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はろ☆どき
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ちょこれいと兄さん【ガン流2 無配ペーパー】

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「もう、兄さんたら行儀悪いよ! 皆がいろいろ準備してくれてるのに一人で先に摘まんじゃって」
 ロイが部下達のいる司令室のドアを開けようとした時、中から子供を叱るような子供の声が聞こえてきた。
「だいたい、お皿にも乗せずに……ほら、指にチョコが垂れてきてるよ」
 少年らしい高めの、だが少しくぐもった声はアルフォンス・エルリックのものだ。訳あって鎧姿をしているので、喋ると籠って聞こえるのだ。
「だってこれ、温かいうちが美味そうじゃん。溶けたチョコも舐めときゃ……ん、んー、こっちもうめえ」
 対してちっとも堪えた様子のないこの声は、アルフォンスの兄のエドワード・エルリックだ。国家錬金術師である彼は軍属の義務として報告書を提出するために東方司令部を訪れている。筈なのだが。 
 この会話を聞く限り、上官に報告書を確認してもらうのを待っているような緊張感はまったく感じられない。中は随分と和やかな雰囲気のようだが、先ほどから部屋の外まで漂ってきている甘い香りが原因だろうか。


 そんなことを考えつつドアを開けると、部屋にはさらに濃厚な甘い――チョコレートの香りが立ち込めていた。
「あ、大佐。こんにちは。急ぎの書類は終わったんですか?」
「よう、大佐ひさしぶり。まーた仕事溜め込んでたのかよ」
 兄弟の対照的な挨拶に頷きながら、ロイは司令室内を見回した。
「やあ、アルフォンス。元気そうだね。おかげ様で切りのいいところまで進めることができたよ。相変わらず上官への挨拶がなってないな、鋼の――この甘い香りの原因は君かね?」
 紙袋から小ぶりなチョコケーキのようなものを取り出しては皿に並べているアルフォンス。皿に乗せずに指で摘まんで持っているエドワード。既に齧ったらしく、口の端と指にチョコレートソースのようなものが付いている。
「今日は日頃お世話になっている人へ贈り物をする日だと聞いたので、僕達も用意してみたんです。ほんの差し入れですけど。いつも皆さんにはとってもお世話になってますから。ね、兄さん」
 アルフォンスが少し照れた様子でそのように説明した。
 それはここ数年、イーストシティで季節行事と化している謂れとは少し違うものでロイは首を傾けた。今日は『バレンタインデー』などと呼ばれ、女性から意中の男性にチョコレートを贈る日とされている。そう認識しているのだが……。
 ロイが周りに目を向けると部下達はそれぞれ、皿の乗ったテーブルの上を片付けたり、自分のマグカップを用意したりしていた。ハボックがこちらを見て目で何かを訴えている。作戦中でもないのに、お前のアイコンタクトなんぞ通じるか。
「あー、うん。なんか街中でやたらとチョコとかの限定品が売り出されてたんで、店の人に聞いたらそう言われてさ。これ、フォンダンショコラって言ってこの時期にしか作らないんだって。焼き立てのは中のチョコがとろーっと溶けてて、すっげー美味そうだったからさー。でもこんなのなかなか買う機会ないし」
 つまり自分が食べたいから買ったということが丸わかりだったが、蕩けるような顔をして言われては苦笑するしかなかった。
 なるほど、店側としては時期を過ぎると売れなくなる商品を捌くために、少々曲解した内容を告げたというところだろうか。意味を知らない、しかも子供相手に売りつけるような行為はいかがなものだろう。だが、食べてみたくてわくわくしている子供(様子が目に浮かぶようだ)に買う理由を作ってやったということかもしれない。
 今回は不問にしてやろうと思いつつ、後で店の名前をチェックせねばとこっそり心に刻んだロイだった。


 そしてハボックをはじめ、朝からそわそわしていた男性連中はどうも成果が得られなかったようで、この際『義理チョコ』の相伴に預かろうということだろう。兄弟の言葉に誰も口を挟まず、いそいそと午後の休憩の準備に勤しんでいた。
「それはそれは。アルフォンスはともかく、鋼のに少しでも感謝の気持ちがあったのだと知ることができて嬉しいよ」
「なんだとうっ。あんた以外の人にはちゃんと感謝してるぜ、いつも!」
「む、私が一番感謝されて然るべきではないかね?」
 いつもいつも兄弟のために、特にエドワードのために、有益な情報を提供したり特別な便宜を図ったりしている。それは何も、最年少国家錬金術師である彼の活躍が自分の手柄になるからという訳ではない。(そういう打算が全くないとは言わないが)
 ロイはエドワードに対して特別に想いを懸けているのだ。だからこそいろいろ尽くしているというのに、当人にはまったく伝わっている気配がないのは寂しいことだ。
 だいたい今日も本当なら午後過ぎに彼らが到着して早々、エドワードを執務室に招きいれて報告書のチェックがてら話を聞こうと思っていた。しかし、ホークアイに「急ぎの書類の決裁が終わるまでエドワード君との面会はお預けです」と言われ、渋々と書類仕事に勤しんでいたのだ。
 それなのに、そんな自分をそっちのけで部下達と美味いものを食べようとしている。(いや、本人は既に食べているが……)
 面白くない――。
 ロイが拗ねた気分になり、低下した機嫌の矛先を素知らぬ顔で休憩しようとしている部下達に向けようとした時。