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それからは、初めの苦戦が嘘のように、あっという間に片がついた。
避けようともせず敵に突っ込むものだから、みるみるアサシンの服が血に染まった。
ヒールも届かない深い傷をいくつも負いながらも、構わずアサシンは狂ったようにカタールをふるった。
恐ろしい速さで最後の一匹まで丁寧に刻み上げ、もう動くものは自分たちだけだと確認すると、
糸が切れた人形のようにアサシンはその場に崩れ落ちたのだった。
「あの時、死んでしまったかと」
プリーストはもう一度聖域を広げた。
アサシンの細い体には細かい傷が未だ癒えきれずいくつも浮いていて、
起き上がる力すら回復していないらしい。
「テレポートなりなんなり、あったんだ。確かにすぐに判断を下せなかった僕が悪かった。
でも、毒薬を飲むなんて…命を粗末にするにも程がある」
そこまで言って、はっとプリーストは口を噤む。
自分のためを思ってやってくれたのは痛いほど良くわかっている。助けられたのも事実だ。
しかしあまりのことに、つい苛ついた声が出てしまい、プリーストは猛省した。
こんなことになったのは自分が不甲斐ないせいで、この子に八つ当たりをするのは皆目見当違いだ。
「…あんな思いはたくさんだからね。もう二度と、僕なんかのために、あんなことはしてはいけないからね」
腐った血と体液に汚れた金髪を言い聞かせるに撫でると、
アサシンはとろんとした目でぼんやり何か考え込み、やがてゆるゆると口を開いた。
「おれ は」
喉がげほ、と悲鳴を上げ、小さな声は掠れて痛々しい。
制そうとする手を、まだ力の入りきっていない手が弱々しく握る。
温かな手からすっと伸びるその指に、そうっと敬愛のキスが押しつけられる。
痛みに震え、あちこち裂けた唇の柔らかさに思わず息が詰まり、
はっと目を見張りアサシンを見やると、薄ぼんやりとした赤い目がそれを見上げた。
「あなたのためなら どうなったって いい」
かすかに笑った顔は青ざめている。
それは思わず目をそらしてしまう程胸を締めつけた。
「なにを、…」
プリーストは、痛みに耐えかね唸るように一言漏らし、
かぶりを振って唇をかみ締めてから、もう何度目かのサンクをはりなおした。
心臓が凍えるほど冷たい手に指を絡め、握り直す。
骨と皮しか無くて、あちこち傷がついていて、こちらの温もりを根こそぎ奪っていくような手だったが、
構わずにぎゅう、と握りしめた。
それだけで、アサシンが幸せそうに目を細めるものだから、
詰まった言葉の先は、笑顔の下で飲み込むしかなかった。