ローリンガール
「心配したんだよ!? 未来、最近ずっとなんか変だったし、何かあったのかと思って心配で心配で…!」
「大丈夫? 怪我とか何も不調もない?」
詩織も心配そうに私の顔を覗き込み、相手を気遣う言葉を連ねる。
その瞳には涙が溜まっていた。
ふと、身体に触れるぬくもり。
そのぬくもりは雫となって、私の中から溢れてきた。
「大丈夫…大丈夫…。 ごめんね、心配かけて…!」
…そっか。
私は…。 私はただ…。
「ありがとう…」
この言葉を、皆に伝えたかっただけなんだ。
二階に担任の先生、お母さん明人も順に上がってきて、皆安堵の笑みを浮かべていた。
そして、明人は私と目が合うとにっこりと温かい笑みを浮かべるのだった。
昔から何も取り柄がなかった。
けど、その取り柄がないと思える向上心こそ、私の努力そのもので、取り柄そのものだった。
愛情を受けた私は、その愛情を優しさに変えて周りの子と接することが出来るようになった。
劣等感や嫉妬心の塊は、私が一人ではないからこそ持てる感情なのだと分かった。
私は…何も自分に負の感情を持つ意味はなかった。
持ったら持っただけ、綺麗な世界が歪んで見えてしまうから。
そう思えた時、私はようやく少し、ほんの少しだけ笑うことが出来た。
『もういいかい? もういいよ。 そろそろ君も疲れたろうね、息を止めるの今』
*
「みーく、おはよー!!」
「おはよ、咲」
「おはよう、未来“」
「おはよう、詩織」
「ねぇ、早く見せてよ、結果!」
咲が私の方に手を乗せ、私の手元の封筒を覗きこんでくる。
「へへ~ん、そんなに見たい?」
「みーたい!」
「もったいぶらないで見せてよ、未来!」
「じゃーん、結果発表です!」
私は手元の封筒から二つ折りされた紙を取り出す。
そして、その紙を広げて二人に見えるように高々と掲げる。
「この度、私は!!
S高校に――無事合格しました!!」
「やぁったぁぁ!!」
「おめでとう、未来―!!」
友達二人に囲まれて、私達はきゃっきゃとその場で飛び跳ねる。
その様子を見ていた青年が、こちらへゆっくりと歩み寄ってきた。
「おめでとう、未来。
…これから、一緒に頑張ろうな」
「…うん!」
私は力強く返事をし、差し出された青年の手――明人の手を握った。
一面桜が舞う、程よい暖かさが包んでくれる出会いの季節。
これからも私達はいろいろな人と出会い、別れ、様々な経験をして大人になっていくだろう。
けど、私は。
今ここにいる自分が、周りの人たちが、ずっと同じ世界の中で生きて行くことを、感謝をし続けることを忘れない。
それはきっと、私の心に刻まれた大事な人達との約束だから。
《完》