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テニスの王子様 10年後の王子様  木手永四郎

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「沖縄までまた2時間の空の旅・・ですね。まあ貴女は少し寝ていてもかまいませんが・・と」ふっ、既に眠りについていましたか・・。と木手は苦笑する。横の席の彼女はどうやら熟睡モードのよう。(まだ飛行機が飛ぶ前だというのにね。ま、だいぶ緊張していたからでしょうが・・)

 東京で二泊三日。彼女にとっては15年ぶりの帰郷。もっと何度もつれていく機会はあったのだけれど「・・まだその時ではない気がするの」という彼女の言葉になんとなく行きそびれていた。もっとも、その裏には彼女の母親の反対もあったわけで。彼女もそんな母親の干渉にただ従っているように見えたのだけれど(きたるべきときが、きた。というわけでしょうかね。彼女ら親子も、そして俺も・・変わるべきときが)

 15年前から何度もそばで見てきた彼女の寝顔が、なんだか今は違うものに見える。(10歳と25歳でまあ見えるものも違って当たり前ですが)おそらく、愛おしさという感覚もあの頃とは意味合いが違っているのでしょうがね、とも思う。可愛い、とは当時も思っていた。・・そう自覚するまでは少し時間もかかったが。でもこの子は自分よりずいぶん弱い存在なのだと悟ってからの想いは一貫している。(宣言しましたからね、彼女の父親に)



「この子を守っていけるのは俺だけだ!」と・・子供の自分が

 


『どうしてあんたは彼女から離れている?』『自分は子供を手離した存在だから、いまさら彼女の前に現れることはできないし母親も反対してるから?』『でも見守っていたい、思いがいつか届くように・・だと?』

『そんなの大人の勝手な感情だろ!』『あいつは好きであんたから引き離されたわけでも、ここに・・沖縄にきたかったわけでもねえ!』『あいつはずっと泣いてた、ここから出たいと泣いてた』

『あんたは父親である実態を放棄したんだ、離れたくなかったはずの東京も彼女から取り上げた』『俺はそんな彼女を受け止める。子供だからとかそんなの関係ない。俺ならずっと側にいてやれる。沖縄がこいつの住処だ』『あんたも母親も頼りにはしない。こいつは俺がずっと守る!』



(あのころは俺が一番彼女を泣かせていたことを棚に上げて、大人相手によくもまあ生意気なことを)

彼女の両親は、15年前に離婚。その後、彼女の母親は親族や、知人すらいない沖縄で彼女を女手一つで育て上げた。それだけなら聞こえはいいが、実際のところは勝気な母親の誰にも頼りたくないという我儘の表れにすぎないのではないかと木手は思っている。仕事で不在がちな母親に代わって、彼女の面倒をみてくれた人は何人もいたが、そんな人たちにまで母親は必要以上に近寄ろうとはしなかったのだ。ただそれでもみんなは小さい彼女を放り出したりはしなかった。その裏に父親の存在があったということは、ずいぶん後になってから知ったのだが・・・

 ときどき様子をみにきてはこっそりと帰っていく父親に、ある日木手は怒鳴った。子供の彼には彼女に声をかけることもしない父親の行動がとても理不尽に思えたのだ。そして、もう二度とくるなと・・そう言ってしまった。彼女は俺が守ると顔を真っ赤にして言ってのけた木手に、父親は少し悲しそうにでもなんだかホッとしたような笑みを浮かべ、再び現れることはなかった。木手が唯一、彼女に秘密にしている事実がそれだ。

(これを言わなければ、先へは進めないでしょうねえ)

自分にとっては、この旅行が背中を押すきっかけになると思っていたのだが(守っていたのは彼女ではなく、自分の想いではないでしょうかね。子供の浅はかさで彼女から15年も父親を取り上げてしまったってことに・・)それは気にしなくていい、と15年ぶりに会った彼女の父親からは笑顔でそう言われた。感謝している、とも。

(あの言葉には、子供のしたことだから、という意味もふくまれているんでしょうね。まあ、ほんとのいい親父さんだと思いますが)父親だけではなく再婚した奥さんと、彼女の異母兄弟もみんな初めて会ったとは思えないほどに普通に楽しく会話ができた。15年の空白などあっという間に無くなったよ、と彼女も笑顔だった。(違和感を感じたんですよね、家族とそして東京という街に)自分はもちろん東京が初めてではなく、彼女も東京出身。なのに、地に足がついていないような、自分がここに存在していないような不思議な感覚がずっとついてまわっていた。

(彼女の母親が、東京には絶対いかせないと言い張っていたのは、このためでしょうか。もっとも彼女を沖縄につれてこなかったら、東京で普通に暮らせていたはずですがね。・・・俺と会うこともなしに)



『なんで泣いてばっかいるんだよ』『みんながお前のこと可愛がってくれるのにお前がそんなんじゃ、みんなに悪いと思わねえのか』『沖縄がつまんないとかいうなよ!じゃあ東京に帰ればいいだろ』『明日、俺んちこいよ。他の仲間も紹介するから』『な、泳げたら気持ちいだろ。そんで沖縄の海って綺麗だろ。東京なんかよりずっと』『台風が怖いんでしたら、俺の後ろに隠れていなさいよ。安心できるでしょう』『貴女はここでずっと笑っていればいいんですよ、ここが貴女の・・』



機内アナウンスがあり、飛行機が動き出す。彼女のシートベルトは木手が締めたのだが起きる様子はない。「まあ、旅行の目的は果たしたのですから、寝ててくれてかまわないのですがね。俺のそばで安心してくれるのなら本望というものです。」

「えっ?東京にいきたい?・・まあずいぶんと思いきったことを。貴女のお母さんがまた反対するでしょうに。え?お母さんも招待されてる?それはどういう・・」

 一通の手紙を持って木手の家に相談に訪れた彼女。手紙の差出人は彼女の異母弟だった。15年前別れた彼女の父親が還暦を迎えるのでお祝いをしたい。二人で東京にきてもらいないか、という内容だった。「まあ、なんていうか。あちらのご家族がいい人たちなのは貴女から話を聞いてなんとなく知っていますし、それに・・」手紙には彼女と母親を気遣う文面が書き連なっている。あくまで異母弟である自分の我儘で、でも多分誰にとってもチャンスなのだと思ったから、と。(確か中学生でしたよね、弟さんは。よほど母親がしっかりした人なのでしょうね)実際に主催するのは父親の兄弟なのだが、後で聞いた話によると異母弟が姉たちも呼ぶべきだと強弁に主張したそうだ。

「いい話じゃないですか、行ってくればいいでしょう。・・・お母さんがいきたくないと言ってる?まあ、それはそうでしょうねえ。で、貴女はどうしたいと?・・俺に同行してほしい?俺は赤の他人じゃないですか、いけませんよそんなのは。ありらの家族も了承済み?・・・はあ?」

 そして二人は東京にいくことになった。彼女にとっては15年ぶりの東京。父親の今の家族とはテレビ電話で話したことがあるものの初対面。そして、二人での旅行なんてのも初めて。