こらぼでほすと 散歩9
「ああ、特区では、そう呼ばれてるな。彼岸花って言うよ。でも、これは、元々はうちの亭主の本拠地のほうが原産で、そっちでは違う意味があるのさ。」
「死体を守るだけじゃないのか? 」
刹那たちが調べたデータは、特区限定のものだったらしい。ニールは、そちらより亭主に教えてもらったほうを覚えている。最初、ニールも特区のデータを見ていたから、不吉な花だと言ったら、亭主が、それは間違いだと指摘したのだ。
「特区では、そういう用途で使われてるってだけだ。元々は、亭主の本拠地の大陸にあったのを誰かが持ち帰ったんだとさ。あちらでは、見た人を悪から離れさせて穏やかな気持ちにさせてくれる花という意味だそうだ。俺たちが言うところの天国への道に咲いてる花なんだってさ。・・・・・くくくくく・・・ほんと、おまえらと見られるってことは、俺にとっては、そういう意味の花だな。」
元々スナイパーでテロリストだったニールは、この花を見ていられる今の時間は、穏やかなものだ。亭主は、花にもいろいろな意味を込めるものだから、良いほうの意味を覚えておけ、と、おっしゃった。ニールたちが知っている天国のような極楽浄土への道に咲いて、心を穏やかにして綺麗にしてくれる花だと覚えていれば、悪い気はしない。刹那やライルと秋の花を観賞してかくれんぼするなんて、良い天国への道だと思うのだ。
「・・・そうか・・・俺は、ひとつの意味でしか理解しなかったから、あんたには見せたくない、と、思ったんだ。」
「うちの墓所にも咲いてるぜ? 刹那。俺は、そこで見たから亭主と話したんだ。」
「まあ、花には罪はないもんな。人間が勝手に意味をつけてるだけだ。」
ぐびーとビールを飲みつつ、ロックオンも同意する。そういう意味もあるのなら不吉な花ではない。ニールの亭主は、きちんと女房の心もフォローしてくれているらしい。
「くくくく・・・毒物って話だけど、これ、きちんと処理すれば食用にもなるんだってさ。亭主は食ったことがあるって言ってた。水で晒さないとキツイってだけらしい。食うものがなくなったら食えるから覚えとけって言うんだよ。あの人も、サバイバル経験が豊富だから為になる。」
「は? 」
「あれ? 知らなかったか? ロックオン。うちの亭主、修行で大陸中を歩いて旅してたんだ。だから、そういう知識は豊富。俺も似たようなことは経験してるけど、あの人には及ばない。」
「坊さんって、そういう修行もするもんなの? 」
「いや、あの人は、あそこの宗教では最高僧だから、修行も厳しいものだったらしい。だから、射撃も一流なんだ。」
坊主が相手にしていたのは、主に人外ではあるが、殺略の限りは尽くしているので間違ってはいない。そういう意味では、寺の夫夫は似たような商売だったと言えるかもしれないが、実弟と黒猫には内緒だ。
「三蔵さんはプロだ。」
「そうだな。おまえぐらいだと簡単に倒してるもんな。」
「あんたは俺に甘かった。」
「そうか? 一応、急所は攻めてただろ? 」
「ヒットさせなかっただろ? わずかに外して、俺にかわす隙まで与えていた。」
「だって、急所をヒットすると動けなくなるぐらいに痛いからな。訓練で、そこまですることはない。」
「三蔵さんと戦って、あんたが俺を甘やかしていたことは理解した。あんた、俺たちマイスターと訓練する時は、みんなに、そうしていた。」
「あはははは・・・バレた? アレハレたちとは、かなり本気でやってたけどな。おまえやティエリアは危ないから。」
ずっと刹那は、ニールが本気でやりあってくれていると思っていた。だが、三蔵と訓練してみて、よくわかった。わざと急所を外してくれていたのだ。三蔵は本気でヒットさせるから、それで気付いた。もちろん、三蔵も威力は抑えてくれているが、急所のヒットというのは、抑えられても効くものだ。今は、俺のほうが危ないから、本気でやりあわないでくれよ? と、おかんは笑っている。
「刹那より兄さんのほうが強いの? 」
「いや、昔の話。刹那が十三とかだったから、まだ大人の身体じゃなかったからさ。それに、こいつのは殺人術で体術より過激だったし。殺す場合は、それでいいんだけど数に対抗する場合は、足止めできればいいから、そこまでしなくていいんだよ。そこ。」
「俺、今現在、刹那には連戦連敗なんですけど? 」
「そりゃ年季が違うって、ロックオン。練習するなら、アレハレとやるといい。俺も相手はできるけど、持久力ないからな。うちでやるなら悟空とやりな。」
「ニール、それは無理だ。こいつでは悟空なら瞬殺される。」
「いや手加減してもらえば、なんとかなるだろ。」
「俺も手加減されているが、連戦連敗だ。」
「いい経験にはなると思うけど。」
つまり、刹那ですら手加減してもらって、なんとか訓練になっているということで、そんな相手と練習とはいえ、やりあいたくはない。
「結構です、遠慮しますっっ。」
「うん、気が向いたらでいいよ。・・・・刹那、靴汚したな? 脱げ。」
花畑の中を走り回ったので、革靴に泥がついている。靴を脱がせて、ニールがウェットティッシュで泥を拭き取る。服のほうは、カジュアルなものなので、少し着崩していてもいいが、靴が汚れているのはいただけない。
「時間、何時? 」
「七時。まだ時間はあるから大丈夫。休憩したら、もうちょっと散歩しようか? 」
「そうだな。俺、ここから眺めてるのでもいい。」
「水分補給だ、おかん。」
両手が塞がっているおかんに、刹那は麦茶を飲ませて、ポテチも齧らせている。夕刻に近い時間にはなっているが、涼しくもないので、しばらくコスモスの鑑賞は続いた。
作品名:こらぼでほすと 散歩9 作家名:篠義