こらぼでほすと 散歩5
「あははは・・・そうそう。俺にやっすいプリン作ってくれたりさ。」
ざーっと風が吹いて、眼の前の朱色の花が揺れる。雨も横殴りだ。足元が立っているだけで濡れてくる。これは写真を撮るどころではないと駐車場に戻ることにした。明日少し雨が落ち着いたら、もう一度来ることにして、クルマに乗り込んだ。
「明日には、雨も小降りになるらしいから、それからにしようぜ。とりあえず、必要なものを買出しに行く。」
「わかった。」
夜の必需品が入用なので、そこいらの買出しに行くことにした。コスモスは綺麗だった。寺に戻ったら、そのことだけは、おかんに話そう。朱色の花のことは言わないと刹那は決めた。
夕刻前に、トダカが本宅に顔を出していた。定期検診なので心配はしていないが台風通過なので、様子だけ拝みに来た。
「具合は、どうだい? 娘さん。」
「ちょっと身体が重いですねぇ。気圧が安定しなくて、倦怠感が消えません。」
とはいうものの、ニールは起こしたベッドに座っているので、以前よりは楽な様子だ。リジェネはトダカが来訪したので席を外した。本宅のサーバの様子を確認するとのことだ。
「発熱していないのならいいさ。」
「そうですね。トダカさんに初めて叱られた時は高熱で身体が動かなくて大変だった。」
「ああ、そうだったね。あれからすれば、回復はしてるさ。刹那君は? 戻っていると聞いたんだが? 」
キラからのメール一斉配信で刹那が戻っていると知らされている。それなのに、その黒猫の姿がない。
「新婚旅行に行かせました。ちょうど、ロックオンも顔を出したので。一泊二日の温泉旅行ですが。」
トダカの娘さんは、そう言って大笑いしている。そういや、あそこも新婚ではあったな、と、トダカも笑った。仕事では一緒だろうが、なかなかプライベートでふたりっきりは難しいだろう。それに普段なら、ニールがピンピンしているから一緒に連れて行かれることになって、ふたりっきりにはなれない。
「くくくく・・・・いいことを考えたね? 娘さん。」
「いや、春に俺と旅行に行ったでしょ? その時に、ロックオンとは行かなくていいんだ、とか言いやがったんで強制的に追い出しました。夫夫なんだから、たまにはプライベートで、ゆっくりすりゃいいんですよ。」
「刹那君、そういうことには疎いだろうからね。・・・・いつ帰れそうなんだ? 」
「明日の午後からなら、なんとか。」
「じゃあ迎えに来よう。」
「いや、いいですよ。刹那たちも帰るだろうから。」
「だが、午後早くには戻らないだろ? 」
「でも、買出しもあるんです。ビールの箱なんで荷物持ちが必要です。」
「それなら、うちのを誰か連れてくるさ。非番なのはいるはずだ。早く帰りたいだろ? 娘さん。」
刹那たちを待っていたら、何時になるか解らない。それなら、早めに戻れるようにトダカは手配してくれる。そう言われると、ニールのほうも、「お願いします。」 と、ぺこっと頭を下げた。
「ああ、承ろう。出勤前の亭主と逢いたいだろうからねぇ。」
「逢いたいというか、なんというか・・・・亭主の顔が俺には精神安定剤の効果があるみたいなんで。」
「あれがかい? 顔は整ってはいるが三白眼なのに? 」
「見慣れたら、可愛い顔になるんですよ、トダカさん。」
「私はヤモメだから、そういうのは判らないな。」
「あははは・・・でも、トダカさん、俺は可愛いんでしょ? 傍目にはデカイおっさんの俺が。」
そうツッコミされてトダカも、これは一本とられた、と、大笑いして頷いた。確かに三十路のニールだが、トダカには可愛い子供というイメージだ。身内になると目が腐るものらしい。
「確かに、そういうことだな。でも、娘さんの場合、人気は高いんだよ? ウヅミーズラブのじじいたちが、きみに逢わせろ、と、五月蝿い。」
「それは、トダカさんが俺のことを美化して話すからですね。どんな生き物なのか興味津々って感じじゃないですか? オーヴでお会いした時も少ししか話してないし。」
「そうでもない。きみの料理を肴にしてるっていうのもポイントが高いらしいよ? 娘の手料理で、娘に酌をされていると私が言うと歯軋りしそーな勢いだ。」
「手料理って・・・ちくわにきゅうりとか板ワサを手料理と言いますか? トダカさんのほうがおいしいの作ってくれるのに。」
「だからさ、そうやって親子で、きゃっきゃうふふしてるのが羨ましいんだとさ。」
「そういうもんですか? うーん。」
「あんまり五月蝿くなったら、一度、頼めるかな? 娘さん。」
「別にいいですが・・・・がっかりしそーだな。」
トダカは、ふと遠い目をした。こんなふうに騒ぐのが好きだった人を思い出したのだ。
「どうだろう。それなら、それで、もう騒がないだろうから静かになるさ。・・・・ウズミ様が、ご存命なら、ものすごく盛り上がったことだろうな。あの方は、こういう騒ぎが大好きだったから。」
ちょっと遠い目をしてトダカは過去の映像を思い出している。しかし、だ。ニールが知っているウヅミさんという人物のイメージは人格者の堅いもので、そんなお祭り騒ぎが好きそうには思えないから首を傾げた。なんせ、ウヅミさんという人は、オーヴでの戦闘の責任を自らでとって亡くなっているからだ。
「カガリのお父さん、一体、どーいうキャラなんですか? トダカさんのことも恋人扱いしてたらしいし・・・でも、結婚してたんですよね? 」
「一言で言うと、お祭り騒ぎ大好き人間だった。普段、堅苦しい仕事だったから、それで発散してたんだよ。まあ、その騒ぎはウヅミーズラブでやらかしていたから、一般には厳格で公正正大な方というイメージを固定させてたんだけどね。」
「あーそういうことか。ある意味、ギルさんも、そんな感じですもんねぇ。」
偉大な執政者というのは、国民に対してのイメージは固定させているものらしい。どっかの最高評議会委員長様も一般的には理知的な執政者というイメージだ。中身は、ただの世間知らずの科学バカだが、それでは国民はついてこない。イメージ戦略というものの重要性というのを、こういうことで実感するのも、どーなんだろーとニールは笑っている。
「お茶目な方だったからさ。奥様が亡くなって再婚の話をされそうになると、私に愛を語ってたよ。くくくくく・・・・かなり熱烈にね。私は吹き出さないように唇を噛み締めて我慢してさ。懐かしいなあ。」
「じゃあ、他の一桁組が、その噂を頒布させてた? 」
「そうそう。縁談を画策している奴らに聞こえるように流してたのさ。ああいうのは楽しかったな。」
まだ、みんな、若かった。だから、日頃のストレス発散も兼ねてウヅミに協力していたのだ。たぶん、あの頃のバカ騒ぎを味わいたいのだろう。ニールを話のタネにして騒ぐのは、トダカも楽しみになっていたりする。
作品名:こらぼでほすと 散歩5 作家名:篠義