ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録015
・・駄目だ、苦しい。心臓が押し潰されそうだ。・・・・・・・ソロを殺してしまった。殺してしまった・・・あれでよかったのだろうか。あれで腐敗した悲しみを消せたんだろうか。力を使えば感知できるかも知れないが今はそんなことできそうにない――
「レック」
「!」
倒れたまま動けずにいると、背後に気配を感じた。そしてすぐに、すっと黒い手袋をした手が伸びてきて、目隠しをされる。そのまま優しく抱き起こされ、ゆっくり背中を倒された。・・温かい。
声も出せないうちに、半ば強制的に口を開けられて何か小さな粒のようなものをいくつか入れられた。
「そのまま飲み込んで」
「・・・・・ん・・・・・・・」
言われた通り、口の中にある粒を飲み下す。・・すると目から手が外された。
「・・・・・・ソロ、今の・・・・」
「気にするな。・・どこか変なところはないか?気分がおかしいとか、何か声が――」
「ごめん。よく聞こえない。・・・もう一度言ってくれ」
「・・気分がおかしかったり、変な声が聞こえたり変なものが見えたりはしないか?」
「・・・・・わかってる、ゆっくりでいいから・・・。そうだよな・・・悪かった・・・ごめん、ごめんな。痛かったよな。オレがどうかしてたんだ。・・もう自分が何をしてるのかわからなくて・・・ごめん・・・あんなことするつもりじゃ・・・・・・」
ソロの顔を見るなり、レックは涙を流して会話にならないことを言い出した。目の焦点が合っていない。
「・・・・・・・・・。・・俺は平気だよ。大丈夫。ありがとうな・・・俺を助けてくれて。お前こそ辛かったろう。いいんだ、これで」
泣きながらひたすらに謝り続けるレックをそっと抱き締め、ソロは小さな声でしばらくの間優しい言葉をかけ続けた。
・・・そしてレックが落ち着いてきた頃、右手を翳して空中から液体の入った注射器を取り出す。
ぐったりと垂れ下がったレックの手を取り、袖をまくって薬を注射する。
掠れた声ですすり泣くレックの身体を支えてベッドに横たわらせ、肩までケットをかけて頬に手を添え、数分間ずっとその状態でいた。
・・・そしておもむろに立ち上がりその場を去ろうとするが――途中でふらつき、壁に手をついて口を押さえた。
――――――――――――――――――
――――――――――――
━─━─記録015 予想済みの異変
「・・・・マウントマッシブ精神病院の事件・・・山から唯一生きた体で戻ってきたスーパーエンジニア、ウェイロン・パーク。奴が自分を殺しかけた46歳のガキの死にざまを見て、メモに何て残してか知ってっか?」
「・・俺の予想だと“てめえでてめえの種でも孕んでろ”だな」
「あっほくせ。“俺は今必死で笑いをこらえてる”だよ。人間ってのは本当に短時間で変わっちまうもんなんだ」
約三時間後、深夜のレクリエーションフロア。テーブルの上には四本ほどウォッカの瓶が並んでいる。どこか古風で伝統的なものだ。
そしてその横には薬瓶。いくつか錠剤がこぼれている。
「ふーん。そりゃいい、クールだな全く。行方不明になったフリージャーナリストは?」
「マイルズ・アップシャー。彼は・・・・んー、気の毒な彼がどうなったかは・・ウェルニッケ博士だけが知ってたことだ・・・だがパークが死なずに病院から出られたのは彼のおかげさ」
「詳細は聞かない方がよさそうだな。・・ところでよ、お前そいつは何だ。まさかアルテミジアか?」
「当たり。詳しいんだな」
アルコール度数70%をゆうに超えるアブサンを無造作にグラスへ並々と注ぎ、何もせずにそのまま口をつける。
「・・お前頭おかしいんじゃねえの?死ぬぞそんな飲み方したら・・・あーあ・・・」
中身を一気に呷り、音を立てて空になったグラスをテーブルに置いた。
「・・・・お前らとは出来が違うんだよ。なんなら同じ量の硫酸を一気飲みしてやったっていい」
「・・・ああそう。つうかよ・・・一体全体何があったんだよ。カズモトさんが見たら発狂するぞ?」
ソファにもたれ、ベクスター博士は恐ろしいペースでかさが減っていくアルテミジアを眺めながらため息をついた。
あっという間に瓶は空になったが、ソロは顔色一つ変えずに同じものをもう一本空中から引っ張り出す。
「誰にでもあんだろこういうの。思い出したくもねえことばっか思い起こされて、今俺の機嫌はアンダーサイド・バロックを突き破りそうなんだ。てか、お前こそ職場で酒を飲ってる時点で俺に文句言う権利ねーっつの」
「俺は許可貰ってんだよ。・・または酔ってるヴィンスを言いくるめたとも言う。そんでもってそいつ・・・それだよ、白カプセル。さっきも言ったが酒で飲むなんて自殺行為だぞ。いくら身体の構造が違うからって・・・」
「うっせー。余計なお世話だ。・・・話を戻そうぜ、そうだな・・・じゃ次はビーコン精神病院で起きた一連の事件だ。これには大きな組織の力が絡んでて、ある刑事が――」
「おいおい待て。さっきから鬱屈した話ばっかだぞ、一旦精神病院から頭を離せよ。もうちょいご機嫌な話をしようぜ、どうせなら」
言われてソロが肩をすくめた時、部屋のドアが突然開いた。二人が視線を向けると入ってきたのはクロウ博士だ。
「・・やっぱここにいたか。指定されたブツどもがやっとのことで出来上がったぜ。解析にえらく時間がかかったが、きっちり同じ成分を含有してるはずだ」
「おう、ご苦労さん。あとはそいつらをコピーするだけだな」
テーブルに歩み寄りながら、その上にあるものを見てクロウ博士は顔をしかめた。
「・・・ところで、何をやらかしてんだお前ら。ハイレベルな酒飲んでる割にはやたら辛気臭え顔してんな」
「俺はちょっとでいいからクリアの働きを弱めたいだけだ。でもこの調子じゃ、マシな状態になるまでウン十時間かかりそうだ・・・・スピリタスと、アリピプラゾールが20㎏くらいあれば頗るご機嫌なんだがな」
「作ればいいじゃないか」
「60時間くらい昏睡してもいいならそうしたいところだ」
「そりゃお手上げだな・・・」
クロウ博士はふと、酒瓶の隣に倒れている小柄な別の瓶を見た。見覚えがあるものだ。
するとソロは、白い錠剤がぎゅうぎゅうに詰められたそれを片手で引っ掴み、蓋を開けて中身をそのまま口の中へ流し込み始めた。
「・・・・・おい・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
大量の薬剤を噛み砕く音。・・そしてアルテミジアでそれらを喉の奥へ追いやる。グラスに移さないまま。大きく数回飲み下し、半分叩きつけるようにして瓶をテーブルに戻した。
「・・・この世界で一等強烈な精神安定剤をつまみにアブサン飲ってるってわけか。ハイレベルなんて話じゃねえな」
「・・いやいや。数十年前からこいつが俺の主食だ」
そう言って小さく笑うと、ソロは体を前に倒して頭を抱え込み、項垂れた。
「・・・・躁鬱の気がひどいんじゃねえか?これよりゃマシだが似たような精神病患者を見たことがある」
「むしろこいつがマトモな精神状態を保ってると少しでも思ったことがあるのか?」
「レック」
「!」
倒れたまま動けずにいると、背後に気配を感じた。そしてすぐに、すっと黒い手袋をした手が伸びてきて、目隠しをされる。そのまま優しく抱き起こされ、ゆっくり背中を倒された。・・温かい。
声も出せないうちに、半ば強制的に口を開けられて何か小さな粒のようなものをいくつか入れられた。
「そのまま飲み込んで」
「・・・・・ん・・・・・・・」
言われた通り、口の中にある粒を飲み下す。・・すると目から手が外された。
「・・・・・・ソロ、今の・・・・」
「気にするな。・・どこか変なところはないか?気分がおかしいとか、何か声が――」
「ごめん。よく聞こえない。・・・もう一度言ってくれ」
「・・気分がおかしかったり、変な声が聞こえたり変なものが見えたりはしないか?」
「・・・・・わかってる、ゆっくりでいいから・・・。そうだよな・・・悪かった・・・ごめん、ごめんな。痛かったよな。オレがどうかしてたんだ。・・もう自分が何をしてるのかわからなくて・・・ごめん・・・あんなことするつもりじゃ・・・・・・」
ソロの顔を見るなり、レックは涙を流して会話にならないことを言い出した。目の焦点が合っていない。
「・・・・・・・・・。・・俺は平気だよ。大丈夫。ありがとうな・・・俺を助けてくれて。お前こそ辛かったろう。いいんだ、これで」
泣きながらひたすらに謝り続けるレックをそっと抱き締め、ソロは小さな声でしばらくの間優しい言葉をかけ続けた。
・・・そしてレックが落ち着いてきた頃、右手を翳して空中から液体の入った注射器を取り出す。
ぐったりと垂れ下がったレックの手を取り、袖をまくって薬を注射する。
掠れた声ですすり泣くレックの身体を支えてベッドに横たわらせ、肩までケットをかけて頬に手を添え、数分間ずっとその状態でいた。
・・・そしておもむろに立ち上がりその場を去ろうとするが――途中でふらつき、壁に手をついて口を押さえた。
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━─━─記録015 予想済みの異変
「・・・・マウントマッシブ精神病院の事件・・・山から唯一生きた体で戻ってきたスーパーエンジニア、ウェイロン・パーク。奴が自分を殺しかけた46歳のガキの死にざまを見て、メモに何て残してか知ってっか?」
「・・俺の予想だと“てめえでてめえの種でも孕んでろ”だな」
「あっほくせ。“俺は今必死で笑いをこらえてる”だよ。人間ってのは本当に短時間で変わっちまうもんなんだ」
約三時間後、深夜のレクリエーションフロア。テーブルの上には四本ほどウォッカの瓶が並んでいる。どこか古風で伝統的なものだ。
そしてその横には薬瓶。いくつか錠剤がこぼれている。
「ふーん。そりゃいい、クールだな全く。行方不明になったフリージャーナリストは?」
「マイルズ・アップシャー。彼は・・・・んー、気の毒な彼がどうなったかは・・ウェルニッケ博士だけが知ってたことだ・・・だがパークが死なずに病院から出られたのは彼のおかげさ」
「詳細は聞かない方がよさそうだな。・・ところでよ、お前そいつは何だ。まさかアルテミジアか?」
「当たり。詳しいんだな」
アルコール度数70%をゆうに超えるアブサンを無造作にグラスへ並々と注ぎ、何もせずにそのまま口をつける。
「・・お前頭おかしいんじゃねえの?死ぬぞそんな飲み方したら・・・あーあ・・・」
中身を一気に呷り、音を立てて空になったグラスをテーブルに置いた。
「・・・・お前らとは出来が違うんだよ。なんなら同じ量の硫酸を一気飲みしてやったっていい」
「・・・ああそう。つうかよ・・・一体全体何があったんだよ。カズモトさんが見たら発狂するぞ?」
ソファにもたれ、ベクスター博士は恐ろしいペースでかさが減っていくアルテミジアを眺めながらため息をついた。
あっという間に瓶は空になったが、ソロは顔色一つ変えずに同じものをもう一本空中から引っ張り出す。
「誰にでもあんだろこういうの。思い出したくもねえことばっか思い起こされて、今俺の機嫌はアンダーサイド・バロックを突き破りそうなんだ。てか、お前こそ職場で酒を飲ってる時点で俺に文句言う権利ねーっつの」
「俺は許可貰ってんだよ。・・または酔ってるヴィンスを言いくるめたとも言う。そんでもってそいつ・・・それだよ、白カプセル。さっきも言ったが酒で飲むなんて自殺行為だぞ。いくら身体の構造が違うからって・・・」
「うっせー。余計なお世話だ。・・・話を戻そうぜ、そうだな・・・じゃ次はビーコン精神病院で起きた一連の事件だ。これには大きな組織の力が絡んでて、ある刑事が――」
「おいおい待て。さっきから鬱屈した話ばっかだぞ、一旦精神病院から頭を離せよ。もうちょいご機嫌な話をしようぜ、どうせなら」
言われてソロが肩をすくめた時、部屋のドアが突然開いた。二人が視線を向けると入ってきたのはクロウ博士だ。
「・・やっぱここにいたか。指定されたブツどもがやっとのことで出来上がったぜ。解析にえらく時間がかかったが、きっちり同じ成分を含有してるはずだ」
「おう、ご苦労さん。あとはそいつらをコピーするだけだな」
テーブルに歩み寄りながら、その上にあるものを見てクロウ博士は顔をしかめた。
「・・・ところで、何をやらかしてんだお前ら。ハイレベルな酒飲んでる割にはやたら辛気臭え顔してんな」
「俺はちょっとでいいからクリアの働きを弱めたいだけだ。でもこの調子じゃ、マシな状態になるまでウン十時間かかりそうだ・・・・スピリタスと、アリピプラゾールが20㎏くらいあれば頗るご機嫌なんだがな」
「作ればいいじゃないか」
「60時間くらい昏睡してもいいならそうしたいところだ」
「そりゃお手上げだな・・・」
クロウ博士はふと、酒瓶の隣に倒れている小柄な別の瓶を見た。見覚えがあるものだ。
するとソロは、白い錠剤がぎゅうぎゅうに詰められたそれを片手で引っ掴み、蓋を開けて中身をそのまま口の中へ流し込み始めた。
「・・・・・おい・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
大量の薬剤を噛み砕く音。・・そしてアルテミジアでそれらを喉の奥へ追いやる。グラスに移さないまま。大きく数回飲み下し、半分叩きつけるようにして瓶をテーブルに戻した。
「・・・この世界で一等強烈な精神安定剤をつまみにアブサン飲ってるってわけか。ハイレベルなんて話じゃねえな」
「・・いやいや。数十年前からこいつが俺の主食だ」
そう言って小さく笑うと、ソロは体を前に倒して頭を抱え込み、項垂れた。
「・・・・躁鬱の気がひどいんじゃねえか?これよりゃマシだが似たような精神病患者を見たことがある」
「むしろこいつがマトモな精神状態を保ってると少しでも思ったことがあるのか?」