こらぼでほすと 散歩9
翌日は、快晴だった。午前中に家事を終わらせて午後から外出することになった。亭主もリジェネも夕刻には店に出勤するので、簡単な酒の肴とおやつだけは準備した。それで夜まで保たせて店で食事するように手配してくれたので、午後からニールの身体は空いた。昼ごはんを食べて片付けたら出発だ。
場所は、小一時間だという。クルマの助手席にニールが乗り込んでいるのは、刹那の希望だ。ナビには、ちゃんとリジェネが目的地をセッティングしてくれているから指示通りに走らせればいいだけだ。
「コスモスの迷路ではないらしいが、近いものがあるらしい。」
「ふーん、探してくれたのか。」
「アスランに教えてもらった。ナビはリジェネだ。」
アスランからの情報で、リジェネがナビに登録してくれたので、黙っていてもクルマは移動できる。一応、刹那が運転はしているが、迷うことはない。平日の午後は道も空いていて、のんびりとしたドライブだ。
「兄さん、ディナーの場所は割りと近かった。店のほうじゃないんだけどさ。」
「俺、ガーリエマーヒー以外は初体験だ。」
「俺なんか、ガーリエナンチャラも食ってないぜ。辛いのかな。」
「どうなんだろう。でも、特区の人の舌に合わせてあるはずだから、なんとか食えるとは思うけどなあ。」
「ギブアップなら、別の店にすればいいさ。」
「最悪、ファミレスって手がある。」
「そうだな。ダメなら、それでもいいか。」
双子で、景色を眺めながら、たわいもない話をする。刹那は無口なので会話には参加しないが、口元が緩く上がっているから聞いてはいるのだろう。
半時間も走ると景色も長閑なものに変わってくる。郊外エリアに出たので高い建物もないし、緑が増えてくる。真夏ほどではないが、かなり暑い日ざしが降りている。刹那とロックオンと三人でドライブは始めてのことで、ニールは幸せってこういうもんだよな、と、ぼんやりと考えていた。逢えるはずのなかった実弟と、我が子かと思うほどに世話した子供が揃って傍に居て、それが家族になったのだ。なんていうか、生き返ってから有り得ないことの連続だが、これは本当に有り得ないことだった。
「ニール、寝てもいいぞ? 」
「兄さん、寝るならシートを、もうちょっと倒しなよ。」
その二人が、声をかけてくれる。眠くはないので、「寝ない。」 と、返事はした。
小一時間で目的地に到着した。コインパーキングにクルマを停めて、刹那は携帯端末で場所を確認して歩き出した。簡単な荷物はロックオンが持っている。休憩するなら、お茶は必要だろうと冷たい麦茶と、お菓子を持って来たのだ。河原の土手に突き当たり、これを登るらしい。ニールの前て刹那が屈みこんだ。
「俺の背中に負ぶされ、ニール。」
「いや、これぐらいは昇れるから。てか、刹那さんや、俺、一応、健康体でウォーキングもやってるからな。」
「かなり勾配はきついぞ? 」
「うん、ゆっくり登る。先に行ってくれ。」
道路からは川は見えない。走って登るのは無理だが、ゆっくりなら登れる。歩き出そうとしたら、ロックオンが腕を絡ませてきた。
「あんたに見せるのが目的なんだから、一緒に行こうぜ、ニール。ダーリンは、そっちからな。」
そう命じられると逆手に刹那も、やってきておかんの腕を持つ。慌てなくてゆっくりと歩き出す。えっちらおっちらと土手を登ったら、風が吹き抜けた。眼下の河原には、たくさんのコスモスが風で揺れている。自然に咲いているので高さも色合いもバラバラだが、寺の境内よりも広い面積がコスモスの花畑になっていた。密集しているコスモスもあれば、河原には、あっちこっちに点在するコスモスの花がある。
「これは、すごいなあ。」
「なるほど、管理しないと高さもあるんだな。」
今度は土手をゆっくりと降りる。ウィークデーの昼間で人も少ない。ぶらぶらと花畑に近寄った。刹那の背丈くらいになっているから、中を通り抜けるなら迷路のようだ。とりあえず探検するか? と、手を離して三人でコスモスの中へ突入する。密集して咲いているが、ところどころ道のようになっているから、みな、ここいらを歩いているのだろう。さくさくと黒猫が前を歩く。双子は、その後からついていく。
「こんな色もあるんだな。」
「俺が見たのも、こういう感じだったけど、高さは腰ぐらいに調整されてたよ。もうちょっと香りがあればいいのに。」
「そういや、コスモスって匂いはないな。別荘の庭にバラの迷路があるんだが、あっちは香り満点だぜ、ロックオン。」
「そんなのあんの? 」
「ああ、あそこ、奥のほうにイギリス式の庭園が、いくつかあって、その中にある。満開のバラだと匂いもあって綺麗だ。・・・・よかったら見て来いよ。」
「あんたが行けないとこは却下。あんた、別荘は出禁食らってるだろ? そういや、旅館の秋の花も匂いはなかったな。」
「匂いか・・・・金木犀は、いい匂いなんだけど、もう少し季節が後だなあ。」
風に揺れているコスモスを鑑賞しながら、そこを散歩する。晴れてはいるが、それほど暑くもなくて快適だ。刹那が、てってけと走って戻って来た。ぐりぐりとおかんの腕に顔をくっつけている。周辺は、全部、コスモスだ。基本のピンクが多いが、色とりどりの花がある。
「刹那が隠れたら探せなさそうだ。」
「というか広すぎるって。これ探すのは至難の業だぞ。・・・河口に向けて、ずっと咲いてるもんな。」
河口のほうに花畑は続いている。見える限りに花はあるから、範囲が広すぎる。
「俺が隠れるなら完璧に隠れる。」
「まあなあ、サバイバル実践してたもんな。そういや、かくれんぼなんてやったことないだろ? 刹那。」
「ない。」
「やってみるか? ダーリン。俺らが探してやるからさ。」
「そりゃいいな、ロックオン。じゃあ、俺たちが土手のほうで待機して後ろを向いてるから三分間で隠れろ。」
「わかった。」
「見つけたら、ダーリンを好きに出来る権利をもらう。もし、見つけられなかったらダーリンが、俺らに、なんでも命令していいからな。時間は10分。」
暇な時間が、たっぷりあるので双子がルールを決めて土手のほうへ戻る。花畑を抜けて土手の下まで戻ると、ふたりは、くるっと土手のほうに向いて、「これから三分だっっ。」 と、スタートを叫ぶ。刹那は、その声で反応して、ちょろちょろと足音を消して走り出した。
「おまえ、何してもらうつもりなんだ? 」
「最後の夜に、たっぷり愛情補給。兄さんは? 」
「散髪したいんだよなあ。髪の毛が目にかかってるからさ。」
「それ、普通に命じればいいんじゃね? 」
「それぐらいしか思い浮かばないんだよ。察してくれ。」
別に、何かさせたいということもない。刹那は、おかんが命じることには従順だ。ミッション中なら、単独行動するな、とか、いろいろと言いたいことはあるのだが、それは、もうニールが言うべきことではない。それを言えるのはロックオン・ストラトスというマイスターだけだ。ただのニールは、そこからは外れている。
「まあ、いいけどさ。どーする? 本気で探す? 」
「おまえ、どーしたい? 俺は探せなくてもいいぜ。」
「うーん、迷うとこだな。」
場所は、小一時間だという。クルマの助手席にニールが乗り込んでいるのは、刹那の希望だ。ナビには、ちゃんとリジェネが目的地をセッティングしてくれているから指示通りに走らせればいいだけだ。
「コスモスの迷路ではないらしいが、近いものがあるらしい。」
「ふーん、探してくれたのか。」
「アスランに教えてもらった。ナビはリジェネだ。」
アスランからの情報で、リジェネがナビに登録してくれたので、黙っていてもクルマは移動できる。一応、刹那が運転はしているが、迷うことはない。平日の午後は道も空いていて、のんびりとしたドライブだ。
「兄さん、ディナーの場所は割りと近かった。店のほうじゃないんだけどさ。」
「俺、ガーリエマーヒー以外は初体験だ。」
「俺なんか、ガーリエナンチャラも食ってないぜ。辛いのかな。」
「どうなんだろう。でも、特区の人の舌に合わせてあるはずだから、なんとか食えるとは思うけどなあ。」
「ギブアップなら、別の店にすればいいさ。」
「最悪、ファミレスって手がある。」
「そうだな。ダメなら、それでもいいか。」
双子で、景色を眺めながら、たわいもない話をする。刹那は無口なので会話には参加しないが、口元が緩く上がっているから聞いてはいるのだろう。
半時間も走ると景色も長閑なものに変わってくる。郊外エリアに出たので高い建物もないし、緑が増えてくる。真夏ほどではないが、かなり暑い日ざしが降りている。刹那とロックオンと三人でドライブは始めてのことで、ニールは幸せってこういうもんだよな、と、ぼんやりと考えていた。逢えるはずのなかった実弟と、我が子かと思うほどに世話した子供が揃って傍に居て、それが家族になったのだ。なんていうか、生き返ってから有り得ないことの連続だが、これは本当に有り得ないことだった。
「ニール、寝てもいいぞ? 」
「兄さん、寝るならシートを、もうちょっと倒しなよ。」
その二人が、声をかけてくれる。眠くはないので、「寝ない。」 と、返事はした。
小一時間で目的地に到着した。コインパーキングにクルマを停めて、刹那は携帯端末で場所を確認して歩き出した。簡単な荷物はロックオンが持っている。休憩するなら、お茶は必要だろうと冷たい麦茶と、お菓子を持って来たのだ。河原の土手に突き当たり、これを登るらしい。ニールの前て刹那が屈みこんだ。
「俺の背中に負ぶされ、ニール。」
「いや、これぐらいは昇れるから。てか、刹那さんや、俺、一応、健康体でウォーキングもやってるからな。」
「かなり勾配はきついぞ? 」
「うん、ゆっくり登る。先に行ってくれ。」
道路からは川は見えない。走って登るのは無理だが、ゆっくりなら登れる。歩き出そうとしたら、ロックオンが腕を絡ませてきた。
「あんたに見せるのが目的なんだから、一緒に行こうぜ、ニール。ダーリンは、そっちからな。」
そう命じられると逆手に刹那も、やってきておかんの腕を持つ。慌てなくてゆっくりと歩き出す。えっちらおっちらと土手を登ったら、風が吹き抜けた。眼下の河原には、たくさんのコスモスが風で揺れている。自然に咲いているので高さも色合いもバラバラだが、寺の境内よりも広い面積がコスモスの花畑になっていた。密集しているコスモスもあれば、河原には、あっちこっちに点在するコスモスの花がある。
「これは、すごいなあ。」
「なるほど、管理しないと高さもあるんだな。」
今度は土手をゆっくりと降りる。ウィークデーの昼間で人も少ない。ぶらぶらと花畑に近寄った。刹那の背丈くらいになっているから、中を通り抜けるなら迷路のようだ。とりあえず探検するか? と、手を離して三人でコスモスの中へ突入する。密集して咲いているが、ところどころ道のようになっているから、みな、ここいらを歩いているのだろう。さくさくと黒猫が前を歩く。双子は、その後からついていく。
「こんな色もあるんだな。」
「俺が見たのも、こういう感じだったけど、高さは腰ぐらいに調整されてたよ。もうちょっと香りがあればいいのに。」
「そういや、コスモスって匂いはないな。別荘の庭にバラの迷路があるんだが、あっちは香り満点だぜ、ロックオン。」
「そんなのあんの? 」
「ああ、あそこ、奥のほうにイギリス式の庭園が、いくつかあって、その中にある。満開のバラだと匂いもあって綺麗だ。・・・・よかったら見て来いよ。」
「あんたが行けないとこは却下。あんた、別荘は出禁食らってるだろ? そういや、旅館の秋の花も匂いはなかったな。」
「匂いか・・・・金木犀は、いい匂いなんだけど、もう少し季節が後だなあ。」
風に揺れているコスモスを鑑賞しながら、そこを散歩する。晴れてはいるが、それほど暑くもなくて快適だ。刹那が、てってけと走って戻って来た。ぐりぐりとおかんの腕に顔をくっつけている。周辺は、全部、コスモスだ。基本のピンクが多いが、色とりどりの花がある。
「刹那が隠れたら探せなさそうだ。」
「というか広すぎるって。これ探すのは至難の業だぞ。・・・河口に向けて、ずっと咲いてるもんな。」
河口のほうに花畑は続いている。見える限りに花はあるから、範囲が広すぎる。
「俺が隠れるなら完璧に隠れる。」
「まあなあ、サバイバル実践してたもんな。そういや、かくれんぼなんてやったことないだろ? 刹那。」
「ない。」
「やってみるか? ダーリン。俺らが探してやるからさ。」
「そりゃいいな、ロックオン。じゃあ、俺たちが土手のほうで待機して後ろを向いてるから三分間で隠れろ。」
「わかった。」
「見つけたら、ダーリンを好きに出来る権利をもらう。もし、見つけられなかったらダーリンが、俺らに、なんでも命令していいからな。時間は10分。」
暇な時間が、たっぷりあるので双子がルールを決めて土手のほうへ戻る。花畑を抜けて土手の下まで戻ると、ふたりは、くるっと土手のほうに向いて、「これから三分だっっ。」 と、スタートを叫ぶ。刹那は、その声で反応して、ちょろちょろと足音を消して走り出した。
「おまえ、何してもらうつもりなんだ? 」
「最後の夜に、たっぷり愛情補給。兄さんは? 」
「散髪したいんだよなあ。髪の毛が目にかかってるからさ。」
「それ、普通に命じればいいんじゃね? 」
「それぐらいしか思い浮かばないんだよ。察してくれ。」
別に、何かさせたいということもない。刹那は、おかんが命じることには従順だ。ミッション中なら、単独行動するな、とか、いろいろと言いたいことはあるのだが、それは、もうニールが言うべきことではない。それを言えるのはロックオン・ストラトスというマイスターだけだ。ただのニールは、そこからは外れている。
「まあ、いいけどさ。どーする? 本気で探す? 」
「おまえ、どーしたい? 俺は探せなくてもいいぜ。」
「うーん、迷うとこだな。」
作品名:こらぼでほすと 散歩9 作家名:篠義