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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録014

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・・一旦心を落ち着けよう。そう思い、何も考えないように努めながら再び肉の階段を降り始めた。・・・この世界には自分の心も反映されるんだ。だから奥底にあるあの忌まわしい欲望が、そのまま今ここにいる自分にのしかかってきている。そうだ。きっとそうに違いない・・・。

そして、ある程度ざわめきが治まったら足を止める。・・引き返すんだ。ソロのところに戻らなければ。
肉の扉を開け部屋に戻ると、すぐにある変化に気付いた。ソロの胴体が縛り付けられた椅子の下に、何やら・・・裁縫道具のようなものが落ちている。そして奥の壁に、先程はなかった肉の扉ができているのだ。
レックの心が落ち着いた影響で先へ進む道が現れた。

・・目をそらしつつソロの前を通り過ぎ、扉を開けて奥へ進む。するとそこは全く同じ肉の正方形の部屋だった。だが一カ所だけ違う点がある。中央の木の椅子に座って縛り付けられているソロに手足があるのだ。
レックは重い足取りで近付き、首をしならせて下を向いている彼の顎に手を添えてゆっくりと顔を上げさせた。

「・・・・・・・・っ」

・・目が、ない。本来眼球があるはずの場所は空洞になっていた。淵から血の流れた痕がある。レックが体内に生じた重い衝撃に耐えていると、・・うっすらと開いた状態だったソロの唇がかすかに動いた。驚いて手を放す。

「・・・・・・イタい。・・・いタぃ」

「・・・。・・・痛いのか?・・・どこが痛いんだ、目か?」

「・・・・・・め・・・・めめめグッ・・・エなイ」

「・・見えない?」

・・・・・。・・・・・それだけを掠れた声で呟くと、ソロは再び俯いてしまった。レックはため息をつき、そっとソロの頭を撫でてからその場を離れた。次の部屋への扉に手をかける。

・・不思議な気分だ。今までだったらあんな姿の人間を見たらそれだけでトラウマになるくらいだったのに。ソロだからだろうか?
・・・・・逆に、ちゃんと全部がある彼を見るよりも・・・・・なんだか幸せな気分になる。どうしてだろう。

次の部屋も同じだった。椅子に座っているソロ。ゆっくり顔を上げさせると、今度は目から下がなかった。鼻と口がくり抜かれている。悲しそうな目で微笑むレックを見つめる青い瞳からははらはらと涙がこぼれていた。

「・・・うん。わかってる。わかってるよ。・・・オレが助けるから。助けてやるからな・・・」

何かを必死に訴えかけるような視線。レックはうっとりとため息を零し、泣き続けるソロの髪を撫でた。

そして次の部屋に移動する。・・・その部屋のソロには耳がなかった。話しかけても聞こえないらしく、譫言のように“痛い”と呟き続けながら泣いていた。

・・・その時、レックは胸の奥で渦巻く得体の知れない多幸感の正体に気が付いた。
自分はソロに会いたいわけじゃない。そばにいて欲しいわけでもない。
自分が彼を“救う”という状況そのものを心の底から渇望していて、それができるなら何でも構わないのだ。だから不完全な身体のソロを見ると、“自分がどうにかしてやれる”という安心感が最も強く単純に表れるのだ。

そして悲しみに咽び泣くソロの心を自分が満たしてやれる、と。助けてやれるのだと。
オレだけがこいつを救ってやれる。・・オレだけが・・・・・・

・・・・・・そう、オレだけのものだ。

レックはソロの髪を撫でながら笑っていた。どろどろした幸福感が胸いっぱいに広がる。今自分がいるこの場所は。見えている景色は。おそらく自分の心が・・・願望が現れた風景なんだろう。
なんだ、そうだったのか。オレはこんなにも心の底からこいつを助けたいと思ってるんだ。
・・助ける・・・救うんだ。・・・オレにしかできないんだ・・・。

・・・・次の部屋のソロは首から上に異常がなかった。代わりに、胸には握った拳ほどの大きさの穴が開いている。・・・心臓がないのだ。

「・・心臓・・・・。・・・心、か」

そうだ、今の現実世界のあいつにないのがまさにこれだ。心。今一番ソロが必要としている物だ。

心がないからか、そのソロだけは泣いていなかった。ぼんやりとした表情で虚空を見つめている。その瞳には何も映っていない。

・・・・ああ、そうだ。これだ。これこそオレが望んでいたものに違いない。足りないのは心だ。オレが取り戻してやれる。

レックは椅子の前で足を止め、ソロの頬に手を添えた。・・そして小さく微笑むと、何も見ていない彼にそっと口付けをした。冷たい皮膚とは裏腹に、内側の粘膜は驚くほど温かかった。

・・・・・・・ひどく現実感の薄い、ふわふわとした気分で次の部屋へ向かう。
ひょっとしたらオレはもう、・・とっくにおかしくなってしまったんじゃないだろうか。頭の片隅でそんなことを考えながら。

・・また肉でできた正方形の部屋に出るのかと思っていたが、今度は違った。金属でできた壁と床。そしてもう奥へ進む扉はない。

・・・中央には椅子はなく、ソロは床に倒れていた。・・・・・見たところどこにも損傷はなく何も不足している部位はない。レックを見つけると少しだけ微笑んだ。

レックもまた、笑みを浮かべる。何をすればいいのか悟ったのだ。
今まで通ってきた部屋にあった裁縫道具。助けを求めていた不完全な身体の彼。そしてここにいる、完璧な身体の彼。そして・・・・・部屋の奥に並んでいる刃物たち。

そうか、オレが助けてやれるんだ。不完全な身体を完全にしてやれる。そのためにここに全部あるソロがいるんだ。

レックは堪えきれずに声を出して笑った。ただただ嬉しかった。現実ではなくとも、あるべき形ではなくとも、オレはこれからソロを助けてやれる。それだけで舞い上がりそうなほど嬉しかった。

歓喜と安堵が次から次へと湧き上がりそれ以外の感情は全て押し潰された。

笑いながら奥の壁に掛けてある剣と大型の鋏を持ち、ソロに歩み寄る。ソロはその凶器を見て怯え始めたが、決して逃げようとはしない。いや、無意識に働いているレックの力で身体が押さえ付けられているのだろう。

ソロは泣きそうな顔で何かを訴えるが、レックは聞く耳を持たず彼を仰向けにすると、その手首を踏みつけて固定する。そして肘と肩の中間程の場所に剣をあてがうと、渾身の力で引いて右腕を切り落とした。

すぐに場所を変え、今度は左腕を切り落とす。切った腕は部屋の入り口付近に置く。ソロは背中をのけぞらせて叫び泣き出したが、その声を聞いてレックが思ったことはと言えば“痛覚は鈍いんじゃなかったのか?じゃあ今までのはやせ我慢してただけだったのか”だった。

彼にとって、今ここで両腕を切り落とされて泣いているソロは“ソロ”ではないのだ。

手早く両足も切り取ると、剣を放り投げて四本の手足を持ち、レックは部屋を出て行った。そして一番手前にある手足がないソロがいる部屋まで移動する。
そして終始微笑みを絶やさないまま、夢中になって持ってきた手足を彼の身体に縫い付けた。

・・多少いびつだが、これでこのソロの身体を完全にできた。助けられた。

唖然としているソロの目を見つめて笑いかけ、再び一番奥の部屋を目指した。