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同調率99%の少女(7) - 鎮守府Aの物語

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 沈黙が続いた。歳が離れてるがゆえ、提督が那美恵と話すには共通しているもの、つまり鎮守府や艦娘に関することでしか話題を保つことが出来ない。いい歳した大人が未成年である女子高生と静かな空間でいるのは少々気まずいと提督は感じていた。なんとか話題をひねり出そうとする。
 提督はふと、那美恵から以前お願いされていた、艤装について思い出したので彼女に伝えた。

「そうだ、那珂。神通の艤装のことなんだけどさ。」
 那美恵はピョンと効果音がするかのように飛び跳ねて提督に近寄った。
「うんうん!神通の艤装がなぁに!?」
 いきなり肩と肩が触れるくらいおもいっきり近くに寄られて提督はビクンとたじろいだが、すぐに平静になって言葉の続きを言う。
「そろそろうちに届く頃なんだけど、少し遅れるみたいなんだ。もしかしたらその後の長良と名取と一緒になるかもしれないんだ。もうちょっとだけ待ってくれるか?」
「なぁんだ。そんなこと? うん。別にいいよ。だったらその後の長良と名取の艤装も一緒にぃ〜」
「それはダメ。約束は約束です。……いいな?」
 那美恵は後頭部をポリポリと掻いてペロッと舌を出しておどけてみせた。

 そして二人は片付けの続きを再開する。会話のネタがなくなったのでなんとはなしに手をぶらぶらさせて立ち位置をゆっくり先ほどの位置に戻していく。


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 再び続く沈黙。季節は初夏に近づいており、窓を開けていないと部屋はわずかに蒸し暑く感じてしまう時期であった。視聴覚室の窓のうち半数は開いており、開けていた窓から扉へと風が通過して、涼しさとともに那美恵の髪を軽くなびかせる。


 風下にいた提督の鼻を、那美恵の髪のほのかな匂いがかすめ撫でる。新陳代謝激しい10代の少しの汗臭さと、それ以上に感じる不思議な香り。それは決して自分自身ではわからない、その人の生活によってついた香りだ。

 提督は決して口には出さなかったが、その彼女の匂いは決して嫌ではないと感じた。まじまじと嗅ぐなんて変態的なことは絶対にしないが、五月雨たちとも違う香り。那美恵の普段の軽い性格、時折見せる根の真面目さと強さ、すべてが五月雨たち中学生よりも年上の、成長した少女の証というもの、そういう印象を受ける香り。大人びた・大人であろうとする匂い。嫌な匂いなどとんでもない評価を下せない、好ましくグッとくる匂いだった。

 那美恵よりはるかに年上である提督だが、そんな自分をやり込めることもある光主那美恵。提督も男だ。決して下心がないわけではない。女性経験が多いわけではないがそれなりにある。那珂となったこの光主那美恵という少女は提督にとって決してものすごくタイプというわけではなかったが、この2〜3ヶ月、影響を受け続ければ捉え方も変わるものである。本人は絶対にやらないと言っているが秘書艦として側に居て欲しい気もするし、バリバリ現場に出撃や他の鎮守府へ支援に行って大活躍してほしい気もすると提督の頭の中で案がせめぎ合うこともある。

 ともあれこの場では提督は年甲斐もなく、この少女と二人っきりの時間をあとすこしだけ続けて、青春したいぜとロマンチックなことを考えていた。


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 那美恵は提督の視線に気づいていた。ジロジロというわけではなく、多分自分を気にかけて視線を時折チラチラとさせていたのだろうと把握していた。鎮守府でないところ、自分の学校といういわばホームグラウンドで、本来いることはありえない人との二人っきりの空間。

 提督は自分のことをどう思っているんだろうとふと那美恵は疑問に思った。
 自分は学生で、提督は大人だ。彼はきっと女性経験もあるだろう。自分は艦娘の一人、よくて知り合い、妹扱いどまり。彼にはきっとこの先も多くの艦娘との出会いが待っていることだろう。普通にプライベートで付き合ってる人がいるかもしれない。
 自分は、おそらく提督を色んな意味で気にし始めている、それは紛れもない正直な気持ちだと気づいている。それを表に出すのはさすがに恥ずかしいけれど。少し頼りないところのあるこの大人の男性を助けてあげたいという思いやる気持ちがまずは強い。ただそれが世間一般でいうところの恋愛につながるかは正直わからない。相手の思いが聞けたら自分の気持ちもハッキリするのだろうか。彼、提督の気持ちが知りたい。
 アイドルの夢を以前教えた。冗談を加えてはみたが、きっと提督はなんらかの形で本当に自分を支えてくれるだろう。真面目で律儀な彼を見ていればそう確信できる。彼を支えた分だけ見返りとして支えてもらえるのか、それともお互い同時に支え合っていった上でその高みにたどり着けるのか。どういう関係に至れるのかは想像つかない。
 そういえば全然関係ないけれど、おばあちゃんがおじいちゃんは小学校時代の同級生で、頼りないところもあるけれどいざというときはできる男でしっかりしてたって言ってたな。提督みたいな人かな?
 頭の中がモヤモヤしはじめた。今はただ、あの鎮守府の力を付けるのを手伝うだけにしよう。自分の余計な悩みで艦娘としての本業をおざなりにしたくはない。自分の手で、提督を実力ある鎮守府のトップに仕立て上げて、仲間を集めて、深海凄艦と戦って勝利して世界を救う。その過程で艦娘アイドル、あの鎮守府の別の顔として存在感をアピールできればいい。まずは仲間を集めなければ。さんざん提督にお願いし、こうして学校と提携してもらったのだから。

 那美恵の思いは自身の提督への思いから、これからの展開に切り替わっていた。

 これから先の部員募集、それは艦娘部としてやるべきかもと考え始めていた。ここまでは生徒会という力を利用して事をなしてきたが、提携も成り、顧問も(問題はありそうだが)決まり、あとは部員を集めるだけ。どう考えてもこれ以上は生徒会のメンバーにやってもらうべきことではない。自分一人での力ではここまで進めることはきっとできなかっただろうから、それは親友の三千花、書記の三戸、和子に対して感謝に絶えない気持ちで満ちている。
 けどこれ以上彼女らの協力を受け続け、新部と生徒会を混同して私物のように扱っていると思われたくない。そうなってしまうと、三千花らにも迷惑をかけ、生徒会本来の仕事に支障が出かねない。
 那美恵は熟考をそこで締めくくった。

 那美恵は、そろそろ生徒会長である自分と、艦娘部創立メンバーである自分を分けて活動すべきと感じ、それを言い出すタイミングを気にし始めていた。