべった士郎は、和綴じの本を読んでいた。
「ああ。色々と仕込んできたのでな。なんだ、それは?」
「なんか、くれたー」
 呑気な声で士郎は答える。
(ああ、そうだろう。誰かがくれなければ、ここには本などなかったのだから、まったく……)
 士郎はだいたい言葉が足りない。
 それに、本から目を離さない。
 オレが戻ってきたというのに。
 ムッとする。