二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

抱け、彼の背

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
「市、長政様のお役に立ちたいの。」
一心にこちらを見つめる黒曜石の瞳。
気づいたときには、自分の首は勝手に縦に振られていた。

  ― 抱け、彼の背

 血なまぐさい戦場の中、薄紅色の鎧を纏った細い影。その姿を見失わないように、長政は次々と寄せては返す敵の波に抗いながら前進し続けていた。
側を離れるなと言い、そして長政自身も側を離れるものかと心に誓い、そうあるように行動していた。そのはずだったのだが次々と襲い来る敵に抗っている間に、気づくと二人の距離は開いてしまっていた。
「くそっ…!」
 長政は苛立ちながら目の前の敵を切り捨てる。
崩れ落ちる敵兵の向こうに、敵と対峙する市の姿が見えた。
殺意の込められた刃がそのか弱い影に襲い掛かる。
市はその刃が己に届く前に、外見と裏腹の鋭い斬撃で敵を切り伏せた。
「市っ!」
しかし、長政の口からは焦りのこもった鋭い声が発せられる。
少し距離のある長政の位置からは、彼女の背後から襲い掛かる無数の刃がはっきりと見えていた。声に反応して市は振り向くが、刃から身を守る術は無い。
長政の背が恐怖であわだち、焦燥が身を焼く。
(あぁ、だめだ、待ってくれ、こんなはずでは。)
ゆっくりと崩れ落ちる市の体。
その場に広がったのは紅ではなく、深遠の闇だった。
虚空を見つめる黒い瞳、薄く開いた口からはこの世のものとは思えぬ声が漏れ出る。
その声と呼応するように、広がった闇から無数の手が現れた。
邪悪なそれは彼女に向けられた刃を捕らえ、一瞬の内に黄泉へと引きずり込む。
『魔王の妹』
嫌悪と恐怖がごた混ぜになった、忌むべき呼び名が胸をよぎる。
先ほどまでと違う恐怖が長政の心を支配した。
自分はとんでもないものを、浅井に引き入れてしまったのではないか。
心の奥に沸いた、抱いてはいけない気持ちを振り払うべく、長政は眼前の敵を一刀のもとに切り伏せた。


作品名:抱け、彼の背 作家名:キミドリ