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伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録014

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・・・・・・肌寒さを感じ目を開ける。途端全身に猛烈な寒気が走ったが、レックは感情を押し殺して詰まらせていた呼吸を再開した。

そこは正方形の広い部屋だった。だが・・・考えるまでもなく様子がおかしい。異常だ。
この部屋の壁、床、天井すべてが・・・・・肉でできている。血まみれの生肉。いくつかの箇所にはむき出しの目玉が吊るされていて、それらはじっと視線を落としレックを見つめていた。

・・・これは・・・・これが、悲しみ?こんな世界が?・・・・これが、腐敗した悲しみなのか。

足を踏み出すと、おぞましい音と感触が背筋を駆け抜けていく。・・・気味が悪いと思ってはいけない。怖いと思ってはいけない。
何をすればいいのか探すんだ・・・・・。

奥の壁にある唯一肉ではない金属製の扉に手をかけ、押す。・・・開けた場所に出た。奥の方には小さな花畑のようなものが見える。が、色彩がおかしい。蛍光極彩色の花が咲き並んでいる。
そして中央には巨大な槍が突き刺さっており、その先端は宙吊りになった何者かの背中を貫通していた。
それは少女だった。垂れ下がった桃色の長い髪と羽帽子。血に染まった白いワンピース。先の尖った耳。
 
「・・・・。・・・・シンシアさん・・・・・?」

・・どうして。



━─━─記録014 Vergumm ses hcwe eris “Down into his mind”



「我らの父正しき神よ、全てをお救いになる善の神よ願わくば罪深き我らをお許し下さい」

「!!」

突然背後から声が聞こえた。振り返る。・・背後に立っていたのはソロだった。
・・頭から足の先まで血にまみれている。

「願わくば我らを悪よりお救い下さい、我ら等しく命あるものなり汝より授かりしこの名において邪神の子を討つをどうか赦し給え、命の母なる大地よ海よ空よそしてそれらを司る精霊達よ、我らに力と希望を与え給え」

無表情で花畑を見つめながら、教会で祈りを捧げる時の祈祷文を早口で一心不乱に呟き続けている。何かに取り憑かれたようにずっと。

「我らに討たれし尊き命に祝福を与えその魂を善なる器へと導き給え、正しき神よ我らは汝が御心と御名のもとに、全ては限りなく汝のものなればなり」

そしてそのままゆっくりと歩み寄ってくる。その場を動かないレックの身体をすり抜け、ソロは夢遊病者のような足取りで串刺しにされた彼女のもとへ歩いていく。
そしてその真下で足を止めると、ゆっくりと頭を上げ、そのまま静止した。微動だにせず祈祷文を呟き続けながら、ただじっと・・・痛々しい姿で吊るされたエルフの少女を見つめ続けている。

「・・・・・・・・・・ソロ、聞いてくれ。・・・それはお前の罪じゃない。お前は――・・・・っ」

その言葉に反応してか、ソロは黙ってレックを振り返った。すると次の瞬間虚ろだった目が一瞬で限界まで見開かれ、半開きになっていた口からは血が溢れだす。レックは息を呑んだ。

「・・・・グきぅ・・・ぉろす。誰モ・・・ぇナかッタ・・・か、ぎ」

そして悟る。あのソロが、この腐敗した悲しみの世界の主だ。こんなに早く見つけられるとは。
何かをレックに伝えようとしているようだったが、聞き取れない。・・血がぼたぼたと零れ落ち極彩色の花を赤く染め上げていく。

「・・・何だ?何て言ってるのかわからない。もう一度言ってくれ」

不思議と、あまり恐怖はなかった。どちらかというと・・・この感情は、憐れみだ。普通に言葉を交わせばいいんだ。傷付けようとしてるわけじゃないことを伝えなければ。大丈夫だ、こういう状況は初めてじゃないんだから。今度こそ・・・

「・・・・ぎ・・・・・・・か、ぎ・・・・・・・」

「・・・鍵?・・・・鍵がどうしたんだ?」

“鍵”という単語を聞いた瞬間、ソロは苦しそうに顔を歪めて呻き、両腕で自分の肩を抱いた。

「・・ぐ・・・・ぎっ・・・・。・・かぎ・・・っ鍵、・・鍵、鍵、鍵!」

「・・ソロ?大丈夫――」

「ああああああああああ!!鍵ッ、鍵ィィいいいあああああぁぁっ」

絶叫が響き渡り、見えている風景が波打って歪み、崩壊し始めた。バランスを崩して倒れそうになったがなんとか堪えると、レックは頭を抱えて叫び続けるソロのもとに歩を進める。・・そしてもう少しで彼の肩に手が届くと思ったその時、うずくまっていたソロの身体が消えて上から鉄の扉が落ちてきた。
そしてその両脇に血がこびりついた金属の壁が現れ、その中から伸びた鎖が何重にも扉に巻き付いた。衝撃波でレックの身体が軽く吹き飛ばされる。

「・・・・・・。・・・・・・・ダメか・・・・」

・・やっぱり、オレを拒むのか。

錆びた鎖で固く封印された扉を見つめる。少しだけ悲しくなった。拒否されるとわかってはいても。
・・・仕方ない、力を使おう。

少しの間目を閉じ、巻き付いた鎖が外れた扉を強くイメージする。そして瞼を上げれば、そこにはイメージした通り手で取っ手を下ろせば簡単に開けられる木製の扉があった。

扉を開け、奥へと進む。・・・・血まみれの生肉でできた廊下を、階段を。それを踏みしめるたびレックの胸には言いようのない背徳感が募っていった。
あの時・・・感情の世界に入った時のこと。悪夢のような出来事。犯してしまった過ち。

その光景を思い出しそうになり、慌てて頭を振ってそれを打ち消した。

・・どこまでも続く肉の螺旋階段を降りていく。鼻が曲がりそうだった血と肉の生臭さが気にならなくなった。肉の切れ目から滲み出る黄色く濁った液体の饐えた匂いでさえも。・・むしろ甘酸っぱい果物の香りのようにすら感じる・・・・ひょっとしたら無意識のうちに力を使ってしまっているのかも知れないが。

かなり下まで来た。壁に肉の扉がある。粘液で手が汚れるのもお構いなしにそれを押す。
・・また正方形の部屋だ。だが、さっきのものとは違った。床の一部分だけが肉ではなく木でできている。そしてそこには、同じく木でできた椅子に有刺鉄線で縛り付けられた何者かの姿があった。

・・手足がない。血がこびりつき変色した粗末な布で、胴体だけの身体が椅子ごと包まれている。下を向いたまま微動だにしないが、髪の色と匂いでソロだとわかった。その瞬間、何とも言えない芳醇な甘い痛みが胸部に生じた。

「・・・・・・違う。・・・オレはこんな姿のソロが見たいわけじゃない・・・・・」

・・・ふとそう呟いたところで、レックは今の自分の発言に違和感を覚えた。・・“見たいわけじゃない”・・・だと?
そもそも自分は腐敗した感情を消して現実世界のあいつに心を取り戻させるためにここに来たのではなかったか。それとも・・それとも自分は、ただレプリカではない本物のソロを感じたいだけなのだろうか。
どんな形でも構わないから、ソロに会いたいだけなのではないだろうか。

・・・レックは歯を食い縛り、部屋に背を向けて今入ってきたばかりの扉を開けた。