同調率99%の少女(7) - 鎮守府Aの物語
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その数分後、何人か立て続けに見学者が来た。女子生徒一人、男女生徒数人、別の女子生徒数人……というように、初日としては見学者の入りはよかったものの、思うような進展はなかった。展示は興味深そうに見る生徒がほとんどだったが、川内の艤装を試すというところまで興味を発展させる生徒はいなかった。
人足が途絶え、時間も5時過ぎになった。校内の活動および部屋の使用は終わる頃である。那美恵たちは立ちっぱなしだったのでひとまず座り、一息つくことにした。
「ま、初日でこんだけ人が入ればいいほうかなぁ。興味は持ってもらえなかったようだけど。」
「皆やっぱり他人ごとってことなんでしょうね。」
那美恵と三千花は素直な感想を吐き出す。そして那美恵は提督の方を向き、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べた。
「ゴメンね提督。せっかくこんな時間まで居てもらったのに、あまり良い活躍させてあげられなかったよ。」
「いや、気にしなくていいよ。ここでの主役はあくまでも君たちだからね。」
「でも普段のお仕事よろしかったんですか……?」
三千花が心配を口に出し、那美恵もそれに頷いて二人で提督を見上げる。
「あぁー。まぁ、俺の本業のことは気にしないでいいって。今日は鎮守府業務に集中するために時間取ってるからさ。それに十数年ぶりに他校とはいえ高校入って色々見られて感謝したいくらいだよ。」
「わたしが案内してあげたんだよ!提督さんに喜んでもらえてなによりで〜す!」
自分の存在をアピールすべく、阿賀奈が提督と那美恵の間に割りこむように顔を出してきて言った。それに関して提督は普通に感謝を述べて阿賀奈を喜ばせ彼女の自尊心を満足させた。
那美恵の想定では、もう少し人が継続的に集まったところで提督に言葉を述べてもらい、その流れで川内の艤装を試したい人の挙手を確認し、体験会に切り替えて皆でワイワイ楽しみながら艦娘という存在に触れてもらいたかったのである。
部員勧誘といっても、川内の艤装で同調のチェックをしてもらうところまでいかないと意味が無い。だが自身もつぶやいたとおり、あくまでも初日だ。那美恵たちは教師陣を通してパンフレットを配り展示の案内をしただけで、さすがに全校生徒にいきなり気づいてもらえると思うほど彼女は楽観視していない。
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これ以上見学者が来るのを望めないとふんだ那美恵は、全員に号令をかけた。
「よし、みんな。今日は展示終了しよ。おーい三戸くーん!わこちゃーん戻ってきていいよ〜」
那美恵は廊下にいた三戸と和子を視聴覚室の中に呼び戻し、言葉を続けた。
「今日はお疲れ様。初日は**人でした。まーこんなもんでしょ。」
続けて三千花が音頭を取る。
「明日からまた張り切っていきましょう!」
「「はい。」」
三戸・和子は威勢よく返事をした。
「うんうん。青春だね〜先生も張り切っちゃうよ〜」
よい雰囲気で終わりたかったが、阿賀奈の意気込みを聞いた瞬間、全員が先延ばしにしたかった問題を思い出す羽目になった。顔を見合わせる那美恵と三千花。三戸と和子は四ツ原先生と関わりたくないのか、すでにすべてを我らが生徒会長に一任したい気持ちになって那美恵を見つめる。
3人の視線を受けて、那美恵は阿賀奈に告げる。
「四ツ原先生、この後少しお時間よろしいですか?」
「うん?なぁに?」
「今日の展示は一旦終わりで、あたしも帰るまで時間あるので、先生に艦娘のことについてもう少しだけご教授させていだたければな〜っと。いかがですか?」
阿賀奈は巨乳の前でやや苦しそうに腕をくんで少し考えた後ハッ!とした顔になり、那美恵に返事をした。
「ゴメンね〜。せっかくの光主さんのお願いなのに、先生この後国語担当の先生と打合せあるのすっかり忘れてて。だから今日は無理。ほんっとゴメンねぇ。」
性格に難ありでも、そういえばれっきとした教師だったんだと、那美恵や三千花らはそういう感想を持った。甚だ失礼な感想ではあるのだが、口に出していうわけでもないのでオッケィだろうという前置きも含めて。
「それじゃあ先生。この資料と前に作った報告書のコピーお渡しします。お時間のあるときでよいのでそれを読んでおいていただけると助かります。それからこれは、前に鎮守府で撮影した動画ファイルのURLです。○○ Driveっていうオンラインストレージサービスにあるので、これも目にしておいていただけますか?」
「うん!わかったわ!これってアレね?先生への宿題ってことよね?」
「え?あーえぇ〜まぁ。そんな感じですけど、気軽に捉えてもらえればOKです〜」
「いいのいいの!生徒から宿題出されるのも、きっと先生を頼ってのことなんだから、先生頑張っちゃうわ!」
「宜しくお願いします。」
顧問の阿賀奈への教育は、ひとまず自習という形で収めることになった。そういうことならばと提督は職業艦娘についての案内資料を阿賀奈に手渡し、これも目を通しておいてくれとお願いをした。
那美恵と提督から課題を渡された阿賀奈は、歳の近い(7〜8歳上だが)男性にも、生徒にも頼り(という名の調教)にされていることに、心の中で一人沸き立っていた。その様子はもろに表面に表れていたが、那美恵たちは先生の名誉のためにも無視しておいた。
時間も時間なのでそれで7人はお開きとした。阿賀奈は職員室へ戻っていき、提督と五月雨は帰ろうとする。
「そぉだ!提督!せっかくだし、一緒に帰ろ?みっちゃんたちもさ。どぉ?」
「俺は構わないよ。五月雨は?」
「はい。電車も途中まで同じでしょうし。」
提督と五月雨は快く承諾する。
「お二人が良いというんでしたら私も。というか私は那美恵と帰り道ほとんど一緒だしね。」
という三千花とは逆に、書記の二人は申し訳なさそうに那美恵に断りの意を伝える。
「すんません。俺、別の友だちと帰る約束してるんで。展示片付けたらすぐに出ちまいます。」
「私は図書館寄りたいので、今日は失礼させていただきます。」
「そっか。うん。おっけーおっけー。」
そして視聴覚室の片付けを始める6人。展示を生徒会室に戻すためだ。
「よし。俺も手伝うよ。どれ運べばいいかな?」
「私も、頑張っちゃいますから!」
「そんな!西脇さんたちはお客様なんですからいいですよ!」
三千花が当たり前の対応をするが、那美恵の二人に対する扱いは違う。
「よ〜っし。じゃー提督にはガンガン働いてもらおっかな?五月雨ちゃんはいいんだよ〜。あたしの側にいてくれるだけで癒されるから〜」
真逆の対応を見せ、どのみち働かせる気マンマンな那美恵であった。
作品名:同調率99%の少女(7) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis