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ぽっぽこぽん
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novelistID. 59190
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ローリンガール

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そんな優しさが更に私を焦らせて。

そんな自分が醜く思えてきたのはいつの頃からだろう。
こんな私が劣等感と嫉妬心の狭間で潰されそうになっていたのはいつの頃からだろう。
私はただ単に…。
皆の愛情に応えたかっただけなのに。

「ごめんなさい…」
こんな私でごめんなさい。
「ごめんなさい…」
何も出来ない私でごめんなさい。
「ごめんなさい…」
明人は黙って、「大丈夫」と同じ言葉を繰り返して私を抱きしめているだけだった。


その明人の温もりが暖かくて、私の中のささくれだった心が癒されていくような気がした。
一瞬だけの安堵。
それでも、確かに欲しかった安心感だった。

私が落ち着いたのが分かったのか、明人はポツリポツリと語り出す。

「…俺も、あったんだ。お前みたいに追い詰められたことが」

「……っ」

その言葉に軽く驚く。
出来ないと嘆いていたのは私だけだと思っていたから。
私の様子に気づいた明人が、軽く笑いながら続ける。

「この俺でも追い詰められて、家出した時があった。その時、助けてくれたのが友達の蓮だった。
蓮は俺を自分の家に迎えてくれて、俺と親の心の架け橋になってくれたんだ」

その時の様子を思い出しているのか、明人は優しく微笑む。

「蓮は言ってくれたよ」

“誰かの期待に応えようとして失敗する、それは誰にでもあるよ。
でもその時に落ち込むのか、また応えるために次に切り替えるのか…。
頑張るのもキツイ時があるけど、辛くなったらいつでも頼れよ。
お前は一人じゃないから”

蓮という明人の友達の言葉。
それを私に伝えながら明人はそっと体を離す。
そして、私の目を見ながら幼子に言い聞かせるように言う。

「俺が一人じゃないように未来にも俺や未来の友達、家族がいるだろ。
お前は一人じゃないんだ、だからこんなことをする前に俺たちを頼れよ」

「……うん」

頷く私を満足そうに見つめて、明人は優しく笑った。

いつも何かを一人で抱え込んでは悩んでいた私。
でも、「一人じゃない」。
誰かを頼ることがこんなにも安心できるなら。

未だに息は苦しくなるけれど、誰かによって吐き出せることが出来るなら、私は前を向いて歩ける気がした。

それから私は明人にふらふらとおぼつかない足取りで付いて行き、気づけば家の前に立っていた。
私の家――
あのまま私が過ちを犯そうとしていたものなら、家族には一生本物の笑顔を見せることは出来なかっただろう。
友達にも、明人にも。
もし、あの時明人が止めてくれなかったら…。
そこから先の思考へ向かおうとした時、明人は軽く私の背中をぽんと叩く。
「ほら、お前の家だぞ」
「…うん」
もう帰ることの出来なくなったかもしれない、私の家。
大事な家族。
私はどういう気持ちで家に入ればいいのか分からなくなっていた。
その様子を察してか、明人は私をリードするように玄関まで連れて行く。
私達の様子に気づいたのであろう、母が私達を出迎えた。
「あら、未来、明人君。
こんな時間に二人共どうしたの?」
「あぁ、俺はちょうど午前中授業だったんです。
それで、帰り道で未来を見つけて。
お母さん、ちょっと未来を二階に休ませてもらっていいですか?」
「え? えぇ。 大丈夫、未来? 具合悪いの?」
「――」
声が、出ない。
明人は困惑した顔で微かに笑みを浮かべると、私の頭を少し荒っぽく撫でる。
「お前は休んでろ、な?」
「…うん」
本当に、虫の音ほどの声だったと思う。
私は軽くふらつきながら二階への階段を上っていった。
目の前に広がる私の部屋。
当たり前の風景。
けど、それが私には胸の内を叩くものがあって。
自然と涙がこみ上げてくるのがわかった。
次々と溢れる涙を両手で拭いながら、私はその場で力尽きるように座り込む。
『俺が一人じゃないように未来にも俺や未来の友達、家族がいるだろ。
お前は一人じゃないんだ、だからこんなことをする前に俺たちを頼れよ』
頭の中で蘇る、明人の言葉。
声の出ない口は、ずっと同じ動きを繰り返す。
ただただ、家族にも、友達のも明人にもずっと心の隅っこで思っていて言えなかった言葉。
『ありがとう』、と。

当たり前の日常は、私の大切な人達がいるからこそ価値のあるもの。
私は…、私は一体、何処から勘違いをしていたんだろう。
私の頬から流れるしずくは、白いカーペットにいくつもの円状のシミを残した。



「あ、手伝いますよ、お母さん」
「あら、そう? 助かるわ」
俺は未来の母親の隣に立ち、シンクに溜まっている食器に手を出す。
母親が食器を洗い、俺がその洗剤を流す。
しばらく、そんな流れ作業が続いた。
そして、母親が俺に不安を孕んだ声で俺に問いかける。

「未来…大丈夫?」
「……」

しばし考えることがあったが、俺はすぐさまこう切り返す。
「大丈夫です。 あいつ、不器用なんで」
「へ?」
俺はふにゃりとした笑みを浮かべ、軽くびっくりした母親の表情を見つつ答える。
「不器用なんですよ、何もかもが。
あいつ、俺以上に何倍も頑張って、それでも努力が足りないって思っちゃうような不器用で、優しい奴なんです。
それはお母様が一番知っているでしょう?」
「…そうね、あの子は小さい頃から周りの子に気を使う優しい子だった」
「けど、その小さいころの優しいとはまた違うんですよ」
「違う?」
「はい。 この年代の子って、どの子も傷つきやすいんですよ。
勿論、未来も例外じゃないです。
俺だって…そうでしたから。
だから、自分が傷つかないために一定の優しさを手前にするんです。
けど、未来の優しさは手前じゃない。
本当に人の心に寄り添える形の優しさなんです」
「……」
「ちょっと未来も心の中に溜めていた風船を破裂させちゃったみたいなんです。
俺じゃ…ちょっとその風船の修復をするのには技量が及ばないみたいで」
「…そっか。 未来も、そんな風に“優しい子”に育ったか。
あの子には無理をさせすぎちゃったかしらね…」
母親が俺の目を見て困ったように笑うと、俺は同じように困ったような笑いを返した。

その時、家のチャイムが鳴る。
母親が返事をし、玄関へ向かいドアを開ける。
扉の向こうには、未来と同い年ぐらいの二人の少女。
焦燥心不安さを混ぜたような複雑な表情をしていた。
「未来は…未来さんはこちらに帰ってきていませんか!?」
と、その二人の後ろに一回り大きい影がひとつ。
「未来さんの担任の海斗と申します。 
電話が繋がらないので早急、こちらへお伺いしたのですが…」
「電話? すみません、ちょうど家の電話の調子が悪くて…」
「未来は!? 未来は何処に!?」
俺は二人に親指で二階にいることを指示すると、二人は直ぐ様靴を脱ぎ捨て「すみません!」と一声かけ、二階へ駆け上がっていった。

…ほら。
お前の周りには、たくさんの人がいるだろ?

俺は二人の背中が見えなくなるまで目で見送った。



「未来ッ!」
「未来ッ!?」
聞き慣れた2つの声に私は顔をあげる。
目の前には心配そうにしている咲と詩織の姿。
「どうし――」
「未来!!」
咲が私を抱きしめ、私は突然のことで言葉を途切らす。
そして、彼女は私の耳元で涙声で言う。
作品名:ローリンガール 作家名:ぽっぽこぽん