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テニスの王子様 10年後の王子様  木手永四郎

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「東京で、貴女と少しだけ別行動したでしょ?ええ、人と会っていたのですよ。古い・・友人でしてね。俺にある写真を渡したいからと言われまして。そうですね、どうして貴女にこれを見せる気になったのか・・」

 それは外国で行われたある結婚式の写真だった。新郎は眼鏡をかけて結婚式だというのに厳しい表情の日本人。新婦は外国人のようだ。「この新郎も俺の古い友人でしてね。中学のころはライバルでした。ドイツでプロテニスプレーヤになり、今年ウインブルドンで優勝しました。まさか、結婚までするとは思いませんでしたけどね。そういうキャラではないですし。それもまさか、年上の未亡人とはね。でも、彼らしいドラマがあったようです。とても情熱的な」

 故人の遺言があって、誰もが祝福しようと思っていた。1人を除いてね。故人の妹さんだけが反対したんだ。兄は独りでこの世を去っていくのに、なんで赤の他人が残された家族を奪っていくの?おかしいじゃない!不公平じゃない!・・寂しいじゃない、私が。私から可愛い姪っこまで奪わないでよ・・

『でもね、その姪が手塚を指差して言ったんだ。父親の死後から二年後のことなんだけどね、「このパパが側にいてくれるから誰も寂しくないんだよ」って』・・故人が病気になったときから娘に言っていた言葉。自分は別の世界からみんなを見守ることになるけど、ちゃんと側で守ってくれるパパもいるからね。パパはその人が大好きだから、想いも二倍になってたくさんの人が寂しい思いをしなくてすむ。パパはあの世からずっと見てるけど、いざという時はもう一人の側にいてくれるパパに頼りなさい。大丈夫、パパと同じくらい君とママを愛してくれる人だから。君が大人になるまでパパの代わりに君を守ってくれる人だから・・・

 

「誰かの想いを叶えるための自分の幸せ。それは誰かが犠牲になるだけのことじゃない。幸せになる可能性を増やすことだって、彼は言ったのですよ。・・俺だってずっと考えていました。貴女が両親の離婚によってこの沖縄にきた意味を。正直なことを言いますよ。15年前・・・」

 そして木手は、子供のころ自分が彼女の父親を追い返したことを告白した。ずっと負い目だった。理由はいろいろあるけど、けっきょくのところは自己満足だったにすぎないのかもと。守りたかったのは自分の「恋心・・だったのかもしれません。子供ながらに貴女に魅かれていた・・」

 驚きの表情を浮かべる彼女に彼は続ける。「貴女が初めて俺の前で笑ったときのことが、ずっと忘れられないのですよ。それまでは俺は貴女を泣かせてばかりだった。でも、貴女の笑顔を見て嬉しいって気持ちになったとき、貴女を悲しませるものは誰も許せないと思った。貴女の両親をひどいと思った。貴女を幸せにできるのは自分だけだと・・。」

 でも違う。父親も母親も、違う形で彼女の成長を見守っていた。気づけなかった自分はなんてガキだったのだろうか。

「大人に文句を言っていい年齢はとうに過ぎました。それはつまり、過去からの卒業も意味していると思うのです。もちろん俺のしたことを正当化するのではなく、貴女に・・自分の意思をもってもらいたい。できればこれからどうしたいのか明確に示してもらいたい・・・」

 しばらく顔をふせていた彼女は、急に立ち上がって海に向かって歩き始めた。そして振り向いた彼女の顔は夕陽に照らされて輝いている。(綺麗・・ですね、やはり)

 だから自然に近づいて、そして抱きしめていた。安心できる抱擁。小さいころ、野良犬から彼女を守るために抱きしめていた時とは違う高揚感。(もう・・無理ですね)



15年・・ですね

貴女がこの沖縄にきてから。

あのころはお互いまだ小学生で

貴女は東京に帰りたいと泣いてばかりだった

俺はそんな貴女の気持ちを理解できない子供で

沖縄を嫌う貴女に苛立ってさらに泣かして・・悪かったですね

でも俺たちは大人になった

貴女をこうして抱きしめて、そして

こうやって貴女に口づけをしても

貴女は拒まない


俺たちは一緒にいるのがしっくりきませんか

そしてもう一歩踏み出しませんか

結婚してくれませんか



                     FIN