或る兄妹の肖像 prelude＋落書き
落書きその２(シャワーシーンただしエロなし。覇王視点)
どこで買ってきたとも分からない大きな盥に湯を満たして、彼はすまなそうに言った。
「ごめん。シャワー浴びたいだろうけど、鎖がそんなに長くないから」
彼にとって、柱から右手首に繋がれた手錠をはずすという選択肢はなかった。こちらとしても、それを指摘する気はなかった。
服は身に着けていなかったから、そのまま湯に浸かる。ほとんどの部分は空気に晒されたままだったが、それでも伝わってくる温かさに気が緩む。思わずほうっと息をつくと、彼は嬉しそうに目を細めた。
「良かった。気に入ってくれたみたいで」
そう言って服を脱ぐと、身体を洗ってくれた。最初は襲われるのかと思った。二人とも裸なのだから、少しは覚悟はしていた。だが、そういう素振りは全くなかった。
それが逆にもどかしいとすら思った。
「かゆい所とかないか？」
「特にない…んっ」
彼の指先が胸の先端を掠めると、微かに快感を覚える。殺しきれずに漏れた声に、不思議そうな問いかけ。
「どうした？」
「…何でもない」
誤魔化すように首を振ると、彼の表情が曇る。
「のぼせたのか？」
「いや…」
感じているのは物理的な熱ではない。もっと身体の奥に潜む、本能的なもの。ただ、それを告げる事は出来なかった。言えば彼に疎まれる気がして。
「…覇王」
「どうした？」
「……嫌なら、言ってくれよ」
ぼそっと告げられた言葉に慌てて首を振る。
「嫌ではない」
「…なら、いいけど」
彼の表情は暗いままだ。それは自分のせいなのだと、申し訳なく思っているはずなのに、触れられた身体は歓喜をうたい、求める心が浅ましい。
彼を悲しませる事になると思えば、ため息をつく事すら出来ず、まるで拷問のようだった。
作品名：或る兄妹の肖像 prelude＋落書き 作家名：ましゅろ～