こらぼでほすと 散歩7
仕事の面々は夕方に出勤した。残るのはダコスタとニールとリジェネだ。まだ食事時間でもないから、軽い肴が用意されてダコスタの前に置かれている。
「適当にやっててくれ。」
ニールは、肉じゃがの仕込みに入った。炭酸でジンを割り、それを呑みつつ、ダコスタもテレビを観賞する。独り者には、これは有り難い。黙っていても酒と肴が用意されるし、風呂も、すでに用意されている。好きな時に入って好きに呑んでいればいい。ニールの話し相手というか世話をかけさせるのが主目的だから、何もしないほうがいいのだ。
「そろそろ戻るよ? ママ。」
「はいはい、とりあえず風呂に入らせようかな。」
食事の準備は粗方完成している。あとは、どの程度の空腹なのかで用意する。とりあえず客間に布団は用意するつもりだが、刹那が、みんなで寝るとか言うとニールたちの分も布団を移動させることになるので、帰ってからにした。
「ダコスタ、仕事のほうは、どうなんだ? 」
「今のところは、ぼちぼちって感じかな。ハイネのバイトは以前から依頼されてたから緊急じゃないんで。念のため。」
「まあ、シンとレイもアカデミーに真面目に通ってるもんな。・・・ここんところ、気になる事件もなかったみたいだし。」
「そうですねぇ。連邦が木星のラボへ無人偵察機を飛ばしたみたいだから、ニュースとして目ぼしいのは、そんなとこかな。」
「木星か・・・・何ヶ月もかかるんだよな。」
「三ヶ月ぐらいは必要なんじゃないかな。今は無人のラボがあるらしいんで、そこのチェックらしいよ。あれは組織のものらしい。」
「え? うちの? 」
「そう、ソレスタルビーイングの私物らしいんだ。かなり古いものなんだけどさ。太陽炉を、あそこで製作したらしい。」
「そうだよ。あれはイオリアのものだ。だから、連邦が勝手にチェックするのは、おかしいんだけどね。太陽炉のメカニズムを解明したいんだろうな。もう古くて使えないはずだけど。」
ヴェーダ本体であるリジェネは、それを情報として持っている。あそこで、どんな実験をして、どういうものを製作したかは、ヴェーダに情報として蓄積されている。たぶん、連邦はヴェーダの一部を解析して、それを知ったのだ。完全な設計図や細かい実験書などは隠されているので、実際に調べるしかないのだろう。
「それ、全部、ロボットの遠隔操作だったのか? リジェネ。」
「ううん、僕らのようなイノベイドがやってたはずだ。・・・・というか、これ、トップシークレットなんだけど? ダコスタ。」
「ああ、ごめん。詳しいことはキラに教えてやってくれる? 俺は聞いてもチンプンカンプンだからさ。」
「了解。キラが尋ねたら答える。・・・・ママ、すぐに到着するよ? 」
リジェネが刹那たちのクルマの情報を伝えると、はいはい、と、準備を始めるために台所へ赴いた。それから、リジェネはダコスタの耳元に、「うかつに質問しないで。ママは一般人だよっっ。」 と、叱った。
「あ、ごめん。」
「そういうのはダメ。ママに組織のことを教えると心配するんだからさ。その情報はキラも知ってる。連邦が探せる程度のデータは、すでにキラも持ってるし、ティエリアから連絡してる。」
日常担当のニールには、基本的に組織のことも話さない、と、決めている。何かしらの異常があってニールが気付けば、リジェネは、それには答えるが、知らないなら、そのままのほうが安全だからだ。それを、うっかりダコスタは話しすぎた。普段、ハイネも、ちらりとは話しているが、深いことはスルーしている。
クルマは、とっぷりと日が暮れてから寺に戻って来た。帰るコールはしていないが、リジェネが自分たちの位置を把握しているのは、刹那も理解しているので連絡も不要だ。
「あれ、どうする? ダーリン。」
「明日でいいだろう。・・・・絶対に叱られるぞ、ロックオン。」
「え? だって花畑っていうなら、これぐらいは必要だろ? 少ないぜ? 」
「迷路にはならない。」
「けど、店の人が言ってただろ? 来年、種が落ちたら周囲に広がるってさ。どうせ、兄さんは来年、花を植えるんだ。それなら、かなりの花畑になる。これは、来年の肥料みたいなもんだ。」
旅館の野花は、ロックオンが交渉したら持ち帰れることになった。だが、俺からの土産がねぇーのは、実兄に恥ずかしいと言って、近場の植物を販売している場所も聞き出してきた。秋の花の代表的なものとなると、やはりコスモスであるらしく、あっちこっちでコスモスの鉢植えは販売していた。それを確認してロックオンは、大量に買い付けたのだ。今、車の後部座席とトランクには、その鉢植えが満杯に詰まっている状態だ。ぶらぶらと花のある場所も散策したら、すっかり日が落ちてしまった。
寺の駐車場にクルマを停めて、刹那はお目当ての鉢植えを手にした。ロックオンも一鉢だけ持ち出した。玄関を開けると、ニールが廊下に顔を出している。
「ただいま。」
「ただいまぁー兄さん。」
「おかえりー腹減ってるか? 」
「減ってる。」
パタパタと廊下をやってきたおかんに、刹那は無言で二つの鉢植えが入った小さめのダンボールを差し出した。
「ん? 」
「秋の野草だそうだ。」
「ああ、ありがとう。・・・なっなに? これ? ドットプリントになってるぞ。」
「ホトトギス草だ。白いのはサギ草。どちらも特区の野草なんだそうだ。ナチュラルにドットプリントだ。」
「へーこんな花もあるんだな・・・・ロックオン? それ、土産か? 」
背後の実弟が持っている大きめの鉢植えを目にして、ニールが尋ねる。ああ、と、その鉢植えも眼の前に差し出された。
「刹那が珍しいのにしたから、俺からはポピュラーなとこ。たくさん買って来たから、明日、庭に配置しような? ニール。」
「はい? 」
「旅館に飾ってあったのが強烈だったんだよ。あれを持ち帰れればよかったんだけど、切花だったからな。それで、これにした。」
「いやいや、ロックオン? 大量って? 」
「クルマに載せられるだけ買って来た。割と安かったんだ。あんたも、これで秋の花を満喫すればいいだろ? もう買ったんだから返品できねぇーしっっ。ほら、メシ食わせろよ。腹減ってんだからさっっ。」
はいはい、歩け、と、ロックオンが実兄の身体をくるりと回して歩かせる。実兄に対しては、とにかくツンデレ仕様であるらしい。実兄のほうも、そういうものだと理解しているから、そのまま台所へ消える。鉢植えを玄関に置くと、ロックオンも上がり、続いて刹那も廊下を進む。居間には珍しくダコスタがいた。
「おや、珍しい。間男その二か? ダコスタ。」
「うーん、そういうことにしておこうかな。ゆっくりできたのか? ロックオン。」
「ああ、たっぷり愛情補給してもらったぜ。三蔵さんは? 」
「仕事。指名の予約があったからさ。ハイネはバイト。」
「バイト? 忙しいな、ハイネ。」
「いや、以前から予約が入ってた分でさ。」
ダコスタとロックオンが雑談をしている隙に、刹那は台所に赴き、ニールの背中に、べとーっとひっついている。いつもの光景だから、それを眺めつつ、二人して微笑む。寺に居る限り、刹那は、ただの甘えた子猫で、おかん猫の背中にへばりついているのが常だ。
「適当にやっててくれ。」
ニールは、肉じゃがの仕込みに入った。炭酸でジンを割り、それを呑みつつ、ダコスタもテレビを観賞する。独り者には、これは有り難い。黙っていても酒と肴が用意されるし、風呂も、すでに用意されている。好きな時に入って好きに呑んでいればいい。ニールの話し相手というか世話をかけさせるのが主目的だから、何もしないほうがいいのだ。
「そろそろ戻るよ? ママ。」
「はいはい、とりあえず風呂に入らせようかな。」
食事の準備は粗方完成している。あとは、どの程度の空腹なのかで用意する。とりあえず客間に布団は用意するつもりだが、刹那が、みんなで寝るとか言うとニールたちの分も布団を移動させることになるので、帰ってからにした。
「ダコスタ、仕事のほうは、どうなんだ? 」
「今のところは、ぼちぼちって感じかな。ハイネのバイトは以前から依頼されてたから緊急じゃないんで。念のため。」
「まあ、シンとレイもアカデミーに真面目に通ってるもんな。・・・ここんところ、気になる事件もなかったみたいだし。」
「そうですねぇ。連邦が木星のラボへ無人偵察機を飛ばしたみたいだから、ニュースとして目ぼしいのは、そんなとこかな。」
「木星か・・・・何ヶ月もかかるんだよな。」
「三ヶ月ぐらいは必要なんじゃないかな。今は無人のラボがあるらしいんで、そこのチェックらしいよ。あれは組織のものらしい。」
「え? うちの? 」
「そう、ソレスタルビーイングの私物らしいんだ。かなり古いものなんだけどさ。太陽炉を、あそこで製作したらしい。」
「そうだよ。あれはイオリアのものだ。だから、連邦が勝手にチェックするのは、おかしいんだけどね。太陽炉のメカニズムを解明したいんだろうな。もう古くて使えないはずだけど。」
ヴェーダ本体であるリジェネは、それを情報として持っている。あそこで、どんな実験をして、どういうものを製作したかは、ヴェーダに情報として蓄積されている。たぶん、連邦はヴェーダの一部を解析して、それを知ったのだ。完全な設計図や細かい実験書などは隠されているので、実際に調べるしかないのだろう。
「それ、全部、ロボットの遠隔操作だったのか? リジェネ。」
「ううん、僕らのようなイノベイドがやってたはずだ。・・・・というか、これ、トップシークレットなんだけど? ダコスタ。」
「ああ、ごめん。詳しいことはキラに教えてやってくれる? 俺は聞いてもチンプンカンプンだからさ。」
「了解。キラが尋ねたら答える。・・・・ママ、すぐに到着するよ? 」
リジェネが刹那たちのクルマの情報を伝えると、はいはい、と、準備を始めるために台所へ赴いた。それから、リジェネはダコスタの耳元に、「うかつに質問しないで。ママは一般人だよっっ。」 と、叱った。
「あ、ごめん。」
「そういうのはダメ。ママに組織のことを教えると心配するんだからさ。その情報はキラも知ってる。連邦が探せる程度のデータは、すでにキラも持ってるし、ティエリアから連絡してる。」
日常担当のニールには、基本的に組織のことも話さない、と、決めている。何かしらの異常があってニールが気付けば、リジェネは、それには答えるが、知らないなら、そのままのほうが安全だからだ。それを、うっかりダコスタは話しすぎた。普段、ハイネも、ちらりとは話しているが、深いことはスルーしている。
クルマは、とっぷりと日が暮れてから寺に戻って来た。帰るコールはしていないが、リジェネが自分たちの位置を把握しているのは、刹那も理解しているので連絡も不要だ。
「あれ、どうする? ダーリン。」
「明日でいいだろう。・・・・絶対に叱られるぞ、ロックオン。」
「え? だって花畑っていうなら、これぐらいは必要だろ? 少ないぜ? 」
「迷路にはならない。」
「けど、店の人が言ってただろ? 来年、種が落ちたら周囲に広がるってさ。どうせ、兄さんは来年、花を植えるんだ。それなら、かなりの花畑になる。これは、来年の肥料みたいなもんだ。」
旅館の野花は、ロックオンが交渉したら持ち帰れることになった。だが、俺からの土産がねぇーのは、実兄に恥ずかしいと言って、近場の植物を販売している場所も聞き出してきた。秋の花の代表的なものとなると、やはりコスモスであるらしく、あっちこっちでコスモスの鉢植えは販売していた。それを確認してロックオンは、大量に買い付けたのだ。今、車の後部座席とトランクには、その鉢植えが満杯に詰まっている状態だ。ぶらぶらと花のある場所も散策したら、すっかり日が落ちてしまった。
寺の駐車場にクルマを停めて、刹那はお目当ての鉢植えを手にした。ロックオンも一鉢だけ持ち出した。玄関を開けると、ニールが廊下に顔を出している。
「ただいま。」
「ただいまぁー兄さん。」
「おかえりー腹減ってるか? 」
「減ってる。」
パタパタと廊下をやってきたおかんに、刹那は無言で二つの鉢植えが入った小さめのダンボールを差し出した。
「ん? 」
「秋の野草だそうだ。」
「ああ、ありがとう。・・・なっなに? これ? ドットプリントになってるぞ。」
「ホトトギス草だ。白いのはサギ草。どちらも特区の野草なんだそうだ。ナチュラルにドットプリントだ。」
「へーこんな花もあるんだな・・・・ロックオン? それ、土産か? 」
背後の実弟が持っている大きめの鉢植えを目にして、ニールが尋ねる。ああ、と、その鉢植えも眼の前に差し出された。
「刹那が珍しいのにしたから、俺からはポピュラーなとこ。たくさん買って来たから、明日、庭に配置しような? ニール。」
「はい? 」
「旅館に飾ってあったのが強烈だったんだよ。あれを持ち帰れればよかったんだけど、切花だったからな。それで、これにした。」
「いやいや、ロックオン? 大量って? 」
「クルマに載せられるだけ買って来た。割と安かったんだ。あんたも、これで秋の花を満喫すればいいだろ? もう買ったんだから返品できねぇーしっっ。ほら、メシ食わせろよ。腹減ってんだからさっっ。」
はいはい、歩け、と、ロックオンが実兄の身体をくるりと回して歩かせる。実兄に対しては、とにかくツンデレ仕様であるらしい。実兄のほうも、そういうものだと理解しているから、そのまま台所へ消える。鉢植えを玄関に置くと、ロックオンも上がり、続いて刹那も廊下を進む。居間には珍しくダコスタがいた。
「おや、珍しい。間男その二か? ダコスタ。」
「うーん、そういうことにしておこうかな。ゆっくりできたのか? ロックオン。」
「ああ、たっぷり愛情補給してもらったぜ。三蔵さんは? 」
「仕事。指名の予約があったからさ。ハイネはバイト。」
「バイト? 忙しいな、ハイネ。」
「いや、以前から予約が入ってた分でさ。」
ダコスタとロックオンが雑談をしている隙に、刹那は台所に赴き、ニールの背中に、べとーっとひっついている。いつもの光景だから、それを眺めつつ、二人して微笑む。寺に居る限り、刹那は、ただの甘えた子猫で、おかん猫の背中にへばりついているのが常だ。
作品名:こらぼでほすと 散歩7 作家名:篠義