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伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録016

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「逃げるんじゃねえ!お前だって勇者なんだろ!?正々堂々真正面から戦いやがれ!それが嫌なら大人しく殺されろッ!!」

飛んできた鋭い声は、レックのものだった。サマルは単独でレックに追われているのだ。ここから考えられるこの世界の状況は大きく分けて二通りある。

一つは、願いを叶えるため勇者全員の抹殺を目論み、アベルを頭脳として動く天空の勇者たちと、それを阻止せんとする他の勇者たちが敵対している場合。

もう一つは、ロトの血族以外の勇者の存在を良しとしないアレル達が結託し、他の勇者たちを皆殺しにしようとしている場合だ。

そしてこの世界ではかなり高い確率で既に死者が出ていることになる。なぜなら、本来どんな立場にいても変わらず勇者同士の戦争を嫌っているはずのレックがここまで怒り狂っているということは、ほぼ間違いなくもうソロかアベルが殺されている。

また・・・「大人しく殺されろ」という言葉から鑑みるにこの世界は、おそらく前者だ。レックたちは他の勇者を皆殺しにした後、自分達も殺し合う気でいたのだろう。
そして軽く錯乱気味の彼の様子から、ソロとアベルを止められなかったばかりかその死を目の当たりにしたが故に、自暴自棄になりかけているのが窺える。

・・最低最悪の世界だ・・・。




━─━─記録016 連鎖的な追憶




絶望的な気分だった。しかしどうせもうすぐにここを去れるのだから関係ない。彼の望み通り大人しく、さっさと殺されてしまおう。

そう思い、サマルは立ち上がりもせず歩み寄ってくるレックを振り返った。

その体は傷だらけで、狂気じみた光が宿る目で薄く微笑みながら、彼はサマルを見据えていた。
右手には血に濡れた豪華な大剣。別の世界の彼が教えてくれたがラミアスの剣というらしい。悪を討ち、人々に平和と希望を与えたはずの正義の剣が、勇者の血に染まっている。こんな痛々しい事実も、自分がここを去りさえすれば消えてなくなる。

「・・はは、諦めたか。つまんねえ奴。そうそう、お前の仲間の王女様なあ、オレが殺しちゃったから。ふふっ・・・これでおあいこだな、ああ?いつまでも被害者面してんじゃねえぞオラァッ!!はははははははっ」

・・関係ない。どうでもいい。ここはボクの世界じゃないんだから。この人はボクの知ってるレックさんじゃないんだから。憎いならどうぞ殺して。ボクだって早く現実の世界に戻りたいんだ。

「・・・・・・何だよ、その顔。さっきまで死ぬほど怖がってたくせに。まあいっか・・・ふふははっ。・・・じゃあな臆病者。死ね」

レックが剣を振り上げたのを見て、サマルは静かに目を閉じ痛みを覚悟した。

ぐさり、と刃物が肉を貫く音が聞こえた。

・・・・だが、痛みを感じない。不思議に思ったサマルは目を開ける。
・・レックは剣を振り下ろしていなかった。サマルが目を閉じる前と同じ格好で静止している。
そしてその胸から、別の剣の先端が突き出ていた。

「・・・・ぐ・・・・っ・・・・。・・・ぁ・・・・」

その刃が、縦に刺さった状態から倒れて平らになり、そのまま横一線に走った。血飛沫がサマルの顔に飛ぶ。

レックは数歩よろけて膝をつき、倒れこんだ。そして背後に立つ人物を恨めしげに睨みつける。

「・・お・・お前・・・・・っ」

レックを刺した人物は無言のまま剣を握り直すと、彼の首に突き刺した。
・・・レックが完全に動かなくなると剣を引き抜き、唖然とするサマルに手を差し伸べる。
サマルは震えながらその手を取り、血の付いた王者の剣を一瞥してから顔を上げた。

「・・・・あ・・・・アレル様・・・・・・」

「立て」

「・・・でも・・・・」

「立てッ!!!」

びくりと肩が跳ねた。サマルが恐る恐る立ち上がると、アレルはそれ以外一言も喋ることなく、鬼のような形相のまま彼の手を引いて歩き出した。サマルは半ば強制的に歩かされるようにして引っ張られていった。

そして別の建物まで移動すると手を離し、アレルは怯えるサマルを鋭い目で睨んだ。

「・・・君は・・・そんなに勇者でいるのが嫌なのか。そこまでして勇者をやめたいのか」

「・・・え・・・?」

「仲間の命を奪ってまで自分の心の平穏を手に入れたいのか。確かにそんな奴に勇者でいる資格はないな。いくら先祖でも、君らの憧れる伝説の勇者様でも、自分の都合で人殺しをするような奴は庇いきれない!
わかってるのか!?君は取り返しのつかないことをしたんだ!!」

・・・・・なに・・・?何なの・・・?・・・人殺し?ボクが?
なんでアレル様がこんな・・・・
・・・・・怖い。嫌だ、なんで・・・・

「・・・・・そんなはずない・・・・ボクは・・・だって・・・・っ」

「ああ何だよ、言ってみろ。俺を納得させられる理由があるなら言ってみろ!そんなものあるはずがない!!人を殺すことを正当化できる理由などないッ!!
戦いたくないなら素直にそう言えばいい!誰もそれで君を恨んだりはしない!なのに・・・全てを台無しにしたのは君自身だ、そしてこの俺を人殺しにしたのも君だ!!」

レックの血が付いた王者の剣をサマルの前に突き出し、今にも掴みかかりそうな勢いでアレルが怒鳴った。
あまりのショックに言葉を失い、サマルは思考を停止していた。状況を推測する余裕などあるはずもない。自分の世界ではないと高をくくっていたはずなのに、アレルの言葉は全て鋭い刃となってサマルの胸を貫いた。

それは何故か。・・・今まで誰かが誰かを殺した世界はあっても、自分が誰かを殺した世界などなかったからだ。
そしてアレルが自分のせいで大きな罪を背負うことになってしまったから。
こんなことは今までなかった。信じられなかった。

「そんな、ちが・・・違うよ・・・アレル様は悪くないよ・・・」

「・・・何?何が?」

「だって仕方ないよ・・・全部ボクのせいなんだから・・・アレル様は・・・・」

「・・さっきからアレル様、アレル様って・・・何なんだよ。誰だよそいつは。俺の名前はロトだ!何なんだよ一体・・・畜生ッ・・・!!」

「・・・あ、ぅ・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・!」

その時、建物全体が揺れた。右手にある壁に亀裂が入る。
そして青白い巨大な雷が壁をぶち抜いて二人に襲い掛かった。

王者の剣を投げ出して頭を抱えていたアレルだがいち早く反応し、地面を蹴って空中でサマルを抱きかかえ、地面で一回転して電撃を避けた。

そこへ何者かが雄叫びを上げながら剣を振りかぶり、崩れかけた天井の向こうから落下してくる。

アレルは素早く剣を取ると、腰が抜けて動けなくなったサマルの前に立ち武器防御の姿勢をとった。

目にもとまらぬ速さで飛んできてアレルに斬りかかったのは、ソロだった。手には天空の剣。

激しいつばぜり合いになり、伝説の剣同士が火花を散らす。

「サマル、下がってろッ!!」

「・・・・・・・・・っ」

サマルはどうすることもできず、震えながらほとんど這うようにして言われた通り壁際まで下がった。
・・そして同時に、ふと目に入ったソロの形相を見て少しの違和感を覚えた。

「貴様・・・・ッ・・レックを・・・レックを殺したなぁぁああッ!!?」