同調率99%の少女(7) - 鎮守府Aの物語
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緊張の空気がなくなった校長室では、軽く言葉をかわしあえる空気に戻っていた。
「ふぅ。これで光主さんもやっと楽になれるかな?」
呼吸とともに緊張を吐き出して楽になった提督は斜め後ろをむいて那美恵に一声かけた。那美恵はソファーの背もたれにのしかかって提督の背中越しに顔を近づけて言う。
「まだまだ、これからだよ。これから忙しくなるし楽しくなるんだと思うな。……提督、本当にありがとーね。」
満面の笑みで那美恵は提督に言い、そのあと視線を提督を挟んだ五月雨のほうに向けて続ける。
「五月雨ちゃんにもよろしく言わなくちゃね。これからうちの学校から人行くと思うから、秘書艦の五月雨ちゃんにはビシビシ突っ込んできてほしいし。」
「い、いえ。ビシビシなんてそんな。先輩方に。」
「何言ってるの!艦娘としては五月雨ちゃんは一番の先輩なんだよ?頑張っていこーぜ〜!」
那美恵は最後に軽く茶化しを入れて五月雨を鼓舞した。
そののち、那美恵は阿賀奈に呼びかけた。
「四ツ原先生、ちょっとよろしいですか?」
「ん?なになに?先生に頼み事かなぁ?」
阿賀奈は校長の座るソファーの背後、テーブルを回りこむように提督の席のほうに行こうとしたが校長からソファーに座るよう促され、校長に隣のソファーに座った。そして頼み事をされるという期待の眼差しで提督らに視線を集中させる。那美恵と五月雨も提督の両脇のソファーに座り、打合せする体勢に入る。
その後の話は校長と教頭には直接関係なくなるが、教頭は孫娘が艦娘をやっていることもあり、また校長はこれから発足する艦娘部のことを少し知っておこうと提督らの話を静かに聞いておくことにした。
これから那美恵が話そうとしていたことは、艦娘部に関することでさらに言えば阿賀奈に直接関わることであった。那美恵は提督に耳打ちして伝えると、そのことならと提督は那美恵の代わりに自分が阿賀奈に伝える役を買って出た。
「えぇと、四ツ原先生。」
「はい!」
「艦娘部の顧問になっていただけたということで、先生にはこれから、職業艦娘の資格か、艤装取り扱いの免許を取得して、技師として鎮守府に出向していただくことになります。その点はご理解いただけてるということでよろしいでしょうか?」
「……へっ?しょくぎょーかんむす?ぎそーとりあつかい?」
阿賀奈は目を丸くして見るからに全くそれらの内容がわかっていない様子を見せる。事実、教師陣はおろか那美恵からもその辺りの説明をまだ受けていないので、なにそれおいしいの?という状態である。
その様子を見た那美恵は焦り、教頭の方を向いて教頭に尋ねた。
「あのぉ。教頭先生。まさかとは思いますけど、このこと全く話されていません……か?」
「おぉ。すみません。忘れていました。」
大事だが細かいことなので教頭らが忘れるのも仕方ないかと那美恵はしぶしぶ納得する。しかしこれを話さないことには下手をすると四ツ原先生の気が変わってしまうかもしれない、そう那美恵は危惧し始める。
「四ツ原先生。艦娘部って、普通の学校の部活動とは仕組みが違うんです。先生にももしかすると艦娘になって活動してもらわないといけないかもしれないんです。……ちなみに艦娘って何のことかご存知ですか?」
そう那美恵が説明して尋ねると、阿賀奈はまん丸くなった目を戻して反応した。
「もー!光主さん。先生をなんだと思ってるんですか〜。艦娘くらい先生知ってますよぉ〜。アレでしょ?面白い格好して海を泳ぐ人たちのことでしょ?そういう競技なんでしょ?先生泳げないけど頑張りますよぉ〜。」
フフンどうだ!とばかりにドヤ顔して説明する。が、その内容は海しか共通点がない。ほぼ100%間違っている。
提督と那美恵、そして五月雨はお互い顔を見合わせ、ダメだこりゃと目尻をおさえたり、こめかみを掻いたりして呆れてしまった。
作品名:同調率99%の少女(7) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis