テニスの王子様 10年後の王子様 不動峰の場合
「橘さん・・あいかわらず無駄に凝った料理作るんすねえ」
と、神尾は橘が台所から運んできた料理を見るなりげんなりした感じで言葉を発する。
横に座っていた桜井も「すでに和食か何かもわからなくなってる・・」とうめく。
「そうか?見た目は豪華だが味はそう複雑にはしなかったんだぞ。杏の意見も取り入れてみてな・・」
橘の口から彼の妹の名前が出たとたん、それまで握った箸を動かそうともしなかった神尾の手からぽろりと箸が落ちた。
「こ、これ!杏ちゃんが作ったんすか・・た、食べるっす!は、箸はどこっすか?なんで俺の箸だけないんだあ!」
「お前の箸は、さっきお前が落としたぞ・・」
と橘が呆れて言うのもかまわず神尾は「深司!お前のを寄こせ!」と伊武から箸をもぎとり、うおおおっとばかりにもの凄い勢いで料理をかきこんでいく。
「お前なあ、早食い大会とかじゃないんだから食うのにスピードは必要ないと思うぞ」と石田が言えば、橘も「この料理は繊細な味付けがウリなんだぞ、それなのに・・」と嘆く。
「なんだよ、誰も俺の箸が取られたことをツッコんでくれないのかよ。・・ま、いいけどね。いまいち食欲もわかなかったし・・」とぼやく伊武を尻目に神尾は尚もハイテンションで叫ぶ。
「うおおおおっ!完食してやったぜえ。さすがに杏ちゃんの料理はうめえや。で、橘さん。杏ちゃんはどこにいるんです?」
と、神尾が言うのを聞いて他の6人が「えっ?」と言う顔をする。橘家に着いてやがて1時間。彼女が不在なことにまだ気づいてなかったのかと、橘は苦笑する。
「杏は今はいないぞ。下ごしらえだけ手伝ってくれた後に、休日出勤だとか言って出て行った。」
「え?マジですかあ!?・・じゃあ俺が食ったこの料理は・・」
橘が満面の笑みで答える。「ああ、俺の手作りだ」「そ、そんな・・ガックリ」
「なんだ、その態度は。俺の作った料理じゃ不満なのか?その割には美味いと言ってたじゃないか」と橘に睨まれ神尾は慌てて両手を横に振る。
「ち、違いますよ橘さん。俺はただ、杏ちゃんが作ったものかと・・。って杏ちゃん休日出勤だなんて昨日会ったときは言ってなかったのに・・・。ほんとは誰かと会ってるんじゃ・・」
それを聞いて橘が顔色を変える「なっ!杏にそんな相手がいるっていうのか!ど、どこのどいつだ!言え、神尾!」
「い、いや橘さん。俺はもしかしたら・・と。だいたい、そんな相手がいたら俺が困る・・」
「お前が困る必要はないだろ。俺は兄として杏の幸せを見届ける義務があるんだ」
「なあ、その前に前日に神尾と会ってたってのは問題にしないのか、橘さんは」
「10年たっても神尾が杏ちゃんを好きだってことに気づいてないのかな」
「しょっちゅう会ってんだろ、あの二人。だから橘さんも公認かと思ってたよ」
「まだ恋人ってわけじゃないみたいだな、どうやら。でも・・」
伊武がぼそりと言う
「乗り越えるべき山があれじゃあ無理なんじゃないかな」
と、神尾を睨む橘を指差す。(並大抵の努力じゃ本人たちの想いはあの人まで届きそうにないな・・)と皆が思った、その時。
「ただいま!あ、みんな集まっているのね。」杏が帰ってきた。
(よ、よかった・・のか?)と伊武たちは橘と神尾の様子をうかがう。
「あ、杏ちゃん?よ、よかった。俺、心配して・・」
「杏!仕事に行くとか言って本当は誰と会ってたんだ!」
「な、なによ。お兄ちゃんも神尾くんも。心配とかって何?って、お兄ちゃんには仕事は午前中で終わるからって言っていったじゃない。何を変な勘違いしてんのよ・・・」
「昨日はそんなこと言ってなかったじゃないか、杏ちゃん。俺は杏ちゃんに会えると思って今日は・・」
「ごめんね、昨日の夜になってから同期の男の子から電話があって手伝ってほしいって言われて・・」
「男からの呼び出しだって(だと)!」と橘と神尾が同時に叫ぶ。(杏ちゃんはそんな風に言ってないだろ・・)と雲行きの怪しさを心配する伊武たち。そして・・
「やっぱりお前、男と会っていたのか!どんなやつだ!」
「な、なんで杏ちゃんは俺よりそんなヤツを選ぶんだよ!俺の方が付き合いが長いじゃないか!」
「は?だから下ごしらえは手伝ったし、みんながいる間には帰ってくるつもりだったし・・。てか、女子高じゃないんだから会社に男性がいるのは普通でしょ?それに私の同期って男性の方が多い・・」
それを聞いて二人はがしっと杏の肩を掴む「い、痛いわよ二人とも」
「お前の勤め先はそんなところなのか!だから俺と同じとこに勤めろとあれほど。今からでも遅くはないから転職しろ!」
「俺の勤め先のCDショップでバイト募集しているんだ。そんな会社やめて俺のところへ就職しなよ!」
「え?か、神尾くん・・」と杏がさっと顔を赤くするのを見て、橘は慌てる。
「なんだ?その男に風邪でもうつされたのか。そんなに接近してたのか!」
「なっ・・や、野郎!俺の杏ちゃんになんてことを・・。許せねえ!」
「ちょっと!落ちついてよ、二人とも。私は別に風邪なんて・・」
「いいからお前は部屋で寝てろ!なんなら俺が抱っこして運んでやる」
「や、やめてよ!みんなが見てるのに恥ずかしいでしょ!」
「今から杏ちゃんの会社に乗り込んで・・」
「もういないわよ、彼は。手伝ってくれたお礼にお昼を一緒にって言われたけど、みんなが待ってるからお茶だけご馳走になって。だから帰りが遅くなっちゃったんだけど」
「野郎!やっぱ下心アリなんじゃねえか。ああもう!杏ちゃんは俺んとこに来いよ。じゃないと安心できねえ」
「だって私、ちゃんと正社員でいたいし。それに・・」
杏が言いよどむ姿にも気づかず、神尾は叫ぶ。
「俺んとこに就職してくれ!」
「なあ、神尾は自覚無しで叫んでるみたいだけど、あれって捉えようによっちゃあプロポーズ・・だよな」
「ああ、そうだな。少なくとも杏ちゃんは意識してるみたいだけど・・」
尚も続く3人の言い合いを見ながらみんなはため息をつく。11年前、熊本からやってきたこの兄妹が変えた自分たちの人生。翌年には全国大会にも出ることができた。かけがえのない青春時代を送りその絆は今でも続いている。社会人となっても変わらないままだった7人と1人の女性の関係。
(でも、いつまでもそのままではいられないのが大人・・)というのは誰しもが感じ始めていた。
「私の仕事のことより、問題はお兄ちゃんの方でしょ!手塚さんでさえ結婚したってのに、お兄ちゃんにはいまだに恋人もいないなんて・・」
「俺はお前の幸せを見届けてから自分のことを決めるんだ。」
(橘さんだけは相変わらずだな・・って・・え!)
「て、手塚さんが結婚!?あの人が?ほ、本当?杏ちゃん」
「うん、桃城くんがそう言ってたよ。半年くらい前のことだって。相手はドイツの人で子供もいるって桃城くんが言ってたわ」
「え?半年前に外人と結婚?んで子供もいるって・・な、なんか手塚さんも変わったんだな。・・って、そんなこといつの間に桃城から聞いたんだよ。俺は知らないぞ?」
「んーだって、その時は神尾くんいなかったから・・」
と、神尾は橘が台所から運んできた料理を見るなりげんなりした感じで言葉を発する。
横に座っていた桜井も「すでに和食か何かもわからなくなってる・・」とうめく。
「そうか?見た目は豪華だが味はそう複雑にはしなかったんだぞ。杏の意見も取り入れてみてな・・」
橘の口から彼の妹の名前が出たとたん、それまで握った箸を動かそうともしなかった神尾の手からぽろりと箸が落ちた。
「こ、これ!杏ちゃんが作ったんすか・・た、食べるっす!は、箸はどこっすか?なんで俺の箸だけないんだあ!」
「お前の箸は、さっきお前が落としたぞ・・」
と橘が呆れて言うのもかまわず神尾は「深司!お前のを寄こせ!」と伊武から箸をもぎとり、うおおおっとばかりにもの凄い勢いで料理をかきこんでいく。
「お前なあ、早食い大会とかじゃないんだから食うのにスピードは必要ないと思うぞ」と石田が言えば、橘も「この料理は繊細な味付けがウリなんだぞ、それなのに・・」と嘆く。
「なんだよ、誰も俺の箸が取られたことをツッコんでくれないのかよ。・・ま、いいけどね。いまいち食欲もわかなかったし・・」とぼやく伊武を尻目に神尾は尚もハイテンションで叫ぶ。
「うおおおおっ!完食してやったぜえ。さすがに杏ちゃんの料理はうめえや。で、橘さん。杏ちゃんはどこにいるんです?」
と、神尾が言うのを聞いて他の6人が「えっ?」と言う顔をする。橘家に着いてやがて1時間。彼女が不在なことにまだ気づいてなかったのかと、橘は苦笑する。
「杏は今はいないぞ。下ごしらえだけ手伝ってくれた後に、休日出勤だとか言って出て行った。」
「え?マジですかあ!?・・じゃあ俺が食ったこの料理は・・」
橘が満面の笑みで答える。「ああ、俺の手作りだ」「そ、そんな・・ガックリ」
「なんだ、その態度は。俺の作った料理じゃ不満なのか?その割には美味いと言ってたじゃないか」と橘に睨まれ神尾は慌てて両手を横に振る。
「ち、違いますよ橘さん。俺はただ、杏ちゃんが作ったものかと・・。って杏ちゃん休日出勤だなんて昨日会ったときは言ってなかったのに・・・。ほんとは誰かと会ってるんじゃ・・」
それを聞いて橘が顔色を変える「なっ!杏にそんな相手がいるっていうのか!ど、どこのどいつだ!言え、神尾!」
「い、いや橘さん。俺はもしかしたら・・と。だいたい、そんな相手がいたら俺が困る・・」
「お前が困る必要はないだろ。俺は兄として杏の幸せを見届ける義務があるんだ」
「なあ、その前に前日に神尾と会ってたってのは問題にしないのか、橘さんは」
「10年たっても神尾が杏ちゃんを好きだってことに気づいてないのかな」
「しょっちゅう会ってんだろ、あの二人。だから橘さんも公認かと思ってたよ」
「まだ恋人ってわけじゃないみたいだな、どうやら。でも・・」
伊武がぼそりと言う
「乗り越えるべき山があれじゃあ無理なんじゃないかな」
と、神尾を睨む橘を指差す。(並大抵の努力じゃ本人たちの想いはあの人まで届きそうにないな・・)と皆が思った、その時。
「ただいま!あ、みんな集まっているのね。」杏が帰ってきた。
(よ、よかった・・のか?)と伊武たちは橘と神尾の様子をうかがう。
「あ、杏ちゃん?よ、よかった。俺、心配して・・」
「杏!仕事に行くとか言って本当は誰と会ってたんだ!」
「な、なによ。お兄ちゃんも神尾くんも。心配とかって何?って、お兄ちゃんには仕事は午前中で終わるからって言っていったじゃない。何を変な勘違いしてんのよ・・・」
「昨日はそんなこと言ってなかったじゃないか、杏ちゃん。俺は杏ちゃんに会えると思って今日は・・」
「ごめんね、昨日の夜になってから同期の男の子から電話があって手伝ってほしいって言われて・・」
「男からの呼び出しだって(だと)!」と橘と神尾が同時に叫ぶ。(杏ちゃんはそんな風に言ってないだろ・・)と雲行きの怪しさを心配する伊武たち。そして・・
「やっぱりお前、男と会っていたのか!どんなやつだ!」
「な、なんで杏ちゃんは俺よりそんなヤツを選ぶんだよ!俺の方が付き合いが長いじゃないか!」
「は?だから下ごしらえは手伝ったし、みんながいる間には帰ってくるつもりだったし・・。てか、女子高じゃないんだから会社に男性がいるのは普通でしょ?それに私の同期って男性の方が多い・・」
それを聞いて二人はがしっと杏の肩を掴む「い、痛いわよ二人とも」
「お前の勤め先はそんなところなのか!だから俺と同じとこに勤めろとあれほど。今からでも遅くはないから転職しろ!」
「俺の勤め先のCDショップでバイト募集しているんだ。そんな会社やめて俺のところへ就職しなよ!」
「え?か、神尾くん・・」と杏がさっと顔を赤くするのを見て、橘は慌てる。
「なんだ?その男に風邪でもうつされたのか。そんなに接近してたのか!」
「なっ・・や、野郎!俺の杏ちゃんになんてことを・・。許せねえ!」
「ちょっと!落ちついてよ、二人とも。私は別に風邪なんて・・」
「いいからお前は部屋で寝てろ!なんなら俺が抱っこして運んでやる」
「や、やめてよ!みんなが見てるのに恥ずかしいでしょ!」
「今から杏ちゃんの会社に乗り込んで・・」
「もういないわよ、彼は。手伝ってくれたお礼にお昼を一緒にって言われたけど、みんなが待ってるからお茶だけご馳走になって。だから帰りが遅くなっちゃったんだけど」
「野郎!やっぱ下心アリなんじゃねえか。ああもう!杏ちゃんは俺んとこに来いよ。じゃないと安心できねえ」
「だって私、ちゃんと正社員でいたいし。それに・・」
杏が言いよどむ姿にも気づかず、神尾は叫ぶ。
「俺んとこに就職してくれ!」
「なあ、神尾は自覚無しで叫んでるみたいだけど、あれって捉えようによっちゃあプロポーズ・・だよな」
「ああ、そうだな。少なくとも杏ちゃんは意識してるみたいだけど・・」
尚も続く3人の言い合いを見ながらみんなはため息をつく。11年前、熊本からやってきたこの兄妹が変えた自分たちの人生。翌年には全国大会にも出ることができた。かけがえのない青春時代を送りその絆は今でも続いている。社会人となっても変わらないままだった7人と1人の女性の関係。
(でも、いつまでもそのままではいられないのが大人・・)というのは誰しもが感じ始めていた。
「私の仕事のことより、問題はお兄ちゃんの方でしょ!手塚さんでさえ結婚したってのに、お兄ちゃんにはいまだに恋人もいないなんて・・」
「俺はお前の幸せを見届けてから自分のことを決めるんだ。」
(橘さんだけは相変わらずだな・・って・・え!)
「て、手塚さんが結婚!?あの人が?ほ、本当?杏ちゃん」
「うん、桃城くんがそう言ってたよ。半年くらい前のことだって。相手はドイツの人で子供もいるって桃城くんが言ってたわ」
「え?半年前に外人と結婚?んで子供もいるって・・な、なんか手塚さんも変わったんだな。・・って、そんなこといつの間に桃城から聞いたんだよ。俺は知らないぞ?」
「んーだって、その時は神尾くんいなかったから・・」
作品名:テニスの王子様 10年後の王子様 不動峰の場合 作家名:ゆにっち