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瑕 6  昔語りをしようか

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「記憶がないのは、お前のせいじゃないだろ、そういうシステムだ。お前を責めたって、どうしようもない。覚えてないのは、そりゃショックだったけど、でも、それよりも、俺は、アーチャーとは笑って向き合おうと思った。何も覚えてなくても、これから積み重ねていけばいいって……。あー、ダメだ……、やっぱり……」
 泣いちまう。こぼれていくものを、どうすることもできない。
 項垂れて、目元を押さえた手を握りしめる。
 涙は想いの深さだって、誰かが言ってた気がする。
 想いが深いとか浅いとかは知らないけど、俺の涙はいつだって俺を裏切って勝手に出ていくんだ。ほんと、どうしようもない。
「士郎……、それほどに、オレを想っていてくれたのだな……」
 俺の震えを抑え込むみたいに、アーチャーは抱きしめてくる。
「おかしくなってる時以外は、お前のことしか頭になかった……。十年も想い続けてるとさ……、なんか、当たり前になってきて、諦めの境地っつーか、もう、仕方ねーな、俺、って感じになっちまって、ほんと、もう――」
 振り向かされて噛みつくみたいにキスされる。
 熱い舌に貪られて、少し息が上がったところで解放された。溢れた唾液を舐め取って、アーチャーは間近で微笑む。
「そういうことを平気で口にすると、痛い目を見るのは、士郎だぞ」
「い、痛い目って……、何する気だよ……」
 呆れつつ、ちょっと距離を取ろうとしたけど無駄だった。
 もう逃げ道はなかった。俺も逃げるつもりはなかったけど。
(まあ、うれしいんだろう……)
 食事は放置のまま部屋に連れ込まれ、アーチャーは、まあ、やりたい放題、やってくれた。
(我慢させたしな、精神的に……)
 反動でこういうことになるとは、うすうす感じてはいたんだけども……。
 寝不足と、盛り上がっちまったのとで、やっぱり俺は、起き上がれなくなった。
「士郎、食べられるか?」
「食べる……」
 アーチャーに手を伸ばすと、起こしてくれた。背中に掛けられた袷に袖を通す。その作業すらたどたどしい。俺が袷に腕を入れる間にもアーチャーは髪やこめかみにキスをしてくる。
(ちょっとくらい、待てっての……)
 呆れながらも悪い気はしないわけで……。
「アーチャー、飯、食お……」
 言いながら俺も、アーチャーの顎に唇を寄せてしまう。
このままキスしてくるか? と待っていると、予想通り口づけられて、ちょっと満足だったりする。
(でも、延々やりそうだから、そろそろ……)
 アーチャーの舌を軽く噛んで、やめろ、と示唆する。
「士郎……」
 熱い瞳。冷たい色なのに、その内には鉄を溶かす熱が籠もっている。
「その目は、反則って、言ったろ……」
「何がだ?」
 こいつは、ほんとにわかってない。そんな目で見つめられたら、どうにかなっちまうだろ、バカ。
「熱くなるから、今はダメだって言ってんだよ」
 白銀の髪を撫でて、苦笑すると、そうか、と、うれしそうにアーチャーは笑う。
(もー、こいつは……)
 俺を背中から囲うようにして座り、俺を支えてくれる。その温もり、というよりも熱さが心地いい。しばし、その熱にもたれて身体を休める。
 アーチャーが袴を引き寄せて渡してくるけど、俺は袷に袖を通しただけで服を着るのを諦めてしまい、もう、そのまま食事をするつもりだった。
「士郎、せめて、袴くらいは……」
 呆れながら注意されるが、もう動けない。
「むり……動けねーし……」
 小さくため息をつくアーチャーは箸と茶椀を持たせてくれたが、これじゃ、アーチャーが食べられない。
「アーチャーは?」
 頭を上に向けると、後でいいと言う。
「ん」
 箸を少し上げてご飯を口元に運んでやる。目を丸くしていたアーチャーが、すぐに、ぱく、とご飯を口に入れた。
「士郎、逆だろう……」
「ん?」
 何がだ、と考えていると、茶碗と箸を奪われた。
「お前が持ったら、俺にばっかり食べさせるだろー」
「わかった、わかった。交互に食べればいいのだな?」
 仕方がない、と言ってアーチャーは食事の入った籠を引き寄せた。
 あまり行儀がいいとは言えない格好で、俺たちはその日の食事をはじめた。
「士郎、その、もう少し……だな……」
 言い澱んだアーチャーの視線の先を追う。脚だ。俺の。
「お前……」
 どこを見て、声を詰まらせてんだ、こら。
 脚線美なんて持ち合わせてない、なんの変哲もない、男の脚だぞ、おい。
「アーチャー、変態度が増したんじゃないか……」
「増していない」
「だいたい、なんだって、俺の脚見てどうこうなるんだよ! たいして変わんないもの、お前も持ってるだろ!」
「そ、そそられるものは、仕方がないだろう!」
「仕方ないって……」
「後で食べてやる」
「おい……」
「士郎が悪い」
 つーん、とそっぽを向きやがった。
(このっ……、可愛い仕草を覚えやがって!)
 だが、それに絆されてる場合じゃない。
「ふざけんな、まだヤる気かよ」
「士郎がそんな格好で煽るからだ」
「煽ってねーよ。何回言や、わかんだ!」
「士郎こそ、何度言えばわかる」
 そんなやりとりはいつものことで、俺は動けないからってことで、安心していた。なのに……。
「もー、お前……手加減を覚えろ……」
 ぐったりして、食事の準備に向かうアーチャーを睨み付けた。
 あれから、食事が終わると同時に、またがっつかれ、いつのまにか夜は終わり、太陽が出ていた。
「士郎が可愛く誘ってくれるから、仕方がない」
「誘ってねーし、可愛くもねーよ!」
「可愛いぞ、拗ねた顔も」
 ニコニコしてんじゃねぇ。
「早く、行け!」
 布団からガン飛ばしてやると、やっとアーチャーは厨へ向かった。

「衛宮士郎さまは、まだ、体調が悪いのか?」
「ああ。だが、もう、大丈夫だ」
「それはよかった。それにしても、阿よ、何やら、つやつやしておるようだが?」
「そうか?」
 ご機嫌のアーチャーとナキが厨でそんな会話をしていることなんて、身動きできずに布団に突っ伏したままの俺は、知る由もなかった。



***

「言葉ってさ、すげーのな」
 肘枕で士郎の髪を撫でていると、不意に士郎が呟いた。
「どんだけこわいって思ってても、不安だって思ってても、なんか、全部、チャラにしちまう」
「ああ、オレたちは言葉にすることを、ここで覚えたな」
「大切だなって、思うよなー。言葉にするって」
 オレを見つめる琥珀色の瞳は、言葉以上の威力を持っているが、それをどう言葉に表せばいいものか、と考えてしまう。
「なんだって、うれしいぞ、アーチャーの言葉なら」
 オレを見透かしたような言葉に、目を丸くして、そして、うれしくなって、笑った。
「士郎がそう言うのなら、想いの丈を言葉にしよう」
「期待してる」
 ふわり、と笑った士郎に口づけた。
 うまく言葉にできないことでも、少しずつでいい、伝え合うことができるなら、以前よりも最善を尽くすことができるだろう。
 焦らなくとも、オレたちには時間がある。もう期限などないのだから、待てば少しずつ幸先が見えてくるだろう。

キスをして夜が更けていく。
抱き合って夜が過ぎていく。
こんな日々を、繰り返すことができればいい。