比翼の鳥は囀りて
アンジェリークの背に回した手に力がこもる。
「結論から言います。女王になってください。それがあなたに課せられた使命、この宇宙の意思なんですから」
彼女が息を飲んだのが伝わってきた。
「そうして私のサクリアが尽き、あなたの使命も終わってお互いが聖地を離れて、生きて再び出会えたとき……どうか私と結婚してください」
木立の間をざあ、と一陣の風が吹き抜けていった。
「聖地と下界では時間の長さが違いますから、生きている間に出会える確証は何一つありません。たとえ会えても、もしかしたら最期を看取るだけかも知れない。これはあなたを生涯に渡って縛り付ける鎖の約束だと知っていて、それでも敢えて言います」
翠の目がこちらをまっすぐに見ていた。
「どうか……私と共にいてくれませんか。生まれ変わっても未来永劫、比翼の鳥として」
彼女が女王になるにせよ、補佐官になるにせよ、聖地限定の恋人同士で終わらせるつもりはなかった。だが自分の在位期間はもう長い、サクリアが尽きるのもそう遠い話ではないだろう。
家庭を築いていくその途中で聖地を出なければならなくなったらと考えると、無責任なことはできない。
一緒に聖地を出ることにしたって、きっと彼女は心を痛めてしまうことだろう。
いまや無二の親友となったロザリアを置き去りにして宇宙を放り出させることは、きっとアンジェリークを傷つけてしまう。
かといって既に深く根付いてしまったこの想いを、もう無かったことにはできない。
それならば、取るべき道は自ずとひとつに絞られる。
風に煽られた湖面がざわざわと波打つ。
じっと足元に視線を落としていたアンジェリークの顎が上がり、そして大きく頷いた。
その瞳に迷いはもう見当たらない。宝石のような煌めきがそこにあった。
「ありがとうございます、ルヴァ様……ずっと一緒にいてくださいね」
そう言って微笑んだアンジェリークの白い手の甲に、そっと唇を当てた。
「ええ。お互いが聖地を離れて完全に自由になるまで、耐えてみせますよ。それにここにいる間はずっと一緒にいられますし、ね。だから、あなたはあなたにしかできないことを、精一杯おやりなさい」
「はい! もし女王に選ばれたら、謹んでお受けします。ルヴァ様や皆と一緒にこの宇宙を守りたいから」
アンジェリークの小さな手を握り、ルヴァは自分の胸にそっと押し当てる。
戸惑い、迷い、恐れ、不安。彼女への偽りなき愛。そして守護聖としての矜持も何もかもが、等身大の自己が、全てこの胸の内に在る。
ひとつ深呼吸をして、くっと口角を上げた。
「その調子です。いつだって必ずあなたの力になりますからね」
雲はすっかりと流れ去り、空がどこまでも青く澄み渡っていた。