二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

こらぼでほすと 散歩5

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

「そうですねぇ。刹那たちも戻ってくるから、それでいいかな。」
 帰る時に買出しの必要があるので、そこいらに刹那たちは使う心算だ。ビールの箱買いとなるとニールでは持ち上げるのが厄介だ。寺には、おサルさんがいるから布団なんかの準備は頼める。段取りを考えて、やれやれと身体の力を抜く。
「それから残念な知らせなんだが、また台風が発生した。次は二週間後くらいだ。」
「えーまた? 」
「これから十一月までは度々、襲来するもんなんだ。直撃でなければ一日くらいで済むだろうから、マズイと思ったら早めに、こっちに避難してくれ。」
「了解です。」
「直撃は滅多にないから大丈夫だ。」
「そう願いたいですよ、ドクター。」
 確かに直撃で長いこと、ダウンするというのは滅多にない。一番酷かったのは、死にかけて地上で目が覚めて、すぐの台風だった。その時は通過してから、ひどく発熱して寝込んでいた。それから考えれば、喋っていられるのだから回復はしている。



 さすがに雨が酷いのでピクニック気分とはいかなくて、適当なファミレスで食事してコスモスの咲いている公園に出向いた。人は、まったくいなくて静かなものだ。駐車場にクルマを置いて傘をさして目的地へ歩く。相合傘がいい、と、刹那の女房がごねたのだが、面倒だし濡れるので却下した。ぶーたれていたが、携帯端末で位置情報を呼び出して道案内はしている。
「この上のほうだな。他にもエリアごとに花はあるらしいぞ。」
「とりあえずコスモスに案内してくれ。」
 ざーざーと降っている雨で声も聞きにくいが、はいはい、と、女房は道を辿る。たぶん、何年も特区には降りているから目にしているはずだが、刹那には花の種類なんてものは分からない。おかんが、あれはなんだ、これはどうだ、と、話しているのは覚えていても肝心の花は記憶していないのだ。小高い山を登ったら開けた場所に花畑があった。赤紫、ピンク、オレンジ、小紫などの花が咲いている。これがコスモスであるらしい。雨に叩きつけられていて、倒れそうになっているのもあるが晴れていれば、これは綺麗かもしれない。
「野草っぽいんだな。」
「そうなのか? 」
「ああ、たぶん咲いたら終わりって感じ。晴れてりゃ綺麗だとは思うが、雨だからなあ。」
 かなり広範囲に咲いてはいるが雨で奥のほうは煙っている。その煙っている場所は、なんだか赤い。おや? と、ロックオンはそちらに向けて歩き出した。一角だけ、色が違うのか、と、思ったのだが、降りてみると、そこは違う花のエリアだった。真っ赤な花が咲いている。携帯端末で調べたら、これがネリネという花だ。
「ダーリン、これがネリネ。えーっと、まんじゅ、しゃ、げ? だとさ。秋の花だが、特区では墓場に咲く花として有名だとよ。こんなに繊細な花びらなのになあ。」
 その花はコスモスと違って、花弁が、とても細く真っ赤というよりは朱色の花だった。そこいらだけに咲いているが、これも広い場所に咲いている。
「墓場に咲くだと? 」
 ロックオンから携帯端末を借りて説明文を読んだら、そういうことが書かれてある。もともと、墓場の死体が野獣に掘り返されて食われないために植えられた花で根はクスリにもなるが毒にもなるという。今は、墓場ではなく根のある場所に毎年、咲くだけだが、特区からの古い慣わしで、あまり触れたり花を折ったりされないとのことだ。
「つまり、昔は土葬っていって人間が死んだら、そのまま埋めてただろ? それで骨になるまで動物に掘り出されたりしないように、この花を植えたらしい。綺麗に腐って骨になるために、ってことだろうな。だから、墓場の花。今は、骨にしてから埋めるのが常識だから、そういう使われ方はしてないけど、昔から言われてるから、定着してんだろうさ。」
「ここに咲いているのは、墓があったわけではなくて、たまたま根があったということか。」
「そうなんだろう。これ、写真撮る? 」
 刹那が花を観賞した、という証拠のためにコスモスは写真に収めた。これも証拠写真は必要か、と、ロックオンは尋ねたのだが、ロックオンの亭主は首を横に振った。
「墓場の花は、ニールに見せなくていい。」
「でも、兄さんは、この話を知らないと思うぜ? それなら、ただの秋の花だ。」
 ロックオンにしても繊細な花という認識だ。実兄も、そう感じるだろう。アイルランドでは、こういう花はないな、と、考えていたら、ロックオンの亭主は、「撮らない。」 と、きっぱり言った。
「どうして? 」
「見せる必要を感じない。とりあえずコスモスと撮ってくれ。それから他のものも探そう。・・・・おかんに、不吉なものは相応しくない。」
 朱色の花に囲まれたニールをイメージして刹那は、頭を振った。なんだか禍々しい。こういう花の中に紛れるおかんは見たくない。おかんが死んでいるようでイヤだ。
「ニールに死を感じさせるものは近づけたくない? 」
「そうだ。あんな死にたがりのおかんに、こういうものは見せたくない。」
 ぶすっと刹那が言うと、女房も微笑んだ。子供としては、そういう気分になるものらしい。
「わかった。じゃあ撮らない。でもな、刹那。ニールには、でっかい足枷がついていてな。もう死神と仲良くはできないから安心しろ。・・・・俺たちが生きてる限り、あの人も生きてるという約束をした。だから、勝手に死にに行くよーなことはない。」
 ロックオンは、そう約束した。実兄も、その約束に頷いた。勝手なことはできなくなった、と、実兄も言っていた。まあ、どっかの回路がおかしく繋がっているので完璧ではないが、それでも約束はしたのだから、実兄も死にたがっても逃げることはできなくなっている。そう言ったら、亭主は顔を上げた。
「いつ、その約束をした? 」
「半年ぐらい前。俺が単独で降りた時に、きちんと話したよ。まあ、あのバカ兄は、どっか壊れてるから何度も言い募らないと忘れちまうかもしれないが、ちゃんと約束はした。それにニールも、「死ねない。」 と、言った。だから、約束は成立している。」
「そうか。」
「刹那、俺たちが生存することが大前提だからな? おまえも兄さん、泣かせるようなことはすんな。」
「努力はする。」
 少し俯いて、それから上げた顔は微笑んでいた。表情の乏しい亭主だが、とても嬉しい言葉だったらしい。なんせ、実兄は、刹那たちを無視して私怨に走って死んだからだ。何も言わず、ずっと腹に隠したままだったから、刹那たちも、その私怨を知らなかった。博愛主義にみえて、実は誰も愛していないということが、後に解って刹那にも、ようやくニールという人間が死にたがっている人間だったと理解した。今も、あまり生きることには積極的ではないから、そこいらが刹那も怖い。刹那の女房が、「死なない」約束をしてくれたと言われて、少し安堵した。
「俺のおかんは、自己犠牲をやりかねない。だから、足枷があれば少しは安心できる。」
「そういう場面に引き摺りださないさ。もう宇宙には上がらせないし組織にも参加させない。それで、自己犠牲のやり場所はなくなるだろ? 」
「そうだな。・・・・こういう花の名前を覚えて、俺に教えてくれるような事をしていてくれればいい。」
作品名:こらぼでほすと 散歩5 作家名:篠義