こらぼでほすと 散歩8
翌日、客間で刹那は目が覚めた。台所から微かな物音が聞こえている。目を開けたら珍しく親猫の腕の中だ。いつもなら、親猫が先に起き出している。くーすかと寝息が聞こえているから、そろりそろりと動いて腕の中から脱出した。背後には、刹那の女房だ。こちらも、くーすかと同じ顔で眠っている。顔の造詣は一緒だから、そっくりなのだが寝相は違った。親猫は刹那を抱きこんで丸くなっているが、女房のほうは大の字に近い状態だ。親猫は、電池切れしているのだろう。そういうことなら寝かせておくほうがいいから、そろそろと着替えて居間のほうに顔を出した。
「おはよー刹那。」
台所では、悟空が朝の支度をしていた。リジェネも、一緒になって働いている。
「おかんが電池切れだ。」
「うん、昨日、おまえらが戻ったから浮かれてたんだ。とりあえず、俺はメシ食ったら学校に行くから、あと、適当にしてくれ。洗濯機は回してるから干すのは任せてもいいか? 」
「了解した。」
「昼近くまで起きなかったら、お粥食わせてクスリな? 」
「わかった。」
寺では、いつものことだから段取りも、テキパキ進む。刹那のほうは顔を洗ってくることにした。親猫は疲れて寝ているだけだから、慌てなくてもいい。刹那と入れ替わりに坊主が回廊を戻って来る。朝の勤行が終わったらしい。
「ダウンか? 」
「ああ。」
「放置しておけ。」
坊主も慣れたものだ。寺の女房はダウンしそうな日は前日に、朝の準備はしている。味噌を溶けば味噌汁が、おかずはチンすればよいものは冷蔵庫、というようになっているから慌てることもない。
朝飯の段階で、刹那は携帯端末のメールに気付いた。アスランからで、近隣のコスモスが自然に咲いている場所が送られていた。ただし迷路ではない、という但し書きもついている。
「三蔵さん、ニールと出かけてもいいか? 」
「死なない程度ならかまわねぇ。」
「ドライヴする程度だ。明日ぐらいの午後。」
「いいだろう。明日なら生き返ってるはずだ。」
「買い物か? 刹那。」
「いや、コスモスを見せたいと思ったんだ。アスランが場所を教えてくれた。」
「どこいらへん? 刹那。」
リジェネが、刹那の携帯端末を確認してヴェーダとリンクする。場所の特定をすれば、現在の状況も把握できる。こっちのほうが咲いてるっぽいね、と、教えてくれた。
「迷路ではないとのことだが。」
「河原の土手に自然に咲いてるものらしいから迷路にはなってないみたい。ここなら、近くに駐車場もあるから、ママも歩かなくていける。刹那のクルマのナビにセッティングしておくよ。」
「おまえも行けばいいだろ? リジェネ。」
「ううん、たまには三人で行って来て。それなら、僕、ちょっと仕事をさせてもらうから。」
リジェネも仕事があるといえばある。ヴェーダに蓄積されていく情報の閲覧をしておかなければならない。情報は、ある程度、分類しておく必要があるので、そこいらをティエリアとリジェネが、ふたりで担当している。連邦がイノベイターを一人確保しているのだが、その情報が、なかなか掴めないので、真面目にチェックしているのだ。
ちょいと呑みすぎたロックオンが喉が渇いて目を覚ます。ダコスタとは、なかなか世間話をすることがないから新鮮だった。砂漠でのMSの運用なんてことになると、やはり知りたいわけで、ダコスタに、そこいらを尋ねていたら呑みすぎたのだ。あまり組織では地上戦というのは経験していないが、『吉祥富貴』のラボにデュナメスを配置したところを考えると今後、ロックオンも地上戦をやることがあるかもしれない。大気があるだけで射撃の命中率も変わるというのは、前回理解したが、それ以外にも、いろいろとあることは判明した。最後の辺りは記憶していないが、そこそこの情報は貰えたので満足だ。
あふっと欠伸して起き上がると枕元にポカリが置いてある。至れり尽くせりだなあーと、それをゴクゴクと飲んで、ふと横に視線を動かしたら実兄が、こじんまりと寝ていた。丸くなっているので、でかいガタイもコンパクトに見える。亭主は、すでに起きたらしく藻抜けの空だった。
・・・・具合悪いのか?・・・
いつもなら先に起き出している実兄が寝ているので心配になって近寄った。寝息は穏やかなものだったが発熱していないか、首筋に手をやる。熱くはないので、ほっとしたら実兄が寝返りをうったが起きる気配はない。ただ寝ているだけだと解ると、寝返りをうったほうに移動して、マジマジと顔を眺めた。造詣は、まったく同じなのだが、ロックオンにすれば、そこいらは、よくわからない。なんせ、同じ顔を同時に見ることは稀だからだ。
くーくーと穏やかな寝息を吐いているのを見ると、ほっとして嬉しくなる。遺伝子の異常は解消しているので、それほど心配はないのだが、実兄が警戒心もなく寝ているのは、ロックオンが側に居ても安心していられるからだ。信頼されているのだと、今はわかる。
「寝顔は変わらねぇーな、ニール? 」
子供の頃は、よく眺めていた顔だ。多少、年は食っているが、寝ている姿は昔のままで、可愛いとか実弟は思っていたりする。携帯端末で時間を調べると昼に近い時間だった。
・・・・この人が寝てるってことは、俺のメシは、どーなってんだ? まさか、セルフか? いやあー、せっかくなら兄さんの手作りがいいよなあ・・・・・
さほど空腹ではない。とりあえず、しばらく様子をみてから起こそうと、畳に寝転んで眺めていることにした。となりの居間からの物音はないから、留守なのかもしれない。
本日の予定は、コスモスの設置だけだから慌てることもない。裏庭に配置するだけなので半時間もかかるものでもないから、終わったら散歩でもしようかな、と、予定を巡らせていた。そこへ、すっと音がして障子が開いた。現れたのは刹那だ。ロックオンは無言で手を挙げてから、人差し指を口元にやる。寝てるから静かに、という合図だ。亭主は、こくりと頷いてロックオンの側にやってきた。
「これ、起こしてもいいのか? 」
「ああ、単なる電池切れだ。食事をさせてクスリを飲ませなければならない。おまえ、ニールを起こせ。半覚醒でいい。」
「了解。」
静かに、背後の障子に近寄るとリジェネが顔を出す。手にはクスリと水だ。刹那は、一度出て戻って来て、お粥を用意している。それを見計らって、ロックオンは実兄の身体を抱き起こして頬をペチペチと軽く叩く。
「兄さん、口だけ開けて? 」
耳元で囁くと、ぽおやぁーっとニールは目を開いて口をパカッと開けた。水を含ませられると、ようやく意識が戻ったらしい。うえ? と、言いながら視線を上げて、「寝坊した。」 と、髪を掻き上げる。
「クスリだけ飲んだら寝てていいから。」
「・・いや・・・起きる。・・・・え? 」
眼の前に刹那とリジェネだ。ということは・・・と、振り返ったら実弟が起こしてくれていた。
「なに? 」
「・・・ああ・・・おまえさんか・・・」
「誰だと思ったわけ? 」
「・・。まさかだが・・三蔵さんかと・・・」
「ママ、三蔵さんは仕事してる。それはいいから、お粥食べてくれる? それでクスリだから。」
「おはよー刹那。」
台所では、悟空が朝の支度をしていた。リジェネも、一緒になって働いている。
「おかんが電池切れだ。」
「うん、昨日、おまえらが戻ったから浮かれてたんだ。とりあえず、俺はメシ食ったら学校に行くから、あと、適当にしてくれ。洗濯機は回してるから干すのは任せてもいいか? 」
「了解した。」
「昼近くまで起きなかったら、お粥食わせてクスリな? 」
「わかった。」
寺では、いつものことだから段取りも、テキパキ進む。刹那のほうは顔を洗ってくることにした。親猫は疲れて寝ているだけだから、慌てなくてもいい。刹那と入れ替わりに坊主が回廊を戻って来る。朝の勤行が終わったらしい。
「ダウンか? 」
「ああ。」
「放置しておけ。」
坊主も慣れたものだ。寺の女房はダウンしそうな日は前日に、朝の準備はしている。味噌を溶けば味噌汁が、おかずはチンすればよいものは冷蔵庫、というようになっているから慌てることもない。
朝飯の段階で、刹那は携帯端末のメールに気付いた。アスランからで、近隣のコスモスが自然に咲いている場所が送られていた。ただし迷路ではない、という但し書きもついている。
「三蔵さん、ニールと出かけてもいいか? 」
「死なない程度ならかまわねぇ。」
「ドライヴする程度だ。明日ぐらいの午後。」
「いいだろう。明日なら生き返ってるはずだ。」
「買い物か? 刹那。」
「いや、コスモスを見せたいと思ったんだ。アスランが場所を教えてくれた。」
「どこいらへん? 刹那。」
リジェネが、刹那の携帯端末を確認してヴェーダとリンクする。場所の特定をすれば、現在の状況も把握できる。こっちのほうが咲いてるっぽいね、と、教えてくれた。
「迷路ではないとのことだが。」
「河原の土手に自然に咲いてるものらしいから迷路にはなってないみたい。ここなら、近くに駐車場もあるから、ママも歩かなくていける。刹那のクルマのナビにセッティングしておくよ。」
「おまえも行けばいいだろ? リジェネ。」
「ううん、たまには三人で行って来て。それなら、僕、ちょっと仕事をさせてもらうから。」
リジェネも仕事があるといえばある。ヴェーダに蓄積されていく情報の閲覧をしておかなければならない。情報は、ある程度、分類しておく必要があるので、そこいらをティエリアとリジェネが、ふたりで担当している。連邦がイノベイターを一人確保しているのだが、その情報が、なかなか掴めないので、真面目にチェックしているのだ。
ちょいと呑みすぎたロックオンが喉が渇いて目を覚ます。ダコスタとは、なかなか世間話をすることがないから新鮮だった。砂漠でのMSの運用なんてことになると、やはり知りたいわけで、ダコスタに、そこいらを尋ねていたら呑みすぎたのだ。あまり組織では地上戦というのは経験していないが、『吉祥富貴』のラボにデュナメスを配置したところを考えると今後、ロックオンも地上戦をやることがあるかもしれない。大気があるだけで射撃の命中率も変わるというのは、前回理解したが、それ以外にも、いろいろとあることは判明した。最後の辺りは記憶していないが、そこそこの情報は貰えたので満足だ。
あふっと欠伸して起き上がると枕元にポカリが置いてある。至れり尽くせりだなあーと、それをゴクゴクと飲んで、ふと横に視線を動かしたら実兄が、こじんまりと寝ていた。丸くなっているので、でかいガタイもコンパクトに見える。亭主は、すでに起きたらしく藻抜けの空だった。
・・・・具合悪いのか?・・・
いつもなら先に起き出している実兄が寝ているので心配になって近寄った。寝息は穏やかなものだったが発熱していないか、首筋に手をやる。熱くはないので、ほっとしたら実兄が寝返りをうったが起きる気配はない。ただ寝ているだけだと解ると、寝返りをうったほうに移動して、マジマジと顔を眺めた。造詣は、まったく同じなのだが、ロックオンにすれば、そこいらは、よくわからない。なんせ、同じ顔を同時に見ることは稀だからだ。
くーくーと穏やかな寝息を吐いているのを見ると、ほっとして嬉しくなる。遺伝子の異常は解消しているので、それほど心配はないのだが、実兄が警戒心もなく寝ているのは、ロックオンが側に居ても安心していられるからだ。信頼されているのだと、今はわかる。
「寝顔は変わらねぇーな、ニール? 」
子供の頃は、よく眺めていた顔だ。多少、年は食っているが、寝ている姿は昔のままで、可愛いとか実弟は思っていたりする。携帯端末で時間を調べると昼に近い時間だった。
・・・・この人が寝てるってことは、俺のメシは、どーなってんだ? まさか、セルフか? いやあー、せっかくなら兄さんの手作りがいいよなあ・・・・・
さほど空腹ではない。とりあえず、しばらく様子をみてから起こそうと、畳に寝転んで眺めていることにした。となりの居間からの物音はないから、留守なのかもしれない。
本日の予定は、コスモスの設置だけだから慌てることもない。裏庭に配置するだけなので半時間もかかるものでもないから、終わったら散歩でもしようかな、と、予定を巡らせていた。そこへ、すっと音がして障子が開いた。現れたのは刹那だ。ロックオンは無言で手を挙げてから、人差し指を口元にやる。寝てるから静かに、という合図だ。亭主は、こくりと頷いてロックオンの側にやってきた。
「これ、起こしてもいいのか? 」
「ああ、単なる電池切れだ。食事をさせてクスリを飲ませなければならない。おまえ、ニールを起こせ。半覚醒でいい。」
「了解。」
静かに、背後の障子に近寄るとリジェネが顔を出す。手にはクスリと水だ。刹那は、一度出て戻って来て、お粥を用意している。それを見計らって、ロックオンは実兄の身体を抱き起こして頬をペチペチと軽く叩く。
「兄さん、口だけ開けて? 」
耳元で囁くと、ぽおやぁーっとニールは目を開いて口をパカッと開けた。水を含ませられると、ようやく意識が戻ったらしい。うえ? と、言いながら視線を上げて、「寝坊した。」 と、髪を掻き上げる。
「クスリだけ飲んだら寝てていいから。」
「・・いや・・・起きる。・・・・え? 」
眼の前に刹那とリジェネだ。ということは・・・と、振り返ったら実弟が起こしてくれていた。
「なに? 」
「・・・ああ・・・おまえさんか・・・」
「誰だと思ったわけ? 」
「・・。まさかだが・・三蔵さんかと・・・」
「ママ、三蔵さんは仕事してる。それはいいから、お粥食べてくれる? それでクスリだから。」
作品名:こらぼでほすと 散歩8 作家名:篠義