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テニスの王子様 10年後の王子様 不動峰の場合

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え?と神尾は妙な胸騒ぎを覚える。つまり・・

「杏ちゃん、一人で桃城のテニスクラブに行ったの?俺に内緒で・・」

「違うわ。たまたま街の中で会ったの。で、お茶しながら・・」

「桃城の野郎!杏ちゃんを待ち伏せしてやがったな!もうアイツのテニスクラブなんか行ってやるものか!」

「ち、違うわよ。ほんとにたまたまで・・。ていうかそんな偶然てあるでしょ。伊武くんとだってよく出会うし、この間は・・跡部さんにも会ったな」

「・・深司てめえ!」「わ、とばっちり・・」

「とにかく・・みんな久しぶりに会ったんだから、これから打ちにいかない?」

「いいけど・・桃城のとこになんか行かねえからな」

「今日は桃城くんはお休みよ。ま、とりあえずストリートテニス場にいきましょ」

「なんで杏ちゃんがアイツの予定知ってんだよ!」

「うーん、久しぶりにここに来たけどちょっと広くなった以外はあまり変わらないな」

 ストリートテニス場は日曜の割には空いていた。「じゃあダブルスで2面使いましょ。私と組むのは・・」

「神尾でいいんじゃねえのか。んで、相手は俺と不二先輩ってことで。・・いいっすよね、不二先輩。」

「桃がそれでいいなら、俺はかまわないよ。ああ、橘・・・久しぶりだね」

突然現れた二人にびっくりする神尾たち。「なっ!桃城・・なんでここに。・・もしかして杏ちゃん知っていたのか」

「ち、違うわ。ほんとに偶然・・。な、なんでこんなとこに二人がいるの?」

「ふふ、僕が桃を誘ったんだよ。だからここで君たちに出会ったのは本当に偶然だよ。まさかこんな団体に会うなんて思わなかったなあ。なんの集まりだい?」

「俺の家で手料理をふるまっていたんだ、こいつらに。あ、手塚が結婚したそうだな。驚いたよ、ほんと。」

「・・うん。彼は守るべき家族を得てもっと強くなったよ」

橘がうなづく。「そういうことだな。テレビや新聞で見たよ。手塚のウィンブルドン優勝。やっぱり凄いやつだな、あいつは」

「橘もいつまでも妹さんの側にいないで、自分の相手を見つけたらどうだい?」と神尾、杏、桃城の3人を見ながら不二は微笑む。「君の妹を守ってくれるナイトはちゃんといるんだから、ね」

「は?どういう意味だ?」ときょとんとした顔で聞き返す橘を見て、不二は苦笑する(桃の敵は神尾だけじゃないってことか。でも・・・)

 神尾と杏と桃城。中学の時からの3人の関係は確かに桃城の言うとおり、今こうやって見ていても変わらないように見える。が、二人を見ている桃城の目は心なしか優しげだ。(桃、きみも心を決めたのかい?)

「じゃ、始めましょうよ。橘さん、審判をお願いしますよ」


「はあはあ。ふ、不二さんは相変わらず容赦ないんですねえ・・。杏ちゃん、大丈夫?」

1セットマッチの試合は桃城・不二ペアの圧勝だった。「だらしがねえな、神尾は。杏のほうが平気に見えるぜ」と桃城が笑う。「な!だから杏ちゃんを呼び捨てにするのは止せって何度も・・」

「・・いいじゃねえか、長い付き合いの友達なんだからよ。今さら、さん付けっても変じゃねえかよ」

「な、ならせめて俺みたく『杏ちゃん』て・・」

「神尾と一緒ってのが嫌なんだよ。・・いつまでも中学のころを引きずるつもりもないしな」

「は?何を言って・・」


「いい加減、自分の気持ちをはっきりさせろってことだよ!俺たちはもう大人だろうが!」

静かなテニスコートに桃城の声が響き渡った。「も、桃城く・・ん?」

「な、桃城・・どうしたんだ?」と橘が驚く。その橘に不二が「まあまあ、ここは3人で話し合わせてくれないか?僕からのお願いだ・・頼むよ、橘」

「・・よくわからないのだが?まあ、お前がそこまで言うなら・・。神尾!、杏を頼んだぞ」

「ありがとう橘。そうだ、きみたちにも手塚の写真を見せるよ、行こう」

「あ・・不二先輩・・ありがとうございます、ほんとうに・・」と桃城は頭を垂れる。その桃城に手を振って不二は他の面々を伴ってテニスコートから消えていった。


「・・どういうことなんだよ、桃城。俺たちに何を言いたいんだ」

みなの姿が見えなくなってから、神尾は桃城に聞く。「あ、あの・・二人で話しがあるんなら私・・向こうへ行って・・」

「杏は神尾のそばで俺の話を聞いてろ。たぶん、そんなに長くはかからないから」「え?」

杏ちゃんはこっちに来てろ・・と神尾にも言われ、杏は神尾に寄り添う。その姿を見て桃城はちょっとくすぐったいような気持ちになった。自然に顔がほころぶ。(うん、いいカップルだよな、やっぱ。なんで橘さんは気づかないんだろうな。10年も側で見てたはずなのに)俺はわかってたぜ、神尾。と、少し誇らしげな表情になる。二人の背中を押せる人間は自分しかいない・・別に今日の出会いを予期していたわけでもないけど、とっくに心は決まっていたから。

 晴れやかな気持ちで二人を送り出せる。そう桃城は確信していた。

「なんだよ、さっきからニタニタしやがって。だいたい、なんで今日お前が休みなのを杏ちゃんが知ってんだよ!」

と、神尾が怒鳴りながら掴みかかりそうになるのを杏が必死に止める。

「だから、それは・・」

「俺が落としたシフト表を彼女が届けてくれたんだよ。・・ただそんだけだよ。安心したか、神尾」

「なっ!お、俺は別に・・」と神尾は真っ赤になりながら「で、でもお茶したって・・」

「ああ、それは別の時の話じゃねえか?俺だって彼女だって街をぶらつくときもあるし、顔見知りならお茶したって不自然じゃないだろ?それが嫌だっていうならお前がずっと側にいてやればいいじゃねえか」

「はああ?んなことできるわけないだろ、俺だって杏ちゃんだって仕事がある・・」

「だからプライベートの時間を共有しろってことだよ。俺たちは大人なんだ、もう。自分たちで考えて行動ができる。中学のあの頃のように理不尽な規制に苦しむことも、頭から抑えられることもない」(・・橘さんの問題はあるけどな)

「だから、そんなこととプライベート云々の話はどういうつながりが・・」

「・・つまり、お前たち二人がくっついても誰も文句は言えないってことだよ」

「はあ!?んなことは別に・・」と言いながら神尾は杏を見つめてしまう。そんな神尾にニッコリと微笑みながら杏は桃城に目で問う。それがあなたの気持ちなのか、と。晴れ晴れとした表情になりながら。

 そんな杏を見て自分の選択は間違っていなかったと、桃城は思った。これが最良だったのだと。

「はっきり言っちまえよ、自分の気持ちをよ。・・俺が見届けてやっからよ。」

「そ、そんなことまでお前に・・ 余計なお世話だ!」

「じゃ、これで話しは決まりだな。お邪魔虫は消えますよーと」テニスコートを出て行こうとする桃城に杏が声をかける。

「桃城くん、その・・ありがとう!10年間ありがとう!わたし・・」最後は涙で声にならなかった。

桃城は振り向くこともなく黙って手を振る(・・俺のほうこそありがとうな。この10年間、いろいろと楽しかったぜ)


「あ、杏ちゃん・・俺・・え、えーっと、その・・」

「今晩、家で夕食食べていかない?」