ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録012
・・数十分後。ソロは、もうだいぶ長いこと口を半開きにしたまま呆然と佇んでいるワンを眺めていた。彼の視線の先には、どこからともなく炎や氷、雷などを発生させながら自由自在に空中を飛び回る彼らの姿があった。
「・・やっぱり凄いものだね・・・時間さえあれば、どういう原理なのか是非研究してみたいものだ・・・」
後ろで手を組み、空を見上げながらスワードソン博士がしみじみと呟く。
「・・・あ・・・頭が痛くなってきました。それでえっと、ミスター・・ソロ?私に何をお求めで・・・?」
「おう。1時間後には彼らと同じことができるようになってもらいたい。そして化け物退治に協力して欲しい。それだけだ」
ワンは無言で顔を強張らせて頷くと、しばらくしてから「よくわかりました」と言った。
「・・ワン・・頑張れよ。お前がいなくなるのは本当に寂しいから・・・」
「その冗談は笑えません、ベクスター博士。私は今本気で身の危険を感じています」
そこへ、軽い模擬戦を終えたレックとエックスが空から戻ってきた。数十メートル上空から当たり前のように落下し着地している。どうやらこの程度の距離ならば重力制御をするまでもないようだ。
ワンは先程彼らについての話を聞かされてはいたが、やはり聞くのと実際に見るのとでは雲泥の差だ。
「これくらいでいいか?」
「ああ、ありがとな。さあ次はお前の番だぞ」
「・・1時間後に果たして私は生き永らえているのでしょうか。それとあの・・お二人とも脚の方は・・・大丈夫ですよね・・・?」
「??」
「さて、と。始めるとするか。まずは20メートル走ったら息切れするようなその絶望的な体力のなさからどうにかしよう。それから、指で弾いただけで折れちまいそうなその手足だ。
魔力とか技術とかそのはるか以前に、俺達戦う者としての基本的な力を取り戻さないといけない」
「は・・・はあ・・・」
「んで、エクストリーム・ロードワークだ。とりあえずぶっ倒れるまで全力で走ってみろ。幸いなことにクリアの力を使えば細胞の学習速度も格段に上げられるからな、サクサク行くぞ。最初の目標は平均21秒で1レベルアップ、まずは一気に30まで上げる」
「そりゃあキッツいな・・ペース的にはメタキンたこ殴り祭りだな!」
「それも魔神斬りで100パー会心大出血サービスの場合ですね」
「??? メタ・・・?まじん・・・??」
━─━─記録012 ある不可避な事柄
「――よーし。次ターンから重力付加率150%だ。その次はズッシードをかける。その次はべタンをかけるからな」
「ちょ、それ攻撃呪文・・・大丈夫なのか?死んじゃわないか??」
「大丈夫じゃなかったらまた考える」
「そんな、ひどい!」
「スパルタにも程があるでしょ!」
「いいんだよこんくらいで。ほれ走れ!速度落として休もうとか考えるなよ!」
右手を翳して何やら作り出しながら、ソロは空中に座って容赦のない声を振りかける。
ワンは限界を超えて酷使されている呼吸器官と脚の筋肉の痛みに耐えつつ、言われた通り100メートルの距離を全力疾走で往復し続けた。
呼吸をするたびに気管支から聞いたこともないような音が漏れ出るが、とにかく彼の命令は“全力疾走し続けること”なので、呼吸で補えない酸素はクリアで身体に与えながらとにかく走った。
「珍しいな・・・他人に甘く自分に厳しいの究極系のお前が・・あ、ひょっとして自分だからか?」
「ノーコメント。・・・ここまでで相当レベル22か。うん、俺のコピーを名乗るだけのことはある。クリアの使い方も心得てるようだ・・・ん?」
何百往復目だろうか。それまでは死にそうになりながらも決して足を止めなかったワンが、突然速度を落とし立ち止まる。そして明後日の方向へふらふらと数歩歩き・・・
「!!」
「あらら」
力尽きて膝から崩れ落ちた。
「うわああ!大丈夫!?大丈夫!!?」
「ソロ!べホマしてもいいよな!?」
「ああ、いいぞ」
心配して駆け寄ったエックスがべホマをかけると、倒れ伏してほとんど呼吸が止まっていたワンが息を吹き返して大きく咳き込んだ。
「げほっ、かふっ・・・・は、し・・・死ぬかと・・・・・・・。・・・・?」
焼けつくような激痛に覆われていた全身と肺の痛みが消えている。ついでに、手術後の縫合痕もすっかり治癒していた。
「・・・・これは・・・・・これが、魔法の力・・・ですか?」
「そうだ。いずれはお前にも魔力を取り戻して身に付けてもらうからな。・・さて・・・とりあえず俺が言った通り倒れるまで走ったのは偉かった。だがな、俺は体力とかそういうのの他にまた学んでもらわないといけないことを発見した」
「・・と仰いますと・・・?」
「簡単だ。冗談とそうじゃない発言の区別をつけろ。真面目で優秀なのはお前のいいところだが度を超すと短所にしかならん」
「・・・い・・いやでも・・・お前が言うと冗談に聞こえないことってあるじゃん?な?」
「まあな。俺も半分わかっててやったとこあるけどな。本人にやる気があるならいいかと思って」
「ええー、だったら途中で止めてあげようよ・・・・」
そんな会話を聞き、体を起こしてどことなく悲しそうな顔をしているワンの肩に、歩み寄ってきたアレルが屈んで手を置いた。
「・・ちょっと使いどころが違うが、こんな時はこう言うといい。“おお あなたひどいひと!わたしにくびつれと いいますか”」
「・・はあ、そうなのですか」
「アレルさん、真面目な顔で変なこと吹きこまないでください。あなたの冗談はもっとわかりにくいです。真に受けちゃってますよ」
――――――――――――――――――
――――――――――――
「・・・何だそれ。スプレー?・・と、・・・・・?何するつもりだ?」
先程から何やらクリアで作り出していたソロに、クロウ博士が歩み寄る。
ソロは空中に浮かんでいたそれらを両手で取ると、得意げに微笑んだ。
「変装セットだよ。こいつは髪の色と質感を変えるやつ、こっちは目の色と瞳孔の大きさを調節するカラコンだ。トレーニングが終わったら息抜きにみんなで街にでも出掛けてみようって話になったんでな」
「えー、大丈夫なのかよ。・・そう言やちょっと前にそんな話をしてたな・・・本当に行かせるつもりなのか?」
「なんだ、俺の力を疑うのか?」
「いやあ、疑ってるわけじゃあないが・・・万が一にもお前達のことが世間に知れるわけにはいかないもんでよ。セカンドレッド事件が幼児の戯れに見えるような超絶大混乱が起きることは確かだから」
「心配ない。それにこの辺の地域じゃ英語以外の言語はほぼ知られてすらないんだろ?なんかあっても適当にごまかしときゃいいさ、ドイツ人でーすとか言っとけば」
「何だお前それは俺への挑戦か?」
「ミックお前はクォーターだろう?・・心配だな色々と・・・まあいいか、ヴィンスも許可出したんだし・・・」
「・・・・・おっ。そろそろ本格的な訓練に入ってもいい頃合いだな。さて、みんなも見てるだけだと暇だろうし・・・」
「ちょっ待てよ、まさか訓練ってあいつらと戦わせる気じゃないだろうな!?」
「・・やっぱり凄いものだね・・・時間さえあれば、どういう原理なのか是非研究してみたいものだ・・・」
後ろで手を組み、空を見上げながらスワードソン博士がしみじみと呟く。
「・・・あ・・・頭が痛くなってきました。それでえっと、ミスター・・ソロ?私に何をお求めで・・・?」
「おう。1時間後には彼らと同じことができるようになってもらいたい。そして化け物退治に協力して欲しい。それだけだ」
ワンは無言で顔を強張らせて頷くと、しばらくしてから「よくわかりました」と言った。
「・・ワン・・頑張れよ。お前がいなくなるのは本当に寂しいから・・・」
「その冗談は笑えません、ベクスター博士。私は今本気で身の危険を感じています」
そこへ、軽い模擬戦を終えたレックとエックスが空から戻ってきた。数十メートル上空から当たり前のように落下し着地している。どうやらこの程度の距離ならば重力制御をするまでもないようだ。
ワンは先程彼らについての話を聞かされてはいたが、やはり聞くのと実際に見るのとでは雲泥の差だ。
「これくらいでいいか?」
「ああ、ありがとな。さあ次はお前の番だぞ」
「・・1時間後に果たして私は生き永らえているのでしょうか。それとあの・・お二人とも脚の方は・・・大丈夫ですよね・・・?」
「??」
「さて、と。始めるとするか。まずは20メートル走ったら息切れするようなその絶望的な体力のなさからどうにかしよう。それから、指で弾いただけで折れちまいそうなその手足だ。
魔力とか技術とかそのはるか以前に、俺達戦う者としての基本的な力を取り戻さないといけない」
「は・・・はあ・・・」
「んで、エクストリーム・ロードワークだ。とりあえずぶっ倒れるまで全力で走ってみろ。幸いなことにクリアの力を使えば細胞の学習速度も格段に上げられるからな、サクサク行くぞ。最初の目標は平均21秒で1レベルアップ、まずは一気に30まで上げる」
「そりゃあキッツいな・・ペース的にはメタキンたこ殴り祭りだな!」
「それも魔神斬りで100パー会心大出血サービスの場合ですね」
「??? メタ・・・?まじん・・・??」
━─━─記録012 ある不可避な事柄
「――よーし。次ターンから重力付加率150%だ。その次はズッシードをかける。その次はべタンをかけるからな」
「ちょ、それ攻撃呪文・・・大丈夫なのか?死んじゃわないか??」
「大丈夫じゃなかったらまた考える」
「そんな、ひどい!」
「スパルタにも程があるでしょ!」
「いいんだよこんくらいで。ほれ走れ!速度落として休もうとか考えるなよ!」
右手を翳して何やら作り出しながら、ソロは空中に座って容赦のない声を振りかける。
ワンは限界を超えて酷使されている呼吸器官と脚の筋肉の痛みに耐えつつ、言われた通り100メートルの距離を全力疾走で往復し続けた。
呼吸をするたびに気管支から聞いたこともないような音が漏れ出るが、とにかく彼の命令は“全力疾走し続けること”なので、呼吸で補えない酸素はクリアで身体に与えながらとにかく走った。
「珍しいな・・・他人に甘く自分に厳しいの究極系のお前が・・あ、ひょっとして自分だからか?」
「ノーコメント。・・・ここまでで相当レベル22か。うん、俺のコピーを名乗るだけのことはある。クリアの使い方も心得てるようだ・・・ん?」
何百往復目だろうか。それまでは死にそうになりながらも決して足を止めなかったワンが、突然速度を落とし立ち止まる。そして明後日の方向へふらふらと数歩歩き・・・
「!!」
「あらら」
力尽きて膝から崩れ落ちた。
「うわああ!大丈夫!?大丈夫!!?」
「ソロ!べホマしてもいいよな!?」
「ああ、いいぞ」
心配して駆け寄ったエックスがべホマをかけると、倒れ伏してほとんど呼吸が止まっていたワンが息を吹き返して大きく咳き込んだ。
「げほっ、かふっ・・・・は、し・・・死ぬかと・・・・・・・。・・・・?」
焼けつくような激痛に覆われていた全身と肺の痛みが消えている。ついでに、手術後の縫合痕もすっかり治癒していた。
「・・・・これは・・・・・これが、魔法の力・・・ですか?」
「そうだ。いずれはお前にも魔力を取り戻して身に付けてもらうからな。・・さて・・・とりあえず俺が言った通り倒れるまで走ったのは偉かった。だがな、俺は体力とかそういうのの他にまた学んでもらわないといけないことを発見した」
「・・と仰いますと・・・?」
「簡単だ。冗談とそうじゃない発言の区別をつけろ。真面目で優秀なのはお前のいいところだが度を超すと短所にしかならん」
「・・・い・・いやでも・・・お前が言うと冗談に聞こえないことってあるじゃん?な?」
「まあな。俺も半分わかっててやったとこあるけどな。本人にやる気があるならいいかと思って」
「ええー、だったら途中で止めてあげようよ・・・・」
そんな会話を聞き、体を起こしてどことなく悲しそうな顔をしているワンの肩に、歩み寄ってきたアレルが屈んで手を置いた。
「・・ちょっと使いどころが違うが、こんな時はこう言うといい。“おお あなたひどいひと!わたしにくびつれと いいますか”」
「・・はあ、そうなのですか」
「アレルさん、真面目な顔で変なこと吹きこまないでください。あなたの冗談はもっとわかりにくいです。真に受けちゃってますよ」
――――――――――――――――――
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「・・・何だそれ。スプレー?・・と、・・・・・?何するつもりだ?」
先程から何やらクリアで作り出していたソロに、クロウ博士が歩み寄る。
ソロは空中に浮かんでいたそれらを両手で取ると、得意げに微笑んだ。
「変装セットだよ。こいつは髪の色と質感を変えるやつ、こっちは目の色と瞳孔の大きさを調節するカラコンだ。トレーニングが終わったら息抜きにみんなで街にでも出掛けてみようって話になったんでな」
「えー、大丈夫なのかよ。・・そう言やちょっと前にそんな話をしてたな・・・本当に行かせるつもりなのか?」
「なんだ、俺の力を疑うのか?」
「いやあ、疑ってるわけじゃあないが・・・万が一にもお前達のことが世間に知れるわけにはいかないもんでよ。セカンドレッド事件が幼児の戯れに見えるような超絶大混乱が起きることは確かだから」
「心配ない。それにこの辺の地域じゃ英語以外の言語はほぼ知られてすらないんだろ?なんかあっても適当にごまかしときゃいいさ、ドイツ人でーすとか言っとけば」
「何だお前それは俺への挑戦か?」
「ミックお前はクォーターだろう?・・心配だな色々と・・・まあいいか、ヴィンスも許可出したんだし・・・」
「・・・・・おっ。そろそろ本格的な訓練に入ってもいい頃合いだな。さて、みんなも見てるだけだと暇だろうし・・・」
「ちょっ待てよ、まさか訓練ってあいつらと戦わせる気じゃないだろうな!?」